イケメンさんと出会い
「あっ……」
ドアを開けた瞬間、イケメンが見えた。
身高は俺と同じぐらいで、スレンダーな体付きをしている、短い黒髮をしている男の子。
「ヤバイ」って、俺はそう思った。
先までパニックしているのに、こんな状態で人に出会ったら……!
これ以上醜態を晒したくないので、慌てて後退しようと思ったが。
俺が動くより先に、男の子は俺に目を向けた。
変わらない表情、どうでもいいって感じな光のない目、まさにクールイケメンそのもの。
女じゃない俺でも、見ただけでドキドキした。
でもその整えた顔以上の何かが、俺を引き寄せる。
「え……」
何も思わない。
俺は他人に顔を見ているのに、心の声は何も言わない、何の過敏反応もしない。
俺は事件から初めて他人に顔を見て、心が安心感を抱いた。
「……」
戸惑ってる俺を置いといて、イケメンは無表情のまま何もせずに目を逸らした。
まさにクールイケメンらしいリアクション。
「どういうこと……?」
今までにない事態を目にした俺は、このイケメンさんに興味が湧いた。
イケメンさんの位置の向こう側に座り、俺はバレない様に買ってきたパンを食べながらチラチラ
とイケメンさんを覗く。
イケメンさんは何も気にせずに、手にあるゼリー飲料を飲み続ける。
よく見ると、イケメンさんは色々とおかしい。
先はイケメンさんのことをスレンダーと言ったが、それはあくまでパッと見だけのこと。
天気は暑くなっているのに、イケメンさんの上半身はフリフリなパーカーに包まれてる。
それだけでなく、ただの飲み物だと思ってたゼリー飲料だが、イケメンさんは三パックのそれを持ってる。
まさかそれだけで昼ご飯を済ませるつもりじゃないよね……?
ちょっと心配になったが、それよりやはり何度イケメンさんを見ても、心は反応しない。
俺の心情はびっくりするほど穏やかで、何だか自分は自分でいられる。
こんな風に覗いていたら、イケメンさん俺の方に歩いてきた。
「怒られる……!?」と心配したが、どうやらそうじゃないらしい。
途中に向きを変えたイケメンさんは、隣にいるドアの方に向かう。
イケメンさんなもう教室に帰ることを知り、俺の心のどこかが落胆した。
もうちょっと観察したいっていうか、一緒に居たい。
自分でもどういうことなのかが分からない、でもイケメンさんの横顔を見て俺は寂しさを感じた。
そんなことを考えながら、イケメンさんが俺の前に通りすがるその時……
「きゃ!?」
急に、高い声が聞こえた。
その同時に、イケメンさんは俺の方へ転びた。
「危ない!」
このままイケメンさんは怪我をしてしまう、俺は立ち上がりイケメンさんを受け止める。
「軽い?」
イケメンさんを捕まった瞬間、俺はそう思った。
身高は俺と同じぐらいなのに、体重は心配するほど軽い。
やはりゼリーだけではダメだなぁ……まるで女の子み……
「あの……」
呑気なことを考えていたら、イケメンさんは不機嫌そうの声で俺を呼んだ。
「あっ?!すみません」
慌てて手を離すと、イケメンさんはやはり不機嫌そうな顔で俺の顔を見る。
「わざとじゃないです……ちょっとぼーとしただけで……すみません」
今時男同士でもセクハラは成立するからな、勝手に触れたことは謝らないと。
「……」
でも俺がそう謝っても、顔がちょっと赤くなったイケメンさんは相変わらず不機嫌そうな顔。
もしかして、俺のせいで怪我した?
