幼馴染の思い

私、遠坂詩織は、幼馴染のコウのことが好きだった。


褒められることではないが、私は生まれつき乱暴な性格をしている。


素直じゃないし、頭に来やすいから、ガキの頃は結構人と喧嘩してた。


わがままで、ガキ大将の気分だった。


グループなんかも出来て、いつも男子のグループと口論してたな。


小学の時なんてあだ名は鬼ババアだった、私のことが嫌いな男子からのもので。


本当に、女の子らしくない。


そんな私にいつでも付いてくるのは、コウだった。


最初はコウが顔のせいで友たちがないことを見込んで、なんか強そうな人を舎弟にする気分で

声を掛けた。


でも、案外彼は怖くも強くもなく、気弱な人であった。


強面のくせに、ビビリで思い込みやすい。


イラっと来た私は、コウに向かって「あんた男の子でしょう!」「虫みたいに日和ってないでちゃんとしなさい!」、ガキなりにきつい言葉で喝を入れた。


言い過ぎだと気ついた私は、流石に何の罪もない人を泣かせたくないからハラハラしたが、コウは私に言葉にどう反応したと思う?


「心配してくれてありがとう」って。


まるで私の内心を見抜いたのように、感謝してくれた。


「遠坂はいつも真っ直ぐでかっこいい」って。


私のことを慕ってくれた。


罵倒しに来た相手に感謝するなんて、「バカだな」って、私はそう思った。


でも彼はそんなバカだから、私たちは仲良くなれた。


私がどんなことしてもついてきてくれる、素直じゃない私が思ってもいない強い言葉を使っても、彼は私の内心を見抜いて受け入れてくれる。


それだけじゃない、たまにクラスメイトとガチ喧嘩になっても、彼はビビリながらも私を庇おとしてくれる。


私より弱いくせに、気弱なくせに、私を大事にしたいという彼の芯が折れることはなかった。


私はこんな優しいコウのことが、いつの間かに好きになった。


そして、彼からの優しさを、当たり前と思ってしまった。


そんな私を変えたのは、中学の環境。


中学に入ってから、小学の頃の経験は通用しなくなった。


クラス大半の人は私のことを知らない。


知らない人たちに囲まれて、昔みたいなガキ大将気取りは意味を成せない。


クラスのみんなもメンタルはもう小学の頃のあれじゃない。


乱暴しても、慕ってくれる人はない、むしろ敬遠される。


女の子らしくしなきゃ、みんなに調和しなきゃ、じゃないと友たちができない。


勝手が出来なくなり、私は他のクラスメイトと同じくクラスのグループに入った。


私は、仮面を着けることを覚えた。


私はコウが一番かっこいいと思ってるのに、グループのみんながサッカー部のエースがかっこ

いいと言ったら、私も「かっこいい」と言わなきゃならない。


あの女ブスだよねって、他の人の陰口を言う時、そんなことは嫌なのに「そうだね」と同意しなければならない。


みんながタピオカを飲むと言ったら、甘いものが嫌いなのに、「一緒に飲もう」と言わなきゃ

ならない。


正直、私は疲れた。


でも、疲れより、友たちがないことが怖い。


みんなに逆らって、みんなにいじめられるのが怖い。


楽しいこともあるが、息苦しいことも多々あった。


そんな辛い時、コウはいつも私の側に来てくれる。


「一緒に弁当を食べよう」って、クラスのみんなから抜け出すことを手伝う。


「酷い人達だな、詩織はよく我慢できたら」って、私の愚痴を聞いてくれる。


「そんなことよりカラオケ行こうよ!詩織の歌が聴きたい」って、どんなことがあっても、私の側に居てくれる。


コウの前だけ、私は私でいられる。


なのに、なのに私は……


そんなコウを拒絶した。


事は突然、ある日私は友たちにそう言われた。


「痴漢の幼馴染じゃん、どうだった?」


「は?」


急な煽りに、私はびっくりした。


私は何もしてないのに、友たちは変な物を見る目で私を見た。


何かあったのを聞くと、コウは痴漢容疑で捕まったという噂があった。


「そんな訳が無い」って、最初私はそう思った。


でもこの思いはつづかなかった。


慌てて凛子さんに聞いてみたが、その噂は事実らしい。


それに加えて、友たちがそんな私をどんどん煽る。


「痴漢を庇うのかよ、キモw」


「共犯者だったりして」


「怖い怖いwww」


私は焦った。


