イケメンさんと猫
「お買い上げありがとうございました」
店員さんの声を背に、俺はコンビニかな離れる。
「ふっ……よし」
肉まんが入ってるコンビニ袋を見て、俺はほっとした。
町に戻ってからもうすぐ一周が過ぎる、今日の俺も帰ってからの日課をこなした。
「先の俺、普通だったよね」
家からちょっと遠いコンビニで商品を買う。
ぱっと見普通なことなんだが、俺からすれば普通に見えるだけでも精一杯なんだよね。
そんな感じなリハビリ活動だったが、今日の俺は本当なんも心配せずに普通に肉まんを買った。
「本当に、不破さんに感謝しなきゃ」
こうなった理由は一つしか思いつかない、不破さんとの交流。
不破さんという他人と普通に話せることによって、俺の自信が少し回復したと思う。
自分の成長にウキウキになった俺は肉まんを抱えながら帰路についた。
そうだったが、俺は目の前でとある背中が見えた。
「不破さん?」
いつものフリフリなパーカーが見えた俺は、一瞬でそれが不破さんってわかった。
不破さんもここら辺に来るんだ……って思いながら、俺は不破さんに挨拶すべきかを考える。
不破さんの人柄からすれば、屋上以外のところで挨拶してもきっと無視されてしまうし、そもそも俺たちの付き合いってそこまで深くない。
とはいえ、俺は不破さんとの接点を増やしたい。
そんなことで悩んでいたら、不破さんはゆっくりと隣にいる路地裏に入った。
「えっ」
挨拶しない方に偏る俺だったが、不破さんの後ろについていくことにした。
知ってる人が危険そうな路地裏に入ったら、心配するのは当たり前だと思う。
路地裏に入ったのはいいが、今度は不破さんの居場所がわからなくなった。
暫く探し回ったが、中々見つからない。
「よしよし……」
とある分岐点に経過した時、俺はよく聞く低い声が聞こえた。
それになんだかいつもよりも優しく聞こえた。
息を抑えて声の方へ向かうと、そこは行き止まりだった。
ダンポールの前に、フリフリのパーカーを着てる不破さんがしゃがみながら何かを抱えてる。
「ニャン〜」
「よしよし……いい子」
よく見ると、不破さんの腕の中には猫が居た。
そこそこ大きくて、毛が真っ黒な黒猫。
そんな猫は不破さんに撫でられて、気持ちよさそうに目を閉じる。
「私はここに居ますから、あなたは一人じゃない……」
ダンポールと猫、隣に空きの猫缶が置いてある。
この状況を見ればわかる、彼は捨て猫のようだ。
そしてそんな猫を不破さんは保護しようとしている。
「やはり不破さんは優しいなぁ……」
漫画のよくある展開で、雨の中で不良が捨て猫に傘を差す。
俺は目の前にある光景に似たような何かを感じた。
不破さんはクールな人だけど、心まで冷たい人じゃない。
「一口、吸ってもいいですか?」
「え?」
そう言い出した不破さんは猫を抱え上げ、顔を猫の腹に嵌める。
「すー、はー」
あの不破さんが、思い切り猫を吸っている。
ちょっと不思議な光景だけど、俺は意外と安心感を覚えた。
中々自分を語らない不破さんにも、こんな欲があるんだなって。
「ちょっと、くすぐったいですよ」
不破さんの猫吸いに抵抗する猫が不破さんの顔を掻き回す。
そんな猫に、不破さんは不満そうな声で猫の頭を乱暴に撫でる。
「帰ろ……」
目の前の光景を見て、俺は静かに帰ることを決意した。
見てはいけないものを見たというか、不破さんの尊厳が危ないというか。
とりあえず不破さんのイメージを守るために、俺は身を引くことにする。
「ガン!」
としたいところが。
後退する俺の足は思い切り壁の水管にぶつかった。
「誰!?」
後ろに振り向く不破さん。
「あなた……」
「こん……こんにちは……」
彼の顔はまるで鬼のように怒りが溢る。
「あなたはストーカーにでもなるつもりですか!?」
「すみません……」
鬼の様相で問いかける不破さんに、正座した俺は全てを話した。
「本当にたまたま路地裏に入る不破さんを見ただけなんです……変なことをするつもり全くありません……」
「それはどうですかね、人のことを覗いて」
「返す言葉がありません……」
不破さんに怒られて、俺は涙目になりそうだった。
「どこまで見ました?」
「え?」
「どこまで見ましたって聞いています!」
「猫を撫でるとこから、猫吸いするとこまで……です……」
「なっ……」
俺の告白を聞いて、不破さんの顔は真っ赤になった。
「私が猫を抱きつくとこを見ました!?」
「はい……」
「私がすーはーすーはーするとこを見ました!?」
「はい……」
「私が変質者みたいに猫を堪能するとこを見ました!?」
「あの……俺が言うことじゃないですが……もう自分を辱めるのやめませんか……?」
「はっ!?」
「すみません!」
覗き見して本当にすみませんでした!
