イケメンさんとトラブル

「布団が吹っ飛んだ!」


「ぶっ!」


俺のダジャレを聞いた不破さんは何故かゼリーを吹き出した。


「うわ!?どうしました!?」


「誰のせいですか!急に大声を出さないでくれせんか!」


「ごめんなさい……」


どうやら吹き出す原因は俺の声にびっくりしたみたいで、俺は素直に謝った。


「だたでさえ声が耳障りなのに、分かっていますか?」


「はは……肝に銘じます」


不破さんに出会ってもからそろそろ一周間が過ぎた。


最初は俺を無視するような不破さんも、今はこうして話せるようになった。


こうして毒を吐くようにもなりたが、俺からすれば信頼の証みたいな感じなのでちょっと嬉しく感じる。


「って、どういうことですか?お笑い芸人にでもなるつもりですか?」


「さすがにそれはないかな?」


「もし本当にその気になったらそれでこそお笑いですが」


どうやら俺のダジャレはあまりウケないようで、不破さんはいつもの不機嫌そうな顔で俺を見つめる。


「でもさ、面白いことといえばダジャレじゃん?」


「あなたのその感性に疑問を感じましが、そもそもあなたはなにがしたいんですか?」


不破さんはあんまり乗り気じゃないみたいだが、俺はここで諦める男じゃないんで。


「お金はおっかねぇな!」


「……!」


「椅子に座ってもいいっすか?」


「く……!」


「不破さん知ってます?いつも家に帰りたがる生き物」


「……」


「カエルですって、帰るだけに」


「……ぶっ」


「どうですか、不破さん……」


自信満々で不破さんの方へ見えると、不破さんは俺に背を向けながら震えている。


「……面白くないから……」


「えっ」


「面白くありませんから!」


不破さんは震える声でそう言った。


えっ……これってもしかして……


俺のダジャレがつまなすぎて見るに耐えないってこと!?


「そんな……」


必死に考えたダジャレだけどなぁ……


そこまで嫌われたこのを悲しく感じた俺であった。


すると、不破さんは顔をこっちの戻した。


「あの……大丈夫ですか?」


「なんでも……ありません……!」


そう言われたが、不破さんの顔は真っ赤で、ちょっと涙目に見える。


ま……まさか……!?


俺のダジャレに共感性羞恥してこんなになった?!俺のダジャレはそこまで酷いかよ?!


「ダジャレを封印しようかな……」


「……二度と世にも出さないでください」


「すみません……」


俺の存在しなかったお笑い芸人になる夢、見事に破れたり。


「あなた一体あんのつもりですか、ウケないダジャレを言い出して」


不破さんに睨められて、俺はダジャレをする原因を思い出す。


不破さんに出会って一週間、俺は不破さんの人柄を色々と理解した。


冷たい人だが、なんだかんだ聞き上手で、俺の話にも乗ってくれる。


俺たち出会いは出会いで、だからそうしてくれる不破さんは優しい人だと思う。


でもそれ以上に、俺は不破さんから寂しさを感じた。


ゼリーのことといい、そもそも人から離れて屋上で食べるとこといい、不破さんは色んな物を諦めている気がする。


もっと正確にいうと興味がない、全く自分を語れない不破さんはまるで生きていればどうでもいいよな気がした。


それに、俺は不破さんに出会ってから、一度も彼が笑う姿を見たことがない。


微笑むことはするが、楽しそうに笑うことは一度もない。


もし不破さんから目を離したら、彼はどこかに消えそうな気がした。


そんな心配した俺は、不破さんを笑わせるためにダジャレをした。


「不破さんは、楽しいですか?」


「は?」


「なんでもいいからさ、好きなこととか、やりたいこととか、不破さんの今は楽しいですか?」


「どうしてそんなことを聞くんですか?」


今までこれを気にしていた俺そう言い出した。


「不破さんの顔はいつも寂しそうだから」


俺は一瞬で、自分の行動に後悔した。


「楽しくないですが」


無を眺めるような瞳。


俺の質問を聞いた瞬間、不破さんの目から光が消えた。


その絶対零度の眼差しを見た俺は、言葉を失った。


不破さんこの質問に反発すること自体は想像できた。


怒るとか、呆れるとか、そんなことを考えていた。


でも現実は想像外であった。


「いいことなんて、一つもありません」


不破さんの闇は、俺が思ったより深く、深く。


「クソばっかで、辛いことしかありません」


「……」


「努力は恵まれない、周りは他人に寄生する蛆虫ばっかり、何をしても認められない」


「不破さん……」


「ダジャレ?楽しい?私のことなんも知らない癖に、可哀想と思って英雄気取りで救おとするあなたの方が、面白く見えますよ」


「えっ……俺はそんなつもりじゃ……!」


「来ないで。あなたに出会ってからあなたはずっとそうだ。私はただ庇ってくれた恩があるあなたの話し聞いてあげただけ、あなたと深く関わって、王子様ごっこに付き合うつもりはありません」