「あの……大丈夫ですか、怪我とかない?」
「はぁ……」
心配する俺を見て、イケメンさんは何かを諦めた様でため息をついた。
「あの……」
「大丈夫です、おかげさまで」
透き通る様な声が聞こえた。
低めなハスキーボイスだけど、その落ち着かさが何だか心の中に染み込む。
ちょっと癖になると言うか、安心させると言うか……
「綺麗なお声ですね……」
「はっ!?」
そう考えていたら、イケメンさんの顔はさらに真っ赤になった。
「え……」
「なに言ってるんですかあなた!?」
なに言ってるって、俺は何も……
「もしかして、声に出た……?」
「……!」
俺の答えを聞いて、ちょっとびっくりした表情になったイケメンさんはさらに不機嫌な顔になって俺を睨める。
まるで信じられないものを見た様な感じだ。
流石にいい歳して思ってることを口に出したことを恥ずかしく感じながら、イケメンさんに謝ろうとしたら。
イケメンさんは振り向かずに走って行った。
「やっちまった……」
初対面な人に変なことを言われたら、誰でもそんな反応するよね。
屋上に取り残された俺は、暫く一人で落ち込んだ。
クラスメイトからの視線を我慢しながら、やっとやって来た放課後、俺は即帰宅した。
ベッドに倒れ込んで、俺は今日の出来ことを思い返す。
自己紹介の失敗、疲れる授業、どれも大変だったけど。
「明日はちゃんと謝らないと」
やはりイケメンさんのことは脳かな離せない。
イケメンさんを相手にすると緊張しないだけじゃない。
彼の身には、俺を惹きつける何かを持っている。
「もっと話せるといいなぁ」
彼をもっと知りたい、彼と友たちになりたい、自然とこう考えてしまう。
どうしてなのかはまだ分からない、でもせめて彼と接していれば病気を治すきっかけを見つけ出せるかもしれない。
そんなことを考えていたら、俺は何だかやる気が湧いて来た。
「友たちになるには、もっと自然に振り舞うできるようにならないと!」
彼の前では正常でいられるが、そこに他人が割り込んだらそうでもないかもしれない。
だからそのためのトレーニングをしないと!
「ただいまー」
そう考えると同時に、姉さんは家に戻った。
これがチャンスじゃない?
嫌われてるとは言え、いまの俺は姉さんに世話されてる身。
感謝な気分のおかえりって一言くらい許されてもいいよね?
決めてドアを開けようとする、その時。
『おいおいおい、やめとけやめとけ』
頭の声がやって来た。
……
『やめろ、まだ嫌われるぞ』
一言くらいでいいだろ!
『姉さんを失望させたいか?』
させたくない、だけど……!
気付けば同じ対答を何十回振り返していた。
心の中はこのドアを開けるだけで姉さんに殺されるような気分になった。
怖い、恐ろしい、だけど……
「俺は元の自分に戻りたい!」
思い出す、イケメンさんと二人きり時の自分。
何を考える必要がない、その気分がどれほど楽で自由かを。
俺は、その気分をもっと味わいたい。
「だから邪魔するな!」
思い切りドアを開ける。
ドアの前には、俺を怒鳴る姉さんも、失望する姉さんもいなかった。
あるのは静かな廊下だけ。
そのままリビングへ向かう、姉さんに挨拶するだけ。
これくらいなら大丈夫!
と思っていたが。
その時既に誰もいなかった。
それだけじゃない、テーブルの上には俺の分の晩御飯が置いている。
俺は遅れた。
それもそうよね、頭の中で何十回対答を振り返しているんだ、そりゃ時間が経つよね。
とは言え、さすがに今の俺は姉さんの部屋まで行く勇気がない。
「今度はもっと早く妄想から抜け出せないと……」
俺は脳内で反省会を開きながら晩御飯を食べる。
「よかった、まだいる」
次の日、俺は屋上へ向かうと、やっぱりイケメンさんはそこにいた。
昨日と同じ位置で、同じパーカーを着ながら、同じゼリーを吸っていた。
仲良し作戦開始!なんてバカなことを考えて、俺をイケメンさんから一メートルくらいな場所で座った。
恐る恐るイケメンさんの顔を覗いて見たが、彼の顔から何の不満も見せなかった。
というより、俺がいることがどうでもいいと感じる。
「あの、昨日変なことを言ってすみません……」
「……そう」
相変わらず俺に見向きもしないし、反応も薄い、それでも返事をもらった。
これならもっと話せると思いながら、俺はさらに話かける。
「俺は一年の日向コウ!あなたは?」
「……」
俺は微笑みながら、そう聞いた。
「……」
「……」
返事がこない。
おかしいな?先ちゃんと返事したのに?
