イケメンさんと昼ご飯

「不破さん!こんにちは!」


「……まだあなたですか」


3日目に学校の屋上に到着、俺はワクワクしながら不破さんの隣に座る。


昨日、不破さんからの「まだ明日」をここにいていいゴーサインと思う俺は、今日は思い切り不破さんとお話ししようと思う。


「今日の天気はいいですね、雲がないし温度もちょうどよくて」


「そうですか……」


「それにしても新学期は辛いですね、課題があまり追いつかなくて、話を聞くだけで精一杯ですよ」


「別にそこまでじゃないと思いますが……」


「……」


「……」


話が続かない!!!


それもうそうか、今まで友たちをろくに作ったことがない俺に話題作りなんて無理がある。


気まずく横を見ると、不破さんは無表情のままゼリーを啜る。


二人きりなのに、話題が無くでも平常でいられる。


陰キャの俺にはできない芸当、そんなメンタルにちょっと羨ましく感じる。


ゼリーを啜るとこを見て何だか腹が減ったので、俺は用意したご飯を持ち出す。


そこには、俺が今日のために用意した秘密兵器がある。


「不破さんはあのゼリーが好きですか?毎日啜ってるみたいで」


「いえ、普通ですけど」


「俺ちょっと気になって、スーパーで買ってきたんですよ!」


「じゃん!」と、意気揚々と今朝わさわさスーパーで買った同じブランドのゼリーを持ち出しtして不破さんに見せる。


そんな俺を見て、不破さんは呆れた表情になって


「あなた……バカですか?」


「元気だけが取り柄なんで!」


「誇ることじゃないですが……」


ジト目の不破さんは「はぁ……」とため息した後ゼリーを啜る。


「別にいいですが、オススメしませんよ、ゼリー」


「えっ」


「普通に美味しくないので」


「毎日啜ってるのに……ですか?」


「はい」


不破さんから意味不明のアドバイスを受けて、さすがにそれはないと俺はゼリーを啜ることにした。


何ことも試しが大事だからな。


「いただきます!」


ゼリーの蓋を開け、一気に中のゼリーを飲み込む。


「……ゲホ!ゲホ!」


その結果、不破さんの言う通り不味かった。


正直このゼリーが不味とこを想像したことあるが、それはただ味がしないだけだと思った。


けど現実はその真逆、びっくりするほど甘い、それも添加物的な劇的甘さ。


一口飲んだだけでその甘さに喉がやられそうになる。


まるで何かの原液を飲んでるみたい。


「言ってたでしょう、美味しくないって……」


「ゲホ!……そん……そんなことない……ですよ?」


「これはエナドリみたいなものですから、嘘つかなくていい」


そんなこと言いながら、不破さんは相変わらずゼリーを啜ってる。


当たり前のようにこのゼリーを啜る不破さんを見て、俺は何だかやる気が湧いてきた。


「ごくごくごく!」


「おい!バカ!」


思い切った俺は一気にゼリーを飲む干す。


喉が焼けそうになったが、それでも飲むのやめない。


「ゲホ!……おいし……いです……ゲホ!ゲホ!」


「なんですかあなたは!早く水を飲んでください!」


ゼリーに喉がやられた俺を見て、不破さんは慌てて自分の水筒を俺に渡した。


自分も水筒を持ってる……と言いたいが、そんな余裕がない俺は有難く水筒を飲むことにした。


男同士だし、別に気にすることないよね?


