後輩の思い

私、山崎はるきは、先輩のコウのことが好きだった。


自惚れではないが、私は生まれつき他人より整えた顔をしている。


それも誰が見ても「かわいい」って言う程なもの。


親は私のことを溺愛するし、見知らぬ人すら私を見た瞬間「いい子だね」って頭を撫でてくる。


そういうことで、私はみんなに愛される環境で生まれた。


そのまま小学に進み、私は人気者のまま。


私は別に何もしてないのに、女の子はみんな「はるきちゃんかわいいね」って褒めてくれるし、

男の子はみんな「はるきと遊びたい!」って慕ってくれる。


私もそんな扱いに気持ちよさを感じて、完全にハマってしまった。


私はただただ自分な好きなようにやるだけ、そしてみんなは私について来る。


私はすごい人、みんな私のこと好きって言ってくれる。


なんて、自惚れにもほどがあるよね。


こんな感じで、私の行くところは必ず私が中心で、誰も私を構ってくれる。


でも、人の思考は成長するもの。


ある日、私は何故かそう考えた。


「もし私の顔は気に入られてないなら、私はどうなるの?」


そんな風に、私は自分の環境に疑問を持ち始めた。


そう考え始めると、周りのみんなを異質に見え始めた。


あの女の子は私がかわいいから私を誘う、あの男の子は私がかわいいから遊んでくれる。


もし私の顔が変わったら、みんなは今のように気にかけてくれるかな?