そんな思いが一心で俺は必死に不破さんに謝る。
「はぁ……あなたって人は……」
「うっ……」
ため息をつく不破さんなんだが、そうした後不破さんは猫の方に戻って猫を撫でる。
「あの……」
「誰にも言いませんよね」
「はい?」
「あなたが見たことは誰にもバラしませんよね!」
「バラしません!そもそも友たちもいませんので!」
「それはそんな大声で言うことじゃないですが……」
「はぁ」っと、もう一回ため息をつく不破さん。
「そこまで言うのなら許します」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「誰にも言わないでくださいね!」
「はい!承知しました!」
「調子だけがいい人ですね……」
そう言った後、不破さんは黙って猫と遊ぶのを集中する。
どこから持ち出した猫じゃらしを振って、猫は楽しそうに猫じゃらしに追いかける。
微笑ましい状況だが、不破さんは無表情のままそれをやってるので、中々変な光景になった。
「あの……」
「なに?どうしてまだいるんですか?」
「はは……本当に容赦ないですね」
「誰のせいですか」
「はい……」
どうやら不破さんの怒りはまだ抑えていないみたいだが、ここまで来た以上俺は先まで我慢した思いを話すことにした。
「猫と遊ばせてくれないかな?」
「は?ストーカー行為の続き?」
「本当に猫と遊びたいだけなんです!」
不満そうな目で俺の顔を見つめる不破さんだが、暫くした後彼は猫じゃらしを渡した。
「勝手にすれば」
「ありがとうございます!」
許可された俺は猫じゃらしをもちながらウキウキと猫に近つく。
「シャア!」
近つくと、猫は俺を思い切り威嚇する。
毛がまるで立ってるようで、まさに怒髪衝天そのもの。
「そんな……今度こそ大丈夫と思ったのに……」
何を隠そう、俺は大な動物好きである。
だけどなぜか俺を見た瞬間、動物たちはみんな逃げるか俺に威嚇する。
こうして、動物好きなんだが、俺は生まれてから一度も動物に触ったことがない。
不破さんに慣れてそうだからいけると思ったが、やはり俺じゃ駄目だったみたい。
そんな俺を見て、猫は不破さんの方に逃げた。
「何やってるんですかあなたは……」
猫を抱きしめて、信じられない顔で俺は見る不破さん。
「わさとじゃないです……なぜか動物はみんな俺のことが嫌いみたいで……」
「なんとなく理由がわかるんですが」
「ですよね……」
「整形外科へ行きましょう」
「そこまで言われると普通に傷つきます……」
何もできず落ち込んだ俺だが、不破さんは「面倒な人……」って言いながら俺に近つく。
「この人は変人だけど、怖い人じゃありませんので……」
「え?」
「私が猫を抑えるので、あなたは勝手にやりなさい」
「本当ですか!?ありがとうございます」
「はいはい、そういうのはいいですから」
不破さんは猫を掴みながら俺の方へ手を伸びる。
俺は恐る恐る猫を触ろうとしたが、手が近つくと猫が「シャア!」って威嚇する、触ったら噛まれるような勢いで。
「どうしよう……そうだ!」
俺は思い出した、そもそも外に出た理由。
俺はコンビニ袋から先買った肉まんを持ち出し、一口サイズのパン生地を猫に渡す。
力つくは駄目なら、食べ物誘惑するしかない。
「ニャン……」
最初は戸惑ったが、肉まんの香りにやられたようで、猫は肉まんを食べ始めた。
「よしよし、まだあるんですよ」
段々と、猫は俺の手に抵抗しなくなって、餌つけは上手く行ったみたいだ。
「これならいけるかもしれない!」
余った手をもう一回恐る恐る猫に近つくと、今回は上手く猫の頭に触れた。
「不破さん!俺触れましたよ!猫の頭を!」
「そうですね」
「初めて猫に触れたんです!嬉しすぎで泣きそうです!」
「私はとっくに触ったんですが……」
「それはそうですけど!」
不破さんの容赦ない言葉にちょっと落ち込みそうになったが、こうしてできるのは不破さんのおかげだ。
「ありがとうございます!おかげさまで猫を触れようになりました!」
「無理矢理猫に乱暴しようとしたようにも見えますが……」
「それはそうですけど!」
嫌々な猫を触ろうとしたので似たようなものですが!
