Act.7 葬流の源流に…。
「ほぇー。血~穢ェ~。アンタまたそうやって幽奈に怒られたんダー」
「うっせぇ妖廼…。『怒られた』んじゃない!『誓った』んだ!」
先月の事件から約一か月後、桜の咲き誇る新しい風の季節に、アタシと『妖廼』は『龍劫禍街』の『
立ち飲み専用のお店である角打ちで、アタシ達二人はすっかり恒例となった『秘密の盃』を挙げていた。
先日の出来事をアタシから聞いて、それを肴にすっかり酔っ払った『妖廼』は、真っ赤な顔で立ち飲みカウンターに突っ伏してアタシを茶化した。一方アタシはカウンターを背もたれにして、グラスを回しながら静かにバーボンウィスキーをロックで飲んでいる。
…一応、アタシは未成年ではあるのだが、この店は義父さんが生きていたころから一緒通っていたお店で、アタシもここのマスターと仲が良いいし、アタシ自身も酒が強く、粗相も起さず、マスター曰く「飲んでる姿が絵になる」との事だから、特別にこっそりお酒を提供してもらっている。
「ホント『
「…
「何って、あの娘今『神薙 千尋』さんの護衛やってんでしョ?…でも一か月も連絡つかないってそんなに忙しいノ?…ア。マスターありがとウ♡いつも大好きだヨ?だから『クリームチーズ』と『いぶりがっこ』を…お願イ!サービスしテ!!」
「…マスター。いくら何でも甘やかしすぎですよ。『
「…蹴っタ。…ついでに『本人』も♡ンヒィー!」
ニタニタと卑下た気持ち悪い笑顔でこちらを向く彼女に、アタシは呆れ、身下げ果てる。『
「呆れた。かけてやる言葉もねぇや」
「そしたらネー!?聞いてよ血穢!!『ご先祖』がウチをボコってネ!?心臓に『黄泉送り』を撃ってネ?死にかけたんだヨ!?…ア、ちがった死んで黄泉帰ったんだヨ?」
「でサー、そん時の痣が丁度オッパイのー、確かこの辺ニー…」
そういって『妖廼』が自身の着ているシャツをまくり上げようとしたので、アタシは慌てて
「バッカお前!!家で飲んでるんじゃないんだぞ!!?」
と彼女を制した。…慌てるアタシに『妖廼』は大笑いしてふざける。
「アッハッハ!!血穢ってホントに幽奈と一緒で弄り甲斐あるよネー」
メンドクサイ酔っ払いの相手にため息をつくアタシと、それを見て再び一笑いする妖廼。しばらくそうやってふざけ合っていると、彼女は再び立ち飲みカウンターに突っ伏し、腕を枕にしながらこっち向いて目をトロンとさせながら、囁く様に静かにアタシに告げる。
「『血穢』…『幽奈』…貴方達を虐める奴は、ウチがみーんな殺してあげるからネ?それが貴方達のお姉さんである、ウチの務め♡」
「…悪酔いし過ぎだアホ…。もう出るぞ。…マスタぁー!水二つとお勘定!」
酔いの微睡みの中、水とお勘定を待ってるアタシ達の横を、店内の別のテーブルでさっきまで一人飲んでいた白髪の小柄な男性老人がゆっくりと通り過ぎてゆく。その老人の動きはとてもおぼつかなくて、恐らく盲目なのか、自分の『
その老人は自分の『白杖』と間違えて、アタシが壁に立て掛けた置いた仕込み刀の『炮烙』を手に取り、店から出ようとしたので、アタシは人生の先輩である、その老人に敬意を込めて丁寧に注意する。
「ちょっとお爺さん?それはアタシのだよ?お爺さんのは、ほらこっちの…」
「…おぉーすまんね。へへっ、つい癖で…ね。」
盲目の老人はそういってはいるものの、アタシが差し出した『白杖』を手に取らず、ずっとアタシの『炮烙』を握っている…。困ったな盗み癖のある爺さんか…。ぶん殴って取り返す訳にもいかないし、一体どうしたものか。しかしこの爺さん何処かで見たような…?
「…。」
刹那、さっきまで酔いつぶれて突っ伏していた『妖廼』が、突如、彼女の
「!?妖廼!!やめ」
ガキィィン!!!
アタシの静止をよりも早く、鋼鉄の金属が激しくぶつかった際の非常に高い高音が店内に響き渡る。アタシの予想と現実に起きた事は異なり、老人はアタシの『炮烙』を最小限の動きで途中まで抜刀し、妖廼の剣閃をいともたやすく受け止めた。
「…へへっ駄目じゃないの。こんな狭い所で刀振り回したら」
「フーン。お爺ちゃん?…アンタ只の『盲人』じゃないねよネ?」
「…そういうお嬢ちゃん達も『血の匂い』がするなぁ…。それも腐りきった…。特に切りかかって来た方の…へへっアンタ一体全体、何で『お月様の匂い』がするんだい?」
「…死ネ、糞ジジイ」
妖廼が再び老人に切りかかろうとした時、老人は彼女の剣速をはるかに超えた神速の斬撃を繰り出し、妖廼の胴体に巨大な十字の刀傷をつけた。
「妖廼!!」
…斬られたはずの妖廼は何故かリアクションを取らずに、アタシにその場を動かないよう目で指示をだす。…違和感。…なるほど、『幻肢の術』か…。
アタシはそっと首飾りの
「そっちのお嬢ちゃん。アンタぁ賽子変えたね?」
気づかれた!?…いやおかしい!?アタシの
「へへっ目明きの耳は誤魔化せても、目暗の耳は誤魔化せない!!」
老人はそう言うと、アタシ達が目で追えないレベルの速さの斬撃で、アタシの
神の御業と思える程の反応速度とスピードに翻弄されるアタシ達はそのままの流れで、老人の斬撃に巻き込まれ、二人ともその首を吹き飛ばされた…。
「悪いね、お嬢ちゃん達。こいつをほんの少しだけ返して貰うよ…」
消えゆく意識の中、『アタシ達』と『老人』のあまりの戦闘能力の差にアタシ達は絶望した…。
クソ!!!『幻肢の術』の中とは言え、何も出来ずに首を落とされちまった。
…しかもこの太刀筋と切られ心地!!!まるで『師匠』の!!!?
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