第三章 『屍山血河』~KiLLiNG FiELD~

Act.9 『追憶』…狩人の流儀

もろもろの『血肉』悉く滅び、人もまた『塵』にかえるべし…。


     「旧約聖書-ヨブ記三十四章一五節」


 


 ここいらで、少し…『義父さん』について話そうか…。

 『アタシ』と『義父さん』の出会いと、その半生について…。


…………………………………………………………………………………………………


 今からおよそ8年前、アタシが9歳の時…。この時のアタシは、『養護施設』での寮生同士の喧嘩や職員からの性的虐待などの暴力に霹靂し、精神の限界が来たアタシはついに、同じ寮の男子に対して『傷害事件』を起こしてしまい、全てから逃げ出す様に施設から夜逃げして、打ち捨てられた廃ビルの中でホームレス生活をしていた。


 スリやゴミ漁りで何とかその日その日をやり過ごし、静まらない空腹と全てに絶望した虚脱感に苛まれたアタシは、最低限必要なの生理的行動以外は、灰ビル内の捨てられたソファーの上で寝るように過ごしていた。窓が割れ、ハチの巣の様にスカスカで『がらんどう』な灰ビル内は、外からの音が良く響く。朝方や、夕方の登下校するアタシと同じくらいの子供達が楽しそうにはしゃぐ声が、アタシに対するの様に灰ビル内に木霊した時は、唇を噛み締め、耳を必死に塞いでいたのをよく覚えている…。


 …全てに絶望し、そうやってある種の『終活』をして、なるべく静かに孤独死するのを待っていたある夜の事だった…。

 アタシしか居なかった灰ビルの中に、一つの影がように入って来た。…結果から言うとそれは、酷い重症を『V吸血鬼』で、、何とか生きている満身創痍の状態のそれはアタシの前に現れた。

 アタシは直観で、その『V吸血鬼』がアタシを食べて、傷を回復しようとするのを感じたが、は『少なくとも、喰われる事でVの役には立てるだろう』と考えて、抵抗する意図さえ見せなかった…。


 アタシの子供らしからぬ地獄の底ような『諦念の瞳』を目にした『V吸血鬼』は、何かを感じたのか、、アタシが寝ているソファーの前部分に背中を預ける様に座り込み、そのまま静かに命を引き取った…。


 だらだらと『生命活動』は続けてるアタシとは違い。潔く死を受け入れたVを羨ましくなったアタシは、少しだけ自嘲の笑いが零れたあと、再びその場で寝ようとする。…


 そんな時だ…『義父さん』がアタシの前現れたのは。吸血鬼狩りヴァンパイアハンターであった彼は、恐らくアタシの足元の『死体』を追ってきたのであろう。

 『V吸血鬼』のあからさまの死を確認した彼は、寝ころんで背を向けているアタシに対して声を掛ける。


「ガキ…お前がのか?」


 アタシが起きているのも気づいていたのだろう。当然の様に訊いてくる。最初は無視を決め込もうと考えていたが、、『死にかけ』のアタシにさえ、本気の殺気を向ける『彼』に腹がったアタシは、背を向けたまま、の様に彼に答える。


のはお前だろ、おっさん」


「…噛まれてないだろうな?」


「…ビビってるならアタシも殺せば?…『』さん?」


 今思えば、なんてなんだろうな。アタシが当時、だったとは言え、9歳のガキにこんな挑発されるとは彼も思っても見なかっただろう。


 流石になだけあってアタシが『転化』してないのを察した彼は、その場に座り込み、紙煙草で一服を始める。


「ふてぇガキだ…。お前、?」


「…。」


 図星のアタシはと感心したのを覚えている。は、『』には簡単にかぎ分けられるというが、義父さんもその『』をアタシから感じ取ったのだろう。


「はっ。だな…まったく呆れたガキだ、このに…。こんな事なら、がまったくねぇな…」


 、『義父さん』はアタシを助けたり、救ったりするつもりは全く無かった。それよりか、『死にゆく野良犬を肴』に晩酌を始めようかとする雰囲気を漂わせていた。

 最初からしていなかったが、初対面のにこうも好き放題言われるのが癪に障る。


 『義父さん』は煙草を吸い終えた後に、自前のスキットルでウイスキーをあおりながら、コートのポケットから廃棄品の潰れたアンパンを取り出す。包装されてる物で、匂いはしてないはずなのに、食べ物の気配を感じ取ったアタシは、生理的な反応で大きく腹を鳴らす。


「欲しいか?」


「…。」


 『義父さん』はそう言って、アンパンの包装を空ける。一方、意気地になったアタシは腹が鳴った事を無かった事にして、背を向けたまま無視を決め込む。

 ここで諭す様に誘導して、アンパンを渡したりするのだろうが、アタシと同じような『捻くれて歪んだ人格』の彼は、自身の僅かばかりの好意を無下にされたのが面白くないのか、持っていたアンパンを床に叩きつけ、自身の足で踏みつぶした後にアタシに言い放つ。


「お前は筋金入りのだな…クソガキ。、何で今すぐてめぇの首をかき切らねぇんだ?…ははっ!!こいつは笑えるな!に同情するよ!」


 気が付けばアタシはソファーから飛び出して、義父さんに飛び掛かっていた。枕元に忍ばせていた、ゴミ捨て場で拾った『錆びた包丁』を持って。


「お前なんかに!?」


 ただ純粋な『怒り』と『敵意』。そしてという『殺意』を携えたアタシの強襲は、意図も簡単に彼にいなされ。胸元を掴まれたアタシはそのまま床に叩きつけられ、組み伏せられる。


「なんだお前!まだあるんじゃねか!!がよぉ!!!」


「悔しいんだろ!?憎いんだろ!?!?『社会』も!『世界』も!!『何もかも』!!!」


「何クソガキがぁ!!せめて前のめりに死んでみろぉ!!」


 核心を突かれたアタシは、組み伏せられながらも怒り狂い、涙を流しながら力の限り暴れた…。

 


「う゛あぁぁあ゛あっぁああぁー!!!!」







 今思えば、この時義父さんが言ったこの言葉の全部が…

 消え入ろうとしていた『命の火』を、『怒りの炎』で無理やりさせる不器用すぎる生き方。文字通り『己が身を焼く』愚かなは、当時のアタシや、義父さんの人生には必要だった諸刃のすべだったんだろう…。

 

 

 

 

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