このままだと今まで築きあげた信頼が無くしてしまう、友たちを無くしてしまう、クラスでの位置がなくなる。


「あいつなんか私の幼馴染じゃない!」


そんな事にさせたコウへの気持ちが、恨みに変えた。


私は、人生初めて、心からコウを罵倒した。


あの後憔悴しきったコウは私を探しに来た。


きっと大変な思いしただろ、クラスメイトにいじめられただろ。


でもそんなの私と関係ない、って思った。


「来ないで、犯罪者」


私は、人生初めて、コウを拒絶した。


コウが何回私を探しても、何を言おと、私は聞く耳を持たなかった。


なぜなら、私の中で既にクラスメイト>コウの構図が出来ていた。


そしてある日、コウくんは消えた。


凛子さんの話によると、彼は田舎で療養することになった。


もうちょっと時間が経った後、噂が聞こえた。


コウは冤罪されたって。


クラスメイトたちこの噂になんの反応も示せなかった。


「コウ?誰?」みたいの感じで、なんの興味も持たなかった。


あれほどいじめたコウは、彼らにとっては一時のおもちゃに過ぎなかった。


クラス唯一このことに気にした私は凛子さんに聞くと、顔真っ青の彼女はそれを肯定した。


「ウソ……」


私は、取り返しのつかないことをした。


あれから、私は頼りを失った。


クラスメイトから抜け出せなくなった。


愚痴を聞いてくれる人が居なくなった。


私は、今までにないほど、息苦しくなっていた。


クラスメイトたちのことでいっぱいいっぱいになった私はどう思ったと思う?


「コウ早く帰ってきて」って、呑気なことを考えた。


あれほど酷いことしたのに、私はクラスみんなみたいに、忘れてしまった。


「ただの冗談じゃないか」、「コウに酷いこと言うのは初めてじゃないし、今回もきっと理解してくれる」って、コウの優しさに甘えた。


なぜなら当時私にとって、コウの優しさは当たり前のことだからな。


素直じゃない私は今まで何度もコウに暴言を言って来た、今回だって許してくれるはず。


そして時間は過ぎていた、私は高校二年生になった。


私は相変わらず、コウの帰りを呑気に待っていた。


そして今日、私は偶然通り過ぎた学校の人気のない廊下で、コウを見つけた。


「あんたいつ帰ってきたの?知らなかった」


私は嬉しかった、やっと大好きなコウと再会したから。


その瞬間まで私は自分のことしか考えていない。


離れる理由を忘れて、コウの顔が真っ青になったことすら気つかない。


「だから今から一緒にご飯食べに行かない……」


私はただただ自分の気持ちを一方で押し付ける。


「昔みたいにさ」


コウが崩壊するまで。


「ああああああああ!」


「えっ」


急に、コウは叫び出した。


今まで見たくとがないほど緊張した顔で、私を見ながら後退しながら……


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


私に謝る。


「ごめんなさい、犯罪者でごめんなさい」


瞬間、全てが私の脳内でフラッシュバックした。


コウが離れた理由。


凛子さんから聞いた、コウが持ってる病気。


そして、私がコウにしてきたこと。


「私と……一緒に……」


私は、真っ白な頭から言葉を引き出そうとする。


なにも言い出せなかった。


「犯罪者の幼馴染にさせてごめんなさい!」


コウになんとかしないと、じゃないと……


「痴漢なクズでごめんなさい!」


コウは私の前から消えてなくなる、そう直感した。


あのなんでも許してくれるコウはもうどこにもいない。


私が言うべきセリフは、甘える言葉じゃなく、今まで言えなかったあのこと。


「コウ、私は……ごめん……」


やっと最基本の謝りを言い出せた時、コウはもう私の前から逃げた。


「ごめん……ごめん……」


気付けば、私は泣いていた。


泣きながら、何もない廊下に向かって謝っていた。


「一年に変な転校生が来たらしいよ」


教室に戻った私に、新しくできた友たちが話しかけに来る。


「挙動不審なやつみたい、キモいよね」


彼女の口から伝わったのが、いつもの大嫌いな陰口。


「やっば、変なやつなんて嫌じゃん」


そして救いのない私は今日も、自分を偽る。

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