「待って!不破さん!」


「さよなら」


俺の呼び止めを聞かずに、不破さんはそのまま屋上から離れた。


「そんなの、寂しすぎるよ……」


俺の絞り出した言葉を聞こえる人は、もういなかった。






次の日の昼休み、俺は心の準備をした後教室から出た。


向かう先は屋上じゃなく、二年生がいる階。


詩織に出会うのは怖いが、でもそれ以上に俺にやらなければならないことがある。


「不破さんに謝らないと」


昨日、俺は勝手に不破さんの心に深入りすぎた。


彼の言う通り、俺は不破さんのこと何も知らない癖に、勝手に触れられたくない物を触れようとした。


誰も人に知られたくないことがある、


俺だって痴漢事件のことを人に知られたくない、傷つきたくないだけじゃない、思い出すだけでも辛いからだ。


でも俺は、無理矢理不破さんの中にいる何かを思い出させようとした。


元通りに戻るとまで望まないが、それでも俺は彼に謝りたい。


強迫性阻害による緊張を抑えながら、二年生の教室の前でうろつく俺。


俺は教室の外、距離もとっている、きっと怒る人はいない。


そう考え、俺はドキドキしながら不破さんの姿を探す。


でもどう探しても、不破さんが見つからない。


「屋上に行ったのかな……いや流石に昨日の後で屋上に行くわけないでしょう」


これからどうすればを悩んでいる時……


「なにクールぶってんのよあんた!」


裏階段の方かな怒鳴り声が聞こえた。


慌てて裏階段の中に覗くと、俺はやっと不破さんを見つけた。


不機嫌そうな女子二人に囲まれた不破さんが。


瞬間、俺は思い出した。


あの時、俺を怒鳴る姉さんや詩織の姿を。


「俺は何もしていない」と、自分を落ち着かせて、俺は不破さんの様子を見る。


「……」


「顔がいいからって、あたしたちを舐めやがって」


「本当、ムカつくやつ」


どう見ても不破さんは女子たちにいじめられている。


「……」


「おい、なんとか言いなさいよ」


「なんで蛆虫の戯言に付き合う必要があるんですか」


「はっ!?」


「てめえ、言いやがったな!!?」


「不破さんを助けないと」、俺はそう思った。


いくら相手は女の子とは言え、二対一は危ない。


これ以上煽ると、不破さんは危険な目に遭う。


早く割り込んで、彼らを止めないと。


だけど……


「はぁ……はぁ……」


冷や汗が止まらない、呼吸が辛い。


『ダメだろ、そんなことしちゃ』


心の恐怖が俺を止めた。


『考えてみない?もしお前が割り込んだら』


はぁ……はぁ……


『あの女子たちがお前に乱暴されたとでも言い出したら、お前は今度こそ本当に終わるんだよ』


そんなことはない、俺はただ不破さんを庇うだけ。


『お前がそのつもりでも、他人はそうとは思わないんだよ、初めての経験じゃないでしょう』


でも、不破さんは……


「やっばりあんたはあたしらのことバカにしてんだな!」


「人とやりまくった癖に、何あたしらよりいい子ぶってるんのよ!」


「……!」


彼女らの言葉を聞いた不破さんの顔は、昨日のような絶対零度な無表情になった。


「どいつもこいつもなにもしらない癖に……」


「何?!やる気!?」


「私を決めつけるなああああ!!!!!!!!」


叫び声。


そうしか思えなかった。


あのクールな不破さんが、今までにないほどの大声を叫んだ。


不破さんには、こんな激情があるんだ。


びっくりしたと同時に、俺は何だか頭がスッキリした。


「うるせえんだよあんた!」


逆キレした一人の女子が、不破さんを殴りかかろうとする。


危険に察知した不破さんは反応できず、目を閉じるしかできなかった。


『お前!?やめろ!』


「危ない!」


「パッ」音がした。


「あなた……!?」


不破さんの前で立った俺は、代わりに拳を受け止めた。


痛い、だけど、それよりも……


「不破さんに何しようとした……」


不破さんに手を出した女子が許せなかった。


冷たいだけど優しい不破さんを傷つけようとした彼女たちが許せなかった。


俺は今までにないほど眉間を寄せ合って、女子たちを睨む。


「なによあんた……ひぃ!?」


「す……すみませんでした!!!!!」


そんな俺の顔を見た瞬間、女子たちは悲鳴をあげながら逃げ出した。


「怖い顔をしていてよかった……」


多分俺は生まれて初めて自分の顔に感謝した。


女子たちを見送った後、俺は力が抜けそうになった。


そして、不破さんは怒った顔で俺を見つめる。


「あなたの助けなんで求めてない」


「……」


「まだ私の王子様にでもなったつもりですか?ふさけないでくだ……えっ」


今の俺を不破さんを答えられない。


なぜなら強迫性阻害のせいで俺は今でも怖くて死にそうである。


『終わったら』


うるせえ。


