Act.7 葬流の源流に…。4

「…まで知ってるん?せっかく仲良くなれそうだったのに悲しいわぁ…そやけど、『炮烙』無しにとでも思てるん?…血穢はんには悪いけぇど……うち」


 『カミラ』は煙管pipeセットを袂にしまい、その代わりに桃色の豪華な装飾に彩られた『白鞘の小太刀』をその袂から抜いた。一見、サイズ感が合わないなずなのだが、恐らく袂の中に魔術的な収納空間でもあるのだろう。


 彼女は自身の得物である小太刀に魔力を込める。元は闇に紛れる様な漆黒の色をしていたその刀身は、彼女の妖艶な魔力にあてられることで『赫剣』の異名に相応しい美しいあか色に染まっていき、それに伴って、彼女の身体中から重苦しく、禍々しい殺意の魔力があふれ出る。

 

 彼女の異変と向けられる殺意に気付いた周りの人々はパニックを起こし、まるで蜘蛛の子を散らすように、その場から逃げまどっていった。全員がその場から離れてくれればよかったのだが…や、泣き叫びながら立ち尽くす子供までいる。


「…血穢はん?こないなに血生臭い事はうち、ほんまに嫌やで?できたら見逃してくれへんかしら?…おたの申します…このとおり」


 彼女カミラは放つ殺気とは真逆の様な事を言いながら、『炮烙』を持たない無防備なアタシに丁寧に頭を下げる…。

 『百鬼葬流』は元々、の状況を想定した剣の技術。奥義にもよるが、この『わざ』の前では半径数十メートルだって必殺領域となり、そこに自衛能力の無い無力な存在ひとがいればそれだけで人質を取ったといえる…。


「くっ!!」


 正直、打つ手が無い。自衛手段としての携帯小型ナイフは持っているものの、そんな物を見せたらその瞬間に彼女は『百鬼葬流』の奥義を振るうだろうし、そもそも『炮烙』無しで彼女に勝てる見込みも無い。

 単独でいる彼女をここで見逃すのは、のちの事を考えると不味いのかも知れないが、実質的に人質も取られてる以上、アタシも大きくは動けない。

 ここは一度降伏して、彼女を見逃すしか無いと思ったアタシはその意を伝えようと口を開こうとした瞬間、


「…お嬢ちゃん。下がんな」


 …驚いたアタシは後ろを振り向くと、そこにはアタシがさっきまで探し回っても何処にも居なかった、『百鬼葬流』の開祖にして伝説の盲目剣士。『鬼剣の暗魔』が『炮烙』を杖の様に突きながらゆっくり近づいているのが見えた。


 逃げまどう人々とは反対方向に、ゆっくり歩いてくる彼は、歩を一つ進める度に彼自身の魔力と殺気を強くしていき、その重苦しい『圧』はアタシに向けられてる訳では無いのにかかわらず、アタシは思わず『死の恐怖』を覚え、身体が固まり生唾を呑んだ。


「…お久しぶりどすなぁ。ずっと…待ってましたぁ、『先生』?」


「へへっ…お前さんも、随分『人』斬ったな」


「先生ほどでは…。でも先生?うち、やで?」


 『カミラ』はそういって、自身の纏う悍ましい魔力の圧を更に上げる。

 …先ほど、彼女カミラはアタシにと言っていた筈だが、『暗魔』が来て、逃げる事を諦めたのか?それとも彼女カミラはただ単にアタシを斬りたく無かっただけなのか…?


 …どちらにせよはかなりマズイ!!優れた『百鬼葬流』の使い手同士の斬り合いは、互いが繰り出すと前に文献で読んだ!今すぐにこの場を離れないと!!!


 しかし思考とは裏腹に、アタシの魂はこの『血闘』をと心臓の鼓動を早くし、その興奮はアタシをに案内した。


 『カミラ』と『暗魔』の緊張が極限にまで高まり、お互いに手を自らの妖刀の柄に掛ける。居合の構えと取った二人は、そのままその場で動かなくなるが、代わりに二人の魔力が更に圧を増し、ぶつかり合う二つの巨大な魔力同士が摩擦を起こしプラズマと風圧を生む。それらをもっと真近で見たいと思ったアタシは、恍惚な表情を浮かべ、ふらふらと二人に近づこうとしてしまう。


「血穢!!何やってんノ!!?」


 突然の叫び声と共に、アタシは声の主である『妖廼』に服の後ろのネックラインを掴まれ、飛び退く形で連れ去られる。


 連れ去られる瞬間、『妖廼』の登場に驚きはしたものの、アタシの瞳はしっかりと、居合の構えと取った二人がその刃を抜く瞬間を捉える。


「…百鬼葬流奥義・『一寸法師いっすんぼうし』」


「…百鬼葬流改め、ヴァレンタイン流虚血術奥義…『血桜繚乱ちざくらりょうらん』」


 刹那、ぶつかり合う二つの刃から放たれる眩い閃光と爆炎。そして赤黒い数多の剣閃が二人を中心にして広がってゆく。

 『妖廼』は飛び退きながら、アタシと自身に簡易的な『防御結界魔術』を施し、衝撃に備えた。音速で広がる斬撃と劫火の余波は瞬く間にアタシ達を飲み込む。

 幸い、彼女の『防御結界魔術』のおかげで吹き飛ばされこそしたが、アタシ達は何とか怪我はしなかった。

 …気づけば彼らの奥義の余波は公園内の桜達を次々と切り刻み、燃やし尽くしている。

 

 しかし…難を逃れ、一命を取り留めたアタシの瞳は今だ釘付けで、遠目で確認した二人のその姿にアタシは驚愕する!!

 『百鬼葬流』の奥義を繰り出したばかりの二人が、余波により激しく舞う、その輝く剣閃の瞬きはさらに速度上げ、まるで巨大な閃光花火の様な火花を散らしていたのだ!!!

 























あれが!!高レベルの『百鬼葬流』使い手同士の剣撃!!?…次元が違い過ぎる!?まともに殺り会おうとしていたのかアタシは!!!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る