Act.8 蛭蠱 血穢
『
体験したこと無い不思議な感覚に妙な高揚感を覚えたアタシは、見えているカミラの未来のビジョンに合わせて、『炮烙』の刃を添える。アタシのこの感覚が正しければ、 彼女の左脇は『炮烙』によって切り裂かれるだろう。
しかし、事はそう簡単に上手くは行かない!『カミラの未来のビジョン』が現実の彼女の姿と重なる瞬間、彼女は急に身を翻して、その身体は『ビジョン』から大きく外れる。彼女はそのまま流れる様に『別の奇妙な構え』で、斬撃を繰り出してきた!
アタシは感覚でこのまま彼女と切り結ぶのはマズいと察知し、一瞬のスキを突いて、彼女の胴体を足で思いきり蹴り押して、大きく距離を離した!!
ズザァァァァァー
アタシに蹴り押されたカミラは、その衝撃を体さばきでいなし、その衝撃を逃がす。
「…血穢はん、視えるようになったんやね。…初見の『隠し剣』を見切るなんて、大したもんやなぁ」
「ほな。こんなんはい…!!?」
…そう何度も簡単にお前のお遊びに付き合うつもりは無い!!
アタシは彼女を蹴り押した瞬間から、『
「消シ…飛ベ…!!」
アタシは『
超高熱の獄炎と数多の飛ぶ斬撃が彼女を襲う!!…筈だったが、寸での所で反応できたカミラは既に、『
「…百鬼葬流・奥義『
「いつの間に!?…?体ガ…動カナイ!!?」
「フフ、血穢はん。うちさっき、物には物の使い方があるっていったやんなぁ?」
彼女が突き刺している『
「百鬼葬流・奥義…『鎌鼬・飯綱』」
アタシは『焙火』から放たれたゼロ距離の『鎌鼬・飯綱』をまともに食らう。全身を飛ぶ斬撃に切り裂かれ、獄炎にアタシの全てを焼き払うと一瞬覚悟したがその瞬間、アタシの左腕の蛭達がアタシの全身を包み込み、アタシに降りかかる筈だったはずの死の脅威をアタシに代わり受け止め『彼女ら』はアタシの代わりに粉々の灰になってになって散っていった!!
『鎌鼬・飯綱』の余波で爆炎と土埃が舞う中、カミラは悠々と散っていった『彼女ら』に対して感想を述べていく。
「…あぁなんや、あの蛭達。うちらの為に血を抜かれた『
「死んで『水子の霊』になってでも、生き残った『血穢』はんを守ろうだなんて…ホンマ、哀れで可愛そうな子らやね…」
偉そうに他人事の様に語りやがって!!!お前らさえこの世にいなければ『アタシ』や『この子達』だって!!!…許さねえ!!!!お前らだけは絶対に殺してやる!!!!!!!
土埃の中、『水子の彼女ら』を憐れみ、黄昏て隙だらけのカミラを捉える為に、アタシは自身の左腕の残った『彼女ら』を一本の『荒縄』の様に束ね、カミラに向けて放つ!!!放たれた『彼女ら』は、まるで蛇の様な…いや、《《遊女の亡霊かの様な形を取って》、カミラの首筋に噛みつき、胴体に巻き付いた!!!