「……あー!スッキリしました!ありがとうございます!」


「本当に、一体なんなんですか……あっ」


俺から水筒を返してもらった不破さんは飲み口を見って、急に顔真っ赤になった。


「なん……」


「どうしたんですか不破さん?も……もしかして俺水筒を汚れた?」


「そんなじゃないから!」


どうやら俺が何かやらかしたじゃないみたいだけど。


不破さんはそんな俺を見て、不満そうに「なんなんですか……」ぶつぶつと何かを言った、よく聞き取れないが。


「すみません……?」


「なんもないから!わかりました?!」


「はいっ!」


これ以上追求すると怒られそうなので、ほって置くことにした。


「そもそもなんて無理矢理飲んだのですか!バカですかあなたは!」


まだ怒ってる不破さんにそう言われたので、俺もなんでそんなことしたのかを考え直した。


正直どうしてこの行動を取ったのかは分からない、ただ当たり前のようにゼリーを啜る不破さんを見て……


「……当たり前のようにゼリーを啜る不破さんを見て、甘えてはいけないと思いました」


「は?」


「何だか不破さんは頑張ってるなぁって、俺も不破さんに負けないようになぁって、変ですよね」


ゼリーを飲むだけなのに、どうしてこんなことを考えたのだろう。


でもこのゼリーを飲むには、不破さんは不破さんなりに苦労したと思う。


「……」


「不破さん?」


「あなた、変人っていう言われたことあります?」


「ありますが……?」


「……そう」


俺からの答えを聞いた不破さんは、大きくため息をついた。


「これは食べてください、口直しにに合うので」


呆れた不破さん「手を出して」って言った後、昨日と同じ飴を渡した。


「ありがとうございます……」


俺が飴を口に入れた後、不破さんも自分のゼリーを飲み干し、もう一個の飴を持ち出した。


俺は黙って不破さんと一緒飴を食べる、昨日の言うとりのしょっぱい味が口の中で広がり、甘い味を書き換える。


自然な感じで飴を用意する不破さんを見て、俺はこれが不和さんの日常だと感じとれた。


その同時に、俺はそうする理由に興味を持った。


「不破さんはなんで毎日このゼリーを飲むですか?それも三パックで。実は癖になる味だったりします?」


「そんなことない、いつ飲んでも最低な味」


飲みしたゼリーのパッケージを見て、不破さんは眉間を寄せた。


「ただゼリーは食べやすい、そしてゼリーの中でこれが一番栄養価値が高い」


「え?」


その言い方だと、不破さんにとってこれはご飯じゃなく、ただの栄養補給だけ。


「もっと美味しいもの、食べないですか?」


「興味ありません。私は美味しいからご飯を食べるじゃなく」


そう言って、不破さんはパッケージを握り潰す。


「動くために食べてるだけです」


それは寂しすぎるよ。


本当になんの思い入れもないように、無表情のままの不破さんを見て、俺はそう思った。


過去一年間、俺はたくさん辛い思いをした。


そんな俺をもっ支えたのは、お婆ちゃんの存在。


その次は、お婆ちゃんの料理。


どんな悲しい時でも、食べても味がしないと言われるほどの辛い時でも、やはり美味しいものは美味しい。


料理は俺は支えてきた大事な一部。


そんな素晴らしいことをない物のように扱うのは、俺にとっては辛くって、寂しすぎること。


「……不破さん」


「なんですか」


俺は買ってきたサンドイッチを不破さんへ渡す。


「どういう意味?私を憐れるつもりですか?」


不破さんは今日一番不機嫌な顔を見せる。


「……」


「……」


「ゼリーを飲んで腹がいっぱいなので、代わりに食べてくれませんか?」


嘘ではない。

あの癖の強いゼリー飲んだせいで、俺の胃はしばらく何も受け付けなくなった。


でも不破さんに食べさせたいのもまだ事実。


憐れみからではない。


俺は料理を食べる幸せを、不破さんに裾分けたいんだ。


「晩御飯はもう用意したし、明日で食べるにはさすがに無理かと……」


「……」


「ダメ……ですか?」


恐る恐る不破さんに聞くと、不破さんはまだ大きくため息をついた。


「分かりました、今日だけですよ」


「……!本当に!?」


「なんでこんなに嬉しそうなんですか……」


不破さんは嫌々そうに俺からサンドイッチを受け取る。


そして無言でサンドイッチを食べ始めた。


「……」


「……」


「……」


「美味しいですか?」


「……美味しい」


「なら良かったです……」


「……」


「……」


「じっと見るのをやめてくれません、食べ辛いですけど?」


「えっ」


「えっ、じゃない。私が食べるとこはこんな面白いものですか?」


「あはは……」


正直言って、結構面白い。


不破さんは律儀で、それに意外と口が小さく、食べる時はハムスターの様に一口一口が小さい。


今まで身の回りの人はみんなは豪快なんで、食べる時は一気にたくさん食べておかわりもするような方ばっかりで、俺にとってこういう小動物みたいな食べ方は珍しい。


何より、イケメンで凛々しい不破さんがこんな食べ方するのは意外だった。


はっきり言って、結構可愛い。


とはいえ、口に出したら絶対怒られるので、この思いは心の中にしまとっく。


「あなた、変なこと考えてるでしょう」


「そ……そんなことないですよ……?」


「ニヤニヤで変な顔してました」


「えっ!?俺そんな顔してましか!?」


「あなた、わかりやすいって言われたことあります?」


まだ不機嫌になった不破さんは、俺の頭をチョップする。


「イタ!?ごめんなさい……」


「本当に変な人……」


頭を抱える俺を見て、不破さんは小さく微笑んだ。

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