Act.7 葬流の源流に…。6
「あ゛ぁあぁあ゛あああぁあ゛ああぁ!!!』
…まるで亡者共が蠢く地獄の業火に焼かれたような、非常に耐え難い激しい痛みが、アタシの辛うじて繋がっている、最早使い物にならない左腕に走る。
骨にまで達した切創は当然、髄までも綺麗に切り裂き、その傷口からは握りつぶされた柑橘類の蜜のようにとめどなく、その『鮮血』を流しつづける…。
真の実感が伴う現実の痛み悶え、もがき苦しみのたうち回るアタシは、既に戦闘不能状態で、もはや『炮烙』を構える事も出来なかった。
最早、剣士というのには程遠い、そんな状態のアタシを見た『カミラ』は、蔑むような、或いは憐れむような瞳でアタシを見つめながら、彼女の『小太刀』の柄を軽く叩き、血振を行う。
「おやすみ『
…叫び声こそ止めれはしたが、アタシの『炮烙』を持って立ち上がろうという意思は完全に削がれ、痛みの中、患部を抑えながら、涙目で彼女を恨めしく睨め付ける事しか出来なかった…。
「…血穢はん。その勇気と策は賞賛に値するけどぉ…剣士の高潔な『血闘』まで穢されては、流石にかなわしまへんなぁ…」
「これはぁ…その『報い』。…しっかり、噛み締めしはりやぁ…『
「…ハァ、ハァ…クソッタレ…め!」
項垂れたアタシは痛みに堪えながら、何とか憎まれ口をひり出した。
「…ハァ、興が醒めたわぁ…。『先生』ももう、すっかり老いてしまわれたし。それに…うち、弱い者虐め嫌いやねん…」
気が付けば、アタシの頬には大粒の涙が伝っていた…。理由は何故だ?
…他者の命を救うためとはいえ、身を切られ、左腕を失い、 『剣士』としても、『狩人』としても半人前のまま終わってしまう、肉体および精神の喪失の『痛み』なのか?
…アタシと同じ『百鬼葬死流』の『
…それとも、さっきまであんなに仲良くお喋りしてた、心が通じ合えそうだった人と、今こうやって敵対している現実の『無情』さについての『悲しさ』なのか?
…そもそもアタシが『夜兎』の延命の為に機械的に生み出され、使えないからと廃棄され、社会や他人の、『思惑』や『都合』で振り回される半生に苦しむ『徒労感』なのか?
…そしてアタシ自身も、正気を保つために煙草と称し、双子の分身の血を啜り続ける醜悪なこの『龍劫禍街』と、所詮同じような存在であるという『諦め』なのか?
…いや、それら全てを内包してる、アタシに付きまとう過酷な運命、その
『血と煙に
そのものに対する『絶望』なのだろう…。
…どうして、アタシばかりがこんな目に…。…ねぇ、なんで?
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!?なんで!!!???
「…アタシが一体!!?何したっていうんだァ!!??」
流れる涙はやがて『血涙』と変わり、項垂れたアタシの足元には、傷口から流れ落ちた鮮血と、頬を伝った『血涙』が混じり、混濁した『血沼』を形成してゆく…。
…きっと多分、これは幻聴なのだろうが…『血沼』から、それこそ『聖書におけるアベルの血溜まりの告発』のような亡者の呪詛と、蛭が憑りつく赤子達の慟哭の叫びが絶え間なく木霊する。
「今、オ前ハ呪ワレシ者トナッタ!!オ前ガ流シタ『穢血』ヲ、口ヲ開ケテ飲ミ込ンダコノ街ヨリモナオ、呪ワレタ者ダ!!命ヲ生ミ出シテモ!命ハモハヤ、オ前ノタメニ愛ヲ産ミ出スコトハナイ!オ前ハコノ焦熱ノ地獄ヲ永遠ニサマヨイ、無間ノ虚無ヲサマヨウ穢レタ亡者トナルノダ!!!」
「殺セ!!殺セ!!殺セ!!殺セ!!殺セ!!殺セ!!殺セ!!殺セ!!殺セ!!」
流れ落ちてゆく『穢血』と一緒に、アタシを人たらしめる『倫理の心』が流れ出るのをアタシははっきりと感じた…。…アタシは、もう『終わり』だ…。
その瞬間、『血沼』から、目をそむけたくなるような赤黒い色をした悍ましい不定形の『蛭』の様な何かが、無尽蔵に湧き始め、蠢くそれらは周囲の土や石を溶かし、草木を腐らせていった。
そしてその『瘴気』にあてられた小さな小動物や虫たちは、『V』に『転化』した人間のように異形の存在に『変異』するが、すぐさまその体に火が付き、一瞬の内に焼け爛れ絶命し、灰に還元されてゆく。
そして、アタシの使い物にならなくなった左腕をその『蛭達』が内側から食い破り、『彼女ら』はアタシの腕の残った表面に喰いつき、『吸血』の歓喜をあげるがごとく、その身体を激しくくねらせる…。湧き蠢く『蛭達』その姿はまるで、激しく燃え盛る『怨恨の紫炎』のようだった!!
これが…アタシの正体…。ハハ…『
『師匠』…。アンタ全部知ってたんだ!!…でも許すよ?優しいアンタが!まさかこんな事本人に言える訳無いわな!!?
「お前は生きることすら許されない!醜くて危険な化け物なんてなぁ!!!」
アタシ…、いや、『アタシ達』は地面に転がった『炮烙』を拾い上げ、既に意識を失った、『暗魔』と『妖廼』を瞬時に拾い上げ『百鬼葬流・衣蛸』で包み込んでから、安全な公園の外まで一気に蹴り飛ばした。
…『カミラ』はアタシの一連の流れを全く邪魔をせずに黙ってみており、その代わりか、彼女は静かに涙を流していた。
「…何故お前が泣く?…『抜ケヨ』。…斬リ゛捨テテヤ゛ルカラ゛ッ!!!」
アタシは『炮烙』を自らの首筋に刃を滑らす事で『抜刀』した!!!
『炮烙』は、今だかつてないほどに赤黒く耀き、激しくほとばしる刀身の劫炎が、光だけでは無く、空間その物を屈折させた、歪んだ『暗黒の陽炎』を生み出していた!!!
流した涙を止めて、覚悟を決めたのか…『カミラ』もアタシの『殺意』に呼応するように、再び『
「ほんまに…ほんまにごめんなぁ…血穢はん…。うちらのせいでこんな…」
「………でもな?」
「怒り狂うて…付け焼刃の『変異』で勝とうやなんて…!『血闘』はそんな甘いもんと違うでぇ!『血穢』はん!!」
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