正直、私はあの時既に自分の歪みに気ついてた。


でも私はそれを無視した。


何故ならみんなに褒められるのは気持ちいいから。


神になった気分で、どんなおもちゃよりも、どんなかわいい服よりも精神に効いているから。


でもやはり疑問は消えないから、私はちょっとしたモヤモヤを抱えながら成長した。


そして時は進み、私は中学生になった。


私は成長期に入って、体が変化し始めた。


気付けば胸が大きくなり、顔も昔に増して可愛くなった。


この時から、私の世界は変わり始めた。


男の子の視線が変わった。


昔は私の顔に真っ直ぐで、素直な好感を感じられる。


昔のように私と遊んでくれるが、でも今の視線は顔だけでなく、胸とお尻にも視線を感じる。


私はそんな視線にちょっとした不快感を感じた、遊んでくれることは嬉しいがなんか違うって感じがする。


女の子は私を避け始めた。


昔はなにがあっても私を呼んでくれるのに、今は社交辞令が増えて、余所余所しくなった。


例えばカラオケをするが、私が「はるきも行きたい」って言うと、「はるきはちょっと……」って返事が返ってくる。


でも当時の私はそれに気付けなかった、ちょっと変だなってしか思ってなかった。


私は相変わらずみんなの中心だけど、どこか昔と違って、私の気分がちょっと良くなかった。


そんなある日、私はクラスの女子たちに呼び出された。


「私と遊んでくれるかな?」なんて、呑気なことを考えてた。


でもそれは違った。


私は校舎裏に連れられて、女子たちに囲まれた。


さすがの私でも違和感を感じたので、恐る恐る「なにがあったの……?」と聞いてみた。


すると女子たちは怒り始めた、今までにないほどに。


「お前のせいで彼氏と別れた」「何いい子ぶってるのよ」「顔と体がいいだけのビッチのくせに」、女子たちは私が見たことのない恐ろしい顔で私へ罵倒し始めた。


どれも私の身に覚えのない指摘ばっかり。


私は人生で初めて、他人からの敵意に浴びせられた。


その衝撃が大きく、私は今でも彼女らの恐ろしい顔を覚えている。



彼女らの怒りが段々とエスカレートし、そのとき一人が言い出した。


「こんなビッチをぶん殴ろうよ」


震えが止まらない。


死すら感じそうになった私は、恐怖で頭でいっぱいだった。


「誰か助けてください」、動けない唇の代わりに、頭の中で助けを求めた。


映画のような英雄を求めた。


そして英雄が現れた。


「何してるんですか」


そんな時、一人の大男が割り込んで来た。


「やめてください、彼女は怯えてるんじゃないですか」


「日向!?どうしてこんなとこに」「やばい」「逃げるわよ!」、大男が来た瞬間、女子たちの顔は真っ青になり、一人一人慌てて校舎裏から逃げた。


急展開に追いつかなく、ぼっとなっと私に、大男は振り向いた。


そして私は女子たちが逃げる理由がわかった。


彼の顔はとても恐ろしい、先の女子たちに負けないほどに。


どう見ても普通な中学生じゃない、不良でもこんな不良を見たことがない。


私は怯えた、このままだと酷いことされるとパニックした。


でも大男は私の考えと裏腹に、こう言った。


「大丈夫ですか?」


私は彼の言葉を理解できなかった、そして彼はこう言った。


「俺は何もしませんから、怖がらないで……そうだ!」


最初は困った顔でなんとか私に話しかけようとしたが、急に何かいいことを思いついたのように、彼はポケットから何かを持ち出した。


「飴をあげます、美味しいのできっと食べたら落ち着きますよ」


彼は微笑んだ、怖いけどどこか安らぎを感じた。


それが私と日向コウ、お兄ちゃんの出会いだった。


あれから私はお兄ちゃんと遊ぶようになった。


最初はただお兄ちゃんに感謝したいだけだった。


でも気付けば、私はお兄ちゃんの魅力に惹かれた。


たすかにお兄ちゃんは顔は怖い、知ってる誰よりも怖い。


でもお兄ちゃんの心は優しい、それこそ知ってる誰よりも優しい。


その後でも私がいじられてないか心配してくれる。


いつでも私と遊んでくれる、私のわがままを聞いてくれる。


それにお兄ちゃんは男の子だけど、他の男と違う。


視線はいつも私の顔、もっと正確に言うと目しか見ない。


私を変な視線で見ない。


胸やお尻を見る時もあるが、基本私がわざわざ見せてくれる時だし、そのたびにお兄ちゃんの顔が真っ赤になるからわかりやすいし可愛かった。


それだけじゃない。


いつから気ついた、お兄ちゃんは私の顔で私を判断しない。


「はるきは元気でいいな」


「はるきがはしゃぐ所を見てるだけで楽しい」


「はるきからたくさん元気を貰えた」


私をかわいいと褒める時もあるが、それは単純に顔だけじゃなく、もっと奥の何かを褒めてる気がした。


気付けば私はクラスの人と関わることが少なくなった、クラスのみんながちょっと怖いというのが理由でもあるが。


私はこんなお兄ちゃんといるのが好きだった、昔みたいにちやほやされるより気持ちよかった。


自分の歪みを忘れるほどに。


ある日が来るまでは。


中学二年の終わり、期末試験の後、私はお兄ちゃんと二人きりで電車を乗っていた。


あの時はお兄ちゃんといることが嬉しかったな。


でもその嬉しさは一瞬で消えた。


疲れのせいで立ったまま眠れた私は、叫び声に起こされた。


「この人が痴漢です!」


「え?」


回ってない頭を何とか動かし、叫び声の源を見ようとする。


「ひぃ」