「百鬼葬流・奥義…『
蛭の群れで構成された蛇の遊女に首を噛みつかれ、胴体を締め上げられるカミラ。
「捕マエタ。覚悟シロ…」
カミラを捉え、やっと一撃入れれると思った瞬間。全身の力が急に抜けた…。
『彼女ら』に『鎌鼬・飯綱』の威力を肩替わりしてもらったものの、今まで受けているダメージの大きさと、常に自身の身を焦がしながら再生を続ける、あまりに身体への負荷が高いこの『変異形態』で、アタシは心身とも既に限界に達していた。
「もう…ここいらで仕舞いやね」
「…!ガハァ!?」
『カミラ』の一言でアタシの身体がそれを自覚したのか、アタシの身体は完全に自身の言う事聞かず、アタシは吐血しながらその場で倒れ込んだ、そしてそれと同時に『変異形態』も完全に解けてしまう。
「ここまでよう頑張ったなぁ、血穢はん。…せめて痛み無く、すぐに逝かせたる…」
カミラはそう言って『
これでもう本当に終わりだ…。怒りを爆発させ、内なる力を引き出してもなお、届きもしない実力差にアタシの心が完全に折れる。
ごめん『幽奈』…。『誓い』は、守れそうにないや…。それに『妖廼』。勝手な事してホントにごめん。『幽奈』と『血蒼』の事は頼んだよ…。
…そして『師匠』。本当に申し訳ありません…。アタシは貴方の期待に応える事が出来ませんでした。生意気で反抗的な不出来な弟子でしたが、貴方が授けてくれた『業』と言葉はアタシの『宝物』です。…先立つ不孝をお許しください。
最後の痛みを覚悟し、瞼を強く閉じ、歯を食いしばる…しかし、いつまでたってもカミラはアタシに止めを刺さない。アタシは恐る恐る薄目を開け、彼女の方を見ると彼女はアタシの方では無く、公園の奥の上空、『暗闇の虚空』をじっと見つめており、その額には大量の脂汗をかいていた!
蛇に睨まれた蛙のごとく、完全に恐怖で硬直した彼女は生唾を大袈裟に飲み込み、その呼吸が蒸気機関のエンジンの様に荒くなる。
生きる事に飽き、生命を軽んじる傾向にある『夜兎』がこんなにも死に恐怖するなんて事があるのかと驚愕し、アタシは思わず彼女が見ている方向を見てみる。
その瞬間にアタシは気づく、そして思い出した。この街、いや…この世界において唯一の死よりも恐ろしい存在が、その悍ましい狂気を孕み、着実にこちらに向かっている事を…。
…………………………………………………………………………………………………
アタシ達が向く方角の奥、ビルや街の街頭の明かりが次々と点滅し停電してゆく…。
その様は、巨大な暗影が日の光を遮り、世界を覆い隠した時のようで、先ほどまで上空に雲の一つも無かったのに、たった今…現在は雷雲が立ち込め、豪雨を伴い、暴風が渦巻く。その漆黒の鬼雨の嵐は、アタシ達が着けた公園の桜についた『残り火』を、踏み消す様に鎮火した。
永遠の様に感じる時間…。消えた都市の灯りはまだつかない。時間はどれくらいたった?何かの『虚大な影響力』が『暗闇の虚空』の中で脈を打っている。それは確実に『アタシ』と『カミラ』…、そしてこの『龍劫禍街』の全ての生命の心を捉えつつある。意識と記憶が乱れ混濁する。知る由もない物が眼前に視える。宇宙、星々、銀河、そして『虚空』。…暗い。稲妻が暗く見え、闇が明るく見える。距離の感覚は既になく、遠くは近く、近くは遠い…視覚ではない奇妙な感覚で何もかもが視える…。
…!?ちがう!?今見えたのは稲妻の閃光によって、アタシの網膜に焼き付いた残像に過ぎない!!
…アタシは何が恐ろしいのだろう?黒い惑星を巡る『窮極の奔流』だろうか?翼をはばたかせ、無間の中を飛び交う。…だが光の宇宙を超える事は決して無い!!
光輝に輝く『トラぺゾヘドロン』。その内に捕らえられた思念によって再生される恐ろしい深淵の底へ、アタシ達の魂は送り出されるのだろう…。
アタシは狂ったか、或いは狂いかけているのか?…アタシはあれで、あれはアタシだ…。死にたい…アタシは今すぐにでも死ななければならない!!
あれはアタシ達の場所を知っている!
『暗闇の虚空』のその中に巨大な『尖塔』が見える。耐えがたき腐臭。…五感は全て変容した…。『尖塔』の窓が割れ、破れる…。
…あれが見える!こっちへ来る!!
『地獄の嵐』_『朦朧とした巨影』_『漆黒の翼』_『三又に裂けた燃ゆる瞳』_。
そして_『這い寄る混沌』_…。
あぁ…あなたはアタシを御救い下さるのですね………。
『師匠』…。
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