「不破さんは本当に容赦ないですね……」
「そういう性格ですので」
無表情のまま容赦ないの言葉を吐く不破さんですが、そんな人でも……
「猫吸いするんだよね……」
「はっ!?何か言いました!?」
「すみません、なんでもありません!」
「全く……肉まんを貸してくれませんか?」
「不破さんも餌つけします?」
「はい……猫が嬉しそうに食べるので」
肉まんを不破さんに渡し、俺は不破さんからの肉まんに夢中の猫の背中をこっそり撫でる。
「この子はいつからここにいたのですか?」
「……二週間前から付き合っています」
「不破さんは優しいですね」
「そんなのかありません、ただ境遇が気に食わなかったでだけです」
「この子に名前がありますか?」
「ない……付けていないので」
「そうですか……」
なんだか猫のことが気になたので、俺は不破さんに猫のことを問いかけ始める。
「どうやって彼のことを見つけたんですか?」
「たまたま出会ったんです、彼が捨てられるところ」
「え……」
そう言って、不破さんは苦渋な顔になった。
「こんなに可愛い猫すら、人は簡単に捨てる」
「……ひどいですね、不破さんは彼を拾いませんか?」
俺の質問を聞いて、不破さんはさらに辛い表情になる。
「私のマンションは動物禁止ですので……それにあいつも……」
「……」
「そんなことを聞いて、あなたこそ拾いませんか?」
不機嫌な顔の不破さんを見て、俺は考える。
今の俺は姉さんを邪魔している身、そこに猫が加えたら……
「ごめんなさい、俺も無理です……」
「はぁ……なんですかあなたは」
嬉しそうに不破さんに甘える猫だけど、不破さんは彼と真逆な辛い表情でいる。
「誰も自分勝手で……結局、この猫はいつも一人ぼっち、裏切られて、辛い環境に囚われて……」
「私みたいに……」と、不破さんは小声で呟いく。
「でも俺たちがいるんじゃないですか!」
「はっ?」
「俺たちが彼のこと気ついたんじゃないですか!ならば俺たちでこの子を守りましょう!」
不破さんの顔があまりにも辛くて、見ていられない俺はそう叫んだ。
「毎日とは言えないが、俺は毎週この子のことを見に来るから、俺たち一緒にこの子をなんとかしようよ!だから……」
俺は不破さんの手を握って、不破さんの目を見つめてる。
「絶望しないでください!だってこの子は一人じゃないでしょう!」
不破さんは何も返事せず、顔を逸らした。
「不破さん……?」
「……なして」
「え?」
「手を離して」
「あっ、ごめんなさい」
「なにも知らない癖に……」
不破さんはブズブズと何か言ったが、俺には聞き取れなかった。
「あの……」
「あなたがそうしたいのなら勝手にしたら、私には関係ないので」
「うん!勝手にさせてもらいます!」
「うるさいやつをほっときましょう、よしよし」
「ニャン!」
ああいう冷たいことを言った不破さんなんだが、彼の猫に向かう視線はなんだか先より柔らかい。
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