話題の問題?
「あなたはいつもここで昼ご飯食べるんですか?」
「……」
「人がいないし、涼しいし、いい場所ですよね」
「……」
やっぱり返事がこない。
イケメンさんの顔を覗いてみると、彼は無表情のまま。
本当に俺のことどうでもいいって思ってるんだぁって、ちょっと落ち込んだ俺だが。
青空を背景にしてそんな無表情のイケメンさんは何だか絵に見るので、それはそれでなんかいいなぁて思ってしまう俺であった。
「ウィーウィー」
そんなことを考えていたら、うるさい音が俺に思考を中断した。
まだ夏じゃないのに、蝿はもう出回っている。
「やはり室外でご飯食べると蝿が出ますね、嫌だなぁ」
蝿は叩こうとしながら、俺はイケメンさんにそう言う。
「……!」
すると、イケメンさんの体は一瞬震えた。
もしかして虫が苦手なのかなって考えていると、中々当たらない蝿はイケメンさんの方へ向かう。
「あっ」
「きゃ!?」
蝿がイケメンさんに触れると、イケメンさんから昨日と同じ高い声の悲鳴が聞こえた。
「昨日の可愛い悲鳴はこれだったのか……」
「……!何か言いました?」
そんなことを呟いたら、イケメンさんは涙目で俺を睨める。
さっきまでの凛々しい顔と違い、何だか可愛く見えるイケメンさん。
こんな人でも明らかな弱点があるんだなぁって、思わず感慨する俺。
「いや……その… …すみません!」
とは言え、逆鱗を触れてしまったようで、俺は慌てて謝る。
「あの……防虫スプレーを持っているので、よかったら使います……?」
身内は虫嫌いが多いので、常に防虫スプレーを持つするようになったが、ここで役に立った。
「……ありがとうございます」
一瞬嫌な顔になったが俺を感謝するイケメンさん、そして素直に防虫スプレーを受け取る。
さすがに先までのことは俺のせいなので、素直にその睨みを受け取ることにした。
とは言え、どうやら俺はイケメンさんの機嫌を損ねたので、ちょっと悲しくなった俺。
「お返しします」
「ありがとうございます……」
落ち込みながらイケメンさんから防虫スプレー貰う。
出会ってから二回もやらかした、これならきっとイケメンさんに嫌われる。
「はぁ……」
すると、イケメンさんは急にため息をついた。
恐る恐る頭を上げると、イケメンさんはどこかめんどくさそうな顔で言い出した。
「不破透……」
「……え?」
「私の名前、不破透、二年生」
いきなりの自己紹介にびっくりした俺。
「不破……さん?」
何を話せば分からないので、とりあえずイケメン……不破さんの名前を復唱した。
「なんですか?」
すると、不破さんはちゃんと答えてくれた。
普通なことなのに、俺は何だか嬉しく感じた。
「不破さん……不破さん!」
「内容がないなら呼ばないでください、うるさいだけです」
嬉しさのあまり不破さんを連呼したが、うるさがられた。
「あっ……すみません」
「……落ち込む顔もやめでください、だたでさえ顔が怖いですから」
「すみません……」
「手は出して」
「はい?」
俺は急な言葉に反応できずフリーズしたが、言われたたままに素直に手を出すと、手のひらに飴が置かれた。
「あげます、ちょっとしょっぱい味がおすすめです」
不破さんは立ち上がり、ドアの方へ向かう。
「暗い顔より笑い顔の方が似合ってますよ」
「えっ」
「……まだ明日」
そう言い残し、「はぁ……なにやってるだ私」って頭を掻きながら不破さんはドアを閉めた。
残された俺の脳はくちゃくちゃになった。
笑い顔の方がいいって言われたのが嬉しくて、それにまだ明日という響きが楽しくて。
先まで怒らせたことを心配していた不破さんは何だかんだ俺を受け入れてくれた気がして、俺は舞い上がった。
「あ……ありがとうございます!」
誰もいない屋上で、俺の声が響き渡る。
今の俺はきっと顔が真っ赤になっただろう。
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