私は怖さのあんまりに、脚がカタカタ震える。


理由はただ一つ、叫んでるOLの顔。


必死さだけじゃない、明らかに憎しみが含まれてるその顔。


私は思い出したんだ、あの日私をいじめようとした女子たちの顔。


「どういうこと?私何かした?痴漢?」


寝ぼけた頭をフル回転し、目の前の光景を理解しようとした。


そして私は見えた、OLの尻を触るお兄ちゃんの手。


そしてなにがあったのかがわからない私へ、振り向くお兄ちゃんの顔。


「俺はなにもしていないよね、はる……」


私は今までにないほど怖さを感じた。


OLの顔に続く、お兄ちゃんはとんでもない顔で私を見つめる。


鬼のような、獅子のような。


捕食者の顔だった。


「彼に犯される」って、思ってしまった。


OLの顔に嚇された私の思考は普通じゃなかった。


思い返してみれば、お兄ちゃんの顔は別になんでもない、ただ冤罪された緊張のせいで顔が普段よりちょっと怖くなっただけ。


あの時の感想は全部私の妄想にすぎなかった。


それでも、あの時の私は自分の感想を信じた。


その結果……


「来ないで!変態!」


私はお兄ちゃんを拒絶した。


私の中のお兄ちゃんは、恐ろしい犯罪者に変化した。


あの後、お兄ちゃんはなんども私を会いに来た。


だけど私は逃げた。


怖いから、犯されたくないから、そんな思いで一心だった。


ある日、お兄ちゃんは学校から消えた。


そんなことに安心を感じた私でしたが、でもその安心も直ぐに消えた。


お兄ちゃんは学校から消えた数日後、私は再びクラスの女子に校舎裏に連れられた。


「よく知らないが、あの目障りな日向がやっと消えた、これであんたに復讐できる」って。


そしてあの日、私は女子たちに殴られた。


思い返してみれば、あの時の私は滑稽だった。


女子たちに殴られて、私はそう叫んだ。


「お兄ちゃん助けて」って。


あれだけ拒絶したくせに、いざという時お兄ちゃんに頼ろうとした。


そして私はやっと、自分の歪みに気ついた。


ボコボコに殴られて、地面に寝込む私は考えた。


どうしてお兄ちゃんを呼んだんだろ、あれほど拒絶したじゃないか?


そして結論にたどり着いた。


結局、私はお兄ちゃんのことを便利な人でしか思っていなかった。


一緒にいるのが気持ちいい、何でも聞いてくれる、私が何をしてても褒めてくれる。


そう、みんなにちやほやされる頃と同じ。


そして、私はどこかでそうしてくれる他人を自分を気持ちよくする道具に見えていた。


私はお兄ちゃんの優しいさを利用していただけだ。


でもちやほやされる時のあの万能感は、結局は他人に甘えてるだけ。


他人が私を甘えたくない結果は、今のこのザマだ。


なのに私はそんなものから自信を感じた、こんなちっぽけなものでみんなを振り回そうとした。


その結果が私に振り回されるお兄ちゃん。


そしてこんな私に、さらなるトドメがやってきた。


凛子さんから聞こえた、お兄ちゃんは冤罪されたという情報。


考えてみれば、あの時私にはお兄ちゃんが痴漢という確証がなかった。


確かにお兄ちゃんはあのOLのお尻を触った、でも私はわかっていたはずだ、お兄ちゃんはそんなことをする人じゃないって。


結局、私はお兄ちゃんのあの恐ろしい顔を見て、彼を決めつけた。


結局、私は違和感を覚える人たちと同じことをしていた。


私はそう簡単に大好きだったお兄ちゃんを決めつけた、私の自信に恐怖を感じた。


周りに甘え、歪んだ性格になった私のせいで、お兄ちゃんが犠牲になった。


私はもう、自分を信じられない。


あれから、自信をなくした私はもう昔のように振る舞うことができなかった。


そして女の子たちにいじめられ、男の子たちはそんな女の子たちが怖くて私を助けようとしない。


私は、みんなの中心から最底辺に落ちた。


いじめは学校に見つかり、いじめる女の子たちは停学されたが、私のメンタルは壊れたまま。


キラキラな自分が怖く感じて、化粧をしなくなった。


顔を見せるのが怖いから、メガネをかけた。


高校生になった頃私から昔の元気な雰囲気が消えて、髪がポサポサになって、私はかわいいとかけ離れた姿になった。


そして今日、私が人がいない中庭で弁当を食べようとすると。


「はるき……!?」


必死な顔をしているお兄ちゃんと再会した。


「お兄……ちゃん?」


「ごめんなさいいいいいいい!!!!!!!」


私を見た瞬間、お兄ちゃんは精神崩壊したように謝り始める。


私は嫌でも理解した、お兄ちゃんは壊れた。


私のせいで。


私がどう呼んでも聞いてくれない、私が近つこうたら後ろに転んで、謝りながら逃げた。


事件が起きてばっかりの頃の私の様に。


逃げていくお兄ちゃんの後ろ姿を見て、私は泣きながら「すみません」を繰り返すことしかできなかった。


今の私に、お兄ちゃんを追いかける資格がない。


「そうだよね、私にはは陽光の下でご飯を食べる資格がない……」


そんなことを考えたせいで、私はお兄ちゃんに出会い、お兄ちゃんを傷ついた。


「何だこの暗い女、どけ」


「あんまり陰キャをいじめるなよWWW」


「ごめんなさい……」


廊下でぶつかった先輩に謝りながら、私はとある場所へ向かう。


「やはり私ここでしかご飯を食べれない……」


今日の私もみんなに嫌われて、一人で便所ご飯。

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