Act.7 葬流の源流に…。3
花魁の様な彼女を近くのベンチに連れて行っていくと、彼女はそのままベンチに腰を下ろした。アタシは自分の用があるので、軽く「お大事に」と声をかけて、その場を去ろうとすると、彼女がアタシを引き留めようと声をかける。
「あの、待たはって、素敵なお嬢はん。これもなんかの『縁』。もしよろしかったら、うちと一緒にこの『夜桜』を楽しまへんか?」
「あー、えっとー…」
正直、早く『暗魔』と『炮烙』を探したかったのだけど、妖艶で美しい女性の、乞うような瞳に見つめられ何だか断りずらくなった。
それに、さっきからずっと探し回っても成果が全く無いのもあるし、少し休んで頭を冷やした方がいいとアタシは考え、
「じゃあ…少しだけ」
と言い、アタシは彼女と少し休憩する事にした。アタシの了承の返事を聞いた彼女は、子供の様な屈託無い笑顔で
「忙しそうやったけどほんまにええの?…そやけど嬉しいわぁ~。さぁ、座っておくれやす」
と自分の横に座るよう、ベンチをパタパタと叩いて促す。アタシは彼女に促されるまま横に座ると彼女はニコニコと笑顔を見せ、相当に嬉しそうだ。
接待をされてる訳じゃないのに、こんな風に愛想を振りまかれると、慣れてないのもあって何だか気恥ずかしくなってきた。
アタシは照れてるのを隠す様に彼女に当たり障りの無い質問をする。
「『お姉さん』。ここには、よく来るんですか?」
「えぇ。昔はようここに来てました。…そやけど最近はもうからっきしで…にしても『今夜』は特に綺麗に咲いてはりますなぁ」
彼女はそう言いながら、袂から
「あ、吸うても?」
「構いませんよ…アタシも愛煙家です♪」
アタシはそう言いながら自分のポケットから、
彼女が吐く、『煙草葉』の芳醇な渋みがあるクラシックな『白煙』と、アタシが吐く、『薬液』のケミカルで刺激的な甘みがあるモダンな『黒煙』が、『情交』の様に絡み…蠢く混沌のように混ざり会う。
『ネオン光』に照らされた妖艶に輝く『夜桜』達の間を、舞いながら流れる混濁した彼女らは、まるでその命を夜桜の花びらと共に散らすかの極く、春の夜空の暗闇に消えて行った。
「ふぅ~、お嬢はん…。お名前、伺うても?」
「ッフー。『血穢』っていいます。…『
「いいぇ。…この街では古うから、生まれてすぐの子を魑魅魍魎の異形から守るため、敢えて『
「…。」
「にしても血穢はん。あんたはぁ、ここになにしに来たん?」
「人探しですよ。さっきまで同じ店にいたお爺ちゃんが、杖をアタシのと間違えちゃって…。その人がここに居るって聞いて来たんですけど…全然見当たらなくて…ハハッ」
「フフ…探し物程、慌ててる時に見つからへんものやわなぁ。うちもそないな事ようありますねん。…『尋ね人を探す者』同士、ここはいっぺん落ち着いて、『期』を待ちましょ♪」
「そう…ですね…」
「…?急に元気のうなってどないしたん?うち、あんたの気ぃ悪うするような事言うたんやろか?…ごめんなぁ。堪忍してやぁ」
「…あぁ!全然そういうんじゃなくて…!ただ…」
「フフフ。その感じ、若々しくて羨ましいなぁ。…それ、一口吸わして貰うてよろしぃ?」
彼女はそういって、アタシの
普段、
クラシックな煙草葉の、喉を強く蹴り、焼け付くような感覚を覚えたアタシは思わず、初めて煙草を吸った子供の様に酷く咳き込んでしまう。
「!?ゲホッ!ゲホッ!?」
「アッハッハッ!!ホント、殿方みたいな見た目に似合わへん可愛らしい人どすなぁ♪」
彼女はそう笑いながら、アタシの
「ッハー!!血穢はん。物には物の使い方ってのがあんでぇ?よう覚えときぃや?」
「ゴホ…『お姉さん』ゲホッ…。先に言って…下さいよ、…もう。」
「フフ…堪忍。…しかし血穢はんのこれは、また随分と変に甘いどすなぁ。それに沈むような悲しい冷たさと、縋るように纏わりつく滑らかさがあってぇ。…言い方悪ぃけどぉ、まるで沼の底に引きずり落されたみたいどすなぁ…。」
戮さんと同じ様に、紙や葉に拘る人にはやっぱりこの味は合わないようだ。
「…そやけど…えらい美味しいわぁ♪」
「ハハっ!またまたー」
そうやって暫く、『煙」と『夜桜』を肴に会話の華を咲かせてゆくが、次第にしゃべる事も無くなって、二人とも自然に口数が減って静かになってゆく。…しかし決して空気が気まずいという事は無く。『心地よい沈黙』が二人を包んだ。
アタシは何故だか、「『この人』とは不思議と気が合うなぁ」と思ってはいたのだが、一つだけ、どうしても気になる事があったので、一つ彼女に質問をした。
「あの、『お姉さん』?…今更失礼なんですけど、…お名前を伺っても?」
「…。」
アタシの不意な問いに、少し悲しそうな顔をして沈黙した彼女は黙り込んでしまう。
すると突然、アタシの携帯が大きな着信音を鳴らした。今、応答してよいか彼女に無言の表情だけで伺うと
「どうぞ、かまへんよ…」
と、一言答えてくれたので、アタシは彼女に軽く会釈して電話に出る。…電話先はもちろん『妖廼』だ…。
「血穢!?お爺ちゃん見つけたヨ!!さっきまで変なゴロツキ…多分『リバーシ』の連中だけド。…あーとにかク!そいつらを一緒にどつき回してたんだけド、少し目を離した隙にお爺ちゃんが急に「見つけた」とか言って
「…あぁ、わかった。妖廼、今日は色々ありがとな…」
「…?待って血穢!?アンタ今ど…」
アタシは感謝だけを妖廼伝えて、無理やり電話を切った。
「…友達は大事にしなあかんよぉ?」
アタシは俯き、彼女の言葉を無視して黙り込む。…そして代わりに彼女に一言モノ申した。
「…もうやめましょう。おふざけも、探り合いも…」
「なんやぁ…。やっぱ最初から気づいとったんねぇ…そやけどなんで?」
「確かめたかった…。『カジモド』も、『ハサン』も、アタシから見たってただ狂ってる奴にはどうにも見えなかった」
「義父さんを惨たらしく殺した事は絶対許せないけど…。『あの夜』に何があったかお前らの口からどうしても聞きたかった…」
「…それに…アタシは苗字は名乗ってないですよ?『お姉さん』?いや…」
「『百鬼葬流』最初の継承者…。『
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