『暴行罪おめてとう』


暴行したのは俺じゃなく彼女らでしょう。


『それはどうかな?』


「大丈夫ですか!?」


「はぁ……はぁ……大丈夫……大丈夫……大丈夫……大丈夫……大丈夫……大丈夫……大丈夫……」


「あなた、先から何して……」


「ごめんなさい!!!!」


「えっ……待ってください!」


不破さんが俺の状態に気ついたとわかったとこで、俺は慌てて逃げ出した。






「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫」


まだショックに立ち直ってない俺は、屋上まで逃げ込んで、体育座りながら頭を抱える。


他人に触れてしまった、訴えられる。


色んな妄想が脳内で湧き出る。


恐怖のあまり震えが止まらない。


人生が終わった気分になった。


「やっと見つけました」


隣でポンと、誰かが座った音がした。


「不破さん……?」


「逃げ足だけが早いですねあなたは」


隣に座った不破さんは、じっと俺見つめる。


彼の顔は不機嫌でも怒りでもなく、初めて見た心配な顔だった。


それを見て、俺の心はなんだか落ち着いた気がする。


本当、不破さんは不思議な人。


側にいるだけで、俺自分で居られる。


「先は……ごめんなさい、助けてくれたのに……」


不破さんは謝りながら俺の顔を見て、表情がさらに辛くなった。


もしかしたら、不破さんは先までの精神崩壊は自分がきつい言葉をかけたせいだと思っている。


「いえ、不破さんは何も間違ってありません」


不破さんには、そんな顔をして欲しくない。


「勝手の行動をしたのは事実ですし、俺が先まで変になったのも不破さんのせいじゃない」


バレたくなかったが、もう無理があるみたい。


「俺はさ、人見知りっていうか、ちょっとした精神病持ちで、他人に近つけすぎると、その、先までみたいにパニックしてしまうんです」


「えっ」


「不破さんは大丈夫みたいですが」


俺の話を聞いた瞬間、不破さんはすぐ離れようとしたが、俺は呼び止めた。


やはり不破さんは優しい人だ。


「だから、先までのことは全部俺の自業自得、そんなやつに失望したかな?」


俺は変なやつだと知ったら、もう側に居たくないよね。


「そんなことを隠してる癖に、昨日は勝手に不破さんの心に深入りしようとしました、だから今日はずっと謝りたかったんだ」


俺は自虐的に笑った。


「昨日はごめんなさい」


「なら、なんで私を助けようとした」


俺の言葉に、不破さんはなんの反応も示せなかった。


冷静で、そして直接で、なにかの試験官のように俺に質問する。


俺の答えはただ一つ。


「やはり俺、不破さんには笑ってほしいです」


不破さんには笑ってほしいから、不破さんを庇おうとした。


不破さんには笑ってほしいから、敵から守りたかった。


いいことがないなんて、寂しすぎるよ。


せめて俺にとって、不破さんに出会ったことはいいことだった。


一瞬だけでも、強迫性阻害から離れることができた。


だから俺は不破さんにも、楽しい何かを見つけ出してほしい。


「聞かないのですか、私がいじめられた理由」


「えっ?聞きません、もし何かがあったら手助けしますが、それでも言いたくないなら、俺はなにも聞きません」


不破さんの反応から見るに、きっとそれには深い事情があるから、言いたくないなら聞かないつもりである。


とはいえ、不破さんが人にいじめられに値することをするようには思えないかな、俺は全面できに不破さんを信頼する。


「はぁ……」


俺からの答えを聞いて、不破さんは深くため息をついた。


「あの……」


「許してあげます」


「え?」


「昨日のダジャレみたいのは勝手にすればいい、私を楽しめたいならそうしなさい」


「私はそんなことで笑わないけど」と、不破さんは補足する。


「本……本当ですか?」


「でもこれ以上深い入りするのは許しません」


「不破さん……!」


不破さんの言葉を聞いて、俺は嬉しさのあまり泣きそうになった。


「なんてそんなに嬉しそうなんですか!?」


「だって……」


てっきり嫌われると思った。


昨日のことを含めて、強迫性阻害がバレた俺を受け入れると思わなかった。


「誤解しているみたいですが、あなたが勝手についてきているだけですからね、私はあなたと深く関わる気はありません」


「うん……!それだけで十分です……!」


「はぁ……本当に変な人……」


不破さんは顔を逸らし、頬を掻きながらそう言う。


「それに助けてくれた恩もありますし、ありがとうございます、日向さん」


「不破さん!!!!!!!!」


「泣きながら近つかないでください!」

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