第1章 未知との遭遇
1
「うーん、……と、これで何度目だったかな?三度目?いや、四度目か」
クリップボードに挟んだ
「さ、」
患者であるカタリナが口を開こうとすると、隣に座る姉のハナがそれを遮った。
「三度目です、先生」
「三度目か」
「うーん、……と」
丸いメガネをかける瞳の奥に、光は変わらず感じられない。
目元のクマは睡眠不足によるもので、活気も変わらず感じられない。
鎖骨にかかる程度の栗色髪は無造作に乱れ、整えられている様子は変わらずない。
「カタリナさん、今日に至るまで君の話を三度聞かせてもらったが────、」
ズリーニはカタリナから目を離して
医師としての診断に間違いがないように。
『悪い夢をみる』 『小麦畑に立つ家』
『夜、眠れなくなる』
『家に入ると
『コップや皿が突然割れる』 『カーテンの後ろに人影があった』
『近所の人に相談しても誰も信じてくれない』
『頼るべき親族はいない』
『家の中で気配がする。誰かが後ろから見ているような』
『深夜によく目が覚める。誰かが見下ろしているような影がある。飛び起きるがその影はない』
『部屋の壁を三回叩く音が聞こえる。昼間は少なく、主に夜間が多い』
『夢の中の悪魔が住む家から出る夢を見る。目が覚めると悪魔が部屋の扉から除いていた』
ズリーニは書き込んだ
誰の目から見ても分かるカタリナの心身疲労に至るその最大原因。
「────重度の
「先生!」
突然、カタリナの隣に座る姉のハナが語気を荒げて立ち上がる。
「カタリナは病気じゃありません!私もこの目で見ているんです!」
最愛の妹を
「ぼくは一人の医師として、医学知識を最大活用した上で診断したよ」
投げかけられる言葉も聞かずに、
「行きましょうカタリナ。これ以上はためにならない。時間の無駄よ」
「患者は君じゃない、カタリナさんだろう」
「もっと
カタリナの手を強引に引っ張りハナは診察室を出ようとする、が。
「少し待ちなさい」
ズリーニは紙をちぎってそれをメモとして、その上にペンを
「ぼくは現実的な判断をしたと思ってる、だけど君は納得していないね?」
カタリナはこくりと頷いた。
ペンを走らせ書いたメモを、ズリーニはカタリナの手にぎゅっと握らせた。
カタリナの表情は不安で溢れていた。
「君が笑顔で暮らせるなら、ぼくは
ズリーニは大丈夫だからと、
「先生!カタリナにくだらない真似をしないで
もうここに用はないと、ハナはカタリナの手をもう一度引っ張り、診察室を後にする。
扉を勢いよく閉める音が、辺りに響いた。
ローマ教皇庁外務局指令「パンノンハルマの集落における心霊現象の調査」 浅間十八番 @k53179
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