Act.8 蛭蠱 血穢 2

 『虚大な狂気の影』が、公園ごとアタシ達を包み込むように降り立ち、アタシ達の視界を奪う。光の一切が届くこと無い深淵の中、アタシ達の五感は完全に機能を失い、今現在はアタシとカミラの朧げな精神だけを知覚できる状態だ…。


 アタシのでは、彼女カミラは既に全てを悟ったのか、先ほどの死の恐怖に震えた姿は消え失せ、『焙火ベイフォア』を納刀し、静かに目を伏せる。その彼女の潔さに呼応するかように、アタシ達を包み込んだ影の一部が『蜘蛛の粘糸』のように彼女に巻き付き、カミラの首から下は『黒い繭』に包まれた。

 …彼女の頭部を巻き付けなかったのは、おそらく『師匠』が、彼女のや、を聞いて、ほくそ笑む為だろう。

 …『師匠』は…そういうだ…。


「なんや、出来るんかいなぁ。フフ、これじゃあ『アンタ様』をさせようとしてる『リバーシ』の皆様も、ホンマにやなぁ」


「…は視てたでしョ?…私は皆の『迷惑精神が壊れる事』になっちゃうんだヨ?…私のせいじゃないけド」


 何処からともなく無く『師匠』声が闇の中から木霊し、闇の一部が人の輪郭を描き、それはやがて、『師匠』の人間の姿へ変貌してゆく。

 その影が完全にいつもの『師匠』の姿になったと同時に、アタシ達の五感も徐々に回復していった。


「なるほどなぁ。で歴史の表舞台から姿を消したんどすなぁ…。ハァ…にしても、『壊』はんもホンマ人が悪い。は事前に言って欲しかったわぁ」


「…それで??」


「…なにを自惚れてるノ?は殺さないヨ?…貴方は只の『贄』。いちいち、私が手を下すまでも無イ」


「…さぁ?私が『禁』を破ってまで、、早く立って、斬っちゃいナ?」


 アタシは憑りついた蛭が生み出す、焼け付くような全身の痛みに堪えながら、『師匠』に言われるがままゆっくりと立ちあがる。…どうやら、さっき『師匠』に包み込まれた際に、


 アタシは『炮烙』を八相に構える…。カミラはそんなアタシに対して、申し訳無さそうな顔をして、アタシに最後の言葉を言い残した。


「…『血闘』がになって、ホンマに残念やわぁ…。そやけど、仕方あらへんわな。『大きな力』の前には、あまりにも無力…」


「…血穢はん?、せめてここは一思いに頼むな?…それぐらいしか、うちがに償える方法があらしまへん…」


 そこまで言ったところで彼女の頬に一筋の涙が零れる。


「…フフ、出来る事なら…『来世』は…。…ほな、さようなら。『蛭蠱 血穢』はん」


「…。」


 ザシュ!!!


 俯きながら、懺悔する『彼女カミラ』の最後の言葉を聞いたアタシは、無言で『炮烙』振り下ろした。斬り裂いたのは『彼女カミラ』では無く、彼女を巻き付けていた『黒い繭』と、『師匠』が作ったこの『暗黒空間』の一部だった!!


「!?血穢はん!?何を!?」


 突然のアタシの行動に驚く『彼女カミラ』の胸倉をつかんだアタシは、彼女の耳元で小さく囁く。


「…これで、は無し。次は…『斬る』…。だ」


 アタシはそれだけ言うと、彼女をそのまま、切り裂かれた裂け目に放り出す。

 セリフの最後の方にのは、彼女もアタシと同じく、出来るのなら『友達になりたい』と思ってたのを知ったからだろう。まったく…ホントかっこつかないな、アタシは…。

 

 カミラが裂け目から飛び出す瞬間。彼女が何かを言った気がしたが、それはまた今度に聞けばいいだろう…。アタシ達は、再び相まみえるのだから…。

 

 …一方、師匠はそんなアタシの行動を黙ってみていた。…アタシの邪魔をしなかったあたり、アタシの『選択』におおむねは『理解』があるのだろう。


「まぁだろうと思ったけド、一応聞いておくヨ。…なんデ?」


「…命を助けて貰った事は感謝します。…ですけど師匠。アタシの『カルマ』です。の力だけで清算するべきです…」


 師匠は少し思い悩んだ後、冷静にアタシに指摘をする。


「いっちょ前に言うけどサ?その割にはんじゃなイ?」


「…それは…」


 確かに師匠の言う通りだ…。力も無く、命を助けて貰った分際で、偉そうに矜持を述べる資格は無いかもしれない…。でもこんなのは間違ってる!し、なによりに納得出来るはずが無い!!!

 俯き、顔を曇らせるアタシに師匠は何かを感じたのか、呆れつつも助け船を出す様にアタシに一つ提案をした。

 

「ハァ…まぁせっかくのタイミングだシ?ちょっとこのまま。あぁ因みに、『妖廼アヤノン』達の心配は大丈夫だヨ?ちゃんと『中央病院』に『転送』しといたかラ」


 それを聞いて一安心した、彼女らには申し訳無い事をしたが、命が助かっているなら幸いだ。…なら、この際はっきりさせた方がいいだろう。アタシの『因縁』と『業』、その全てを!


「…アタシは大丈夫です…。けど『師匠』!ちゃんと教えて下さい!!!!」






















!!!」



 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る