第20話

佐伯が譲ってくれたのだった。話がまとまって僕は電話を切った。

他球団の応援席の中で、自球団を応援することは難しいので、佐伯は大丈夫だろうかと思った。

5日後の日曜日、僕たちは球場にいた。

ベイスターズの先発は鈴木、ジャイアンツの先発は上田であった。僕たちは1塁グラウンドの中段で野球を見ていた。

3回まで両チームとも無失点であった。


「もしかして、ロースコアかもね」と僕は言った。

「いや、意外と点が入るかもよ」と佐伯は僕の考えと反対のことを言った。


5回に入り、ベイスターズが4点取った。満塁ホームランを打ったのだった。


これは勝負あったと思い「今日はベイスターズの勝かな」と僕は佐伯をあおるように言った。

「いや、まだまだわからない」と佐伯は鋭い目でグラウンドを見ていた。


6回に巨人が2点入れて雰囲気が変わって、巨人のおせおせムードになってきた。

それでも7回、8回は無失点で切り抜けて、4対2であった。

9回の表のベイスターズの攻撃は無失点に終わり、ジャイアンツの攻撃になった。ベイスターズの投手は鈴木で、この回を抑えれば完投だった。

ノーアウトから、巨人の1番バッターがヒットを打って、2番バッターは四球でノーアウト、1,2塁になった。


「ホームラン打ったらサヨナラ負けになってしまうよ」と僕は言った。

「今日は巨人の勝ちかもな」と佐伯は僕にこたえるように言った。


3番バッターはフライで倒れて、4番の岡田に回ってきた。昨年のホームラン王の岡田に僕は警戒が強まった。


「岡田に回ったらなにが起こるかわからないよ」と佐伯は言った。


岡田がバッターボックスに立ち、鈴木が一球目を投げた。

岡田は狙いすましたかのように、落ちる変化球をバットでとらえて、高々とあがった打球は放物線を描いて、レフトスタンドに入っていった。

岡田のホームランで巨人がさよなら勝ちを収めた。隣を見ると佐伯が興奮していた。


「やっぱり、岡田が決めるんだよな」と佐伯が言った。


僕はやられたなと思った。岡田と勝負した時点で負けていたのだと思う。

あそこは、満塁で勝負するべきだったかもと思った。

僕たち2人は試合の余韻に浸ったまま、球場を後にした。

球場の近くの駅は人でいっぱいだったので、帰るのに時間がかかった。

僕は佐伯と別れると自分の家に帰っていった。

今年のベイスターズは優勝は無理だなと思った。

僕は、鈴木投手が岡田にフォークを投げたのがあまりいいボールではなく、打たれてしまったのがベイスターズファンとして悔しかった。


2週間後、僕は家で天気予報をみていた。今日の気温は20℃で天気は晴れだった。僕は、北条さんに会うことになっている。カフェで待ち合わせだった。僕は、この前に行った野球観戦での話を北条さんに話そうかなと思った。カフェで話す話題と言うのは、見つけるのが大変なのである。

僕は、北条さんと会うと席に着いた。


「今日は少し肌寒いらしいよ」と北条さんがあたりさわりのない話をした。

「最近、確かに寒くなってきているね」と僕は同調して言った。

「何か面白い事件とかないの」

「最近、面白い事件は、銀行強盗が入った話かな」

「え、すごい面白そうな話題じゃないの」

「千葉市の東日本銀行に強盗が入って、2億円の盗んで、逃走したらしい。覆面をかぶっていたから、顔はわからず。逃走経路も途中まで、車に乗っていたけど、どこかで車を乗り換えたらしい。」と僕はニュースで見た情報をそのまま言った。

「へぇ、ていうことは捕まっていないわけなんだ。」

「今時の銀行強盗が捕まらないなんてなかなかのすごいけどね」

「私たちがそれを見つけるのはどうかしら」と北条さんが言った。

「見つけるって言ったて警察じゃないんだし無理じゃないかな」

「名探偵みたいでおもしろいでしょ、どこのだれかぐらいはわかるんじゃないのかな」と北条さんは言った。

「犯人は、4人グループで身長はみんな同じぐらいで、計画的な犯行だったらしい。その場にいた人は手を拘束されて、受付をしていた人が金を詰めたとスマホの記事に書いてあるよ」

「へぇ、ちょっと記事見てみよう」と北条さんはスマホを使って操作していた。

「僕たちは当事者じゃないからわからないよ」と僕は言った。

「銀行にいた人をさがして聞き出せばいいんじゃないの」と北条さんは言う

「そう簡単に見つかるかな」銀行強盗が起こったのは、昨日の昼であった。


銀行強盗については記事でしか詳細は分からなかったので、実際に見た人に聞くことはいいアイデアだったが、わざわざ、真相を聞きに行くなんてめんどくさいことを僕はしたくなかった。


「また、進展があったら連絡するよ」と僕が言って、銀行強盗の話は終わった。


僕らは2時間ぐらいカフェで話してから、家に戻っていた。

2日後、僕は井端さんの家に行くことにした。井端さんの家の前まで来て、インターフォンを押すと北条さんが出てきた。

僕は、中に入ると井端さんがソファで座っていた。


「いい話が聞けたの」と北条さんは言うと、北条さんから僕に井端さんが銀行強盗が起きた時に居合わせたという話を聞いた。

「え、井端さんいたんですか」と僕は声を上げてしまった。

「銀行強盗は4人で、一人は40代ぐらいの声だったかな。覆面で顔は見えなかった、もう一人は、右手をけがしていて包帯をまいていたよ」と井端さんが言った。

「へぇ、銀行内はどんな様子でしたか」と僕は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る