Act.6 甲骸のハサン 4

「ガアァアァアアアァアァ!!!!!!」


 アタシは相棒NiNJA666の車体を力任せに、ジャックナイフ前輪走行状態に起し、相棒NiNJA666を盾にする形で『ハサン』の斬撃の直撃を防ぐ。分かってはいた話だが、流石に衝撃までは防ぎきれず、相棒NiNJA666車体からだバラバラに砕け、アタシ達は高速道路から大きく吹き飛ばされた。あと少しでたどり着けるはずだった『魔鬼野ヶ池公園まきのがいけこうえん』まで吹き飛ばされた瞬間、アタシは咄嗟に、『炮烙』の、そのアタシはを放った。


「百鬼…葬死流奥…義…『衣蛸ころもだこ』」


 アタシの手から流れ落ちる赤黒い『穢血』は膜状の風呂敷となって幽奈を優しく包み込み、柔らかい球状となる。これで安心だ…。落下の衝撃と外傷は全て、『衣蛸ころもだこ』が吸収してくれるだろう…。

 …じゃぁアタシは一体どうするんだって?…知らないし、興味も無いよ、そんな事…。


「さよなら幽奈。アタシはどうやらここまでみたいだ…『師匠』と『妖廼』によろしく言っといてくれ」


 そしてアタシは心の中でここまで頑張って来たにも別れの挨拶をした。


「…それにごめんね『NiNJA666』。今までホントありがとね…アタシもすぐそっちに…」


 別れを告げ、物理法則に乗っ取ったアタシと幽奈は、それぞれ別の方角に飛んで行った。あの方角…幽奈は多分、『魔鬼野ヶ池公園まきのがいけこうえん』の大池にでも落ちるのだろう。『衣蛸』もあるし、泳ぎも上手く寒さに強い幽奈だ。確実に助かるだろう。


 一方アタシは…若竹が多いな…へへっ、こいつは笑える。


「復讐の女剣士『蛭蟲 血穢ひるこ ちえ』……か」


…………………………………………………………………………………………………


 気づけばアタシは若竹の多い竹林の中で仰向けに倒れていた。幸か不幸か、即死はしなかったらしい。残念なのはさっき皮肉で言ったとおりに、タケノコがアタシの脇腹を貫いていたことだった。ついでに全身打ち身で右足は逆方向にひしゃげていて。さらには『炮烙』のは骨にまで達しており、ギリギリ繋がっている状態だった。


「あ、ぐぁあぁっく…あああぁぁ」


 全身を駆け巡る激しい痛みに悶え苦しみのたうち回っていると、視界に移ったのはアタシの近くのベンチに座り、こちらをじっと見つめる『ハサン』の姿であった…。


「ぐっ…殺れよ…。一思いに…」


「…我が仇ながら天晴れであった『蛭蟲 血穢ひるこ ちえ』殿。その『業』、『心力』、『魂』どれも一級品。そなたこそ、誠の武人であろう…!!」


「死人の、くっ…手向けにし…ては月並みだな…。『幽奈』には手を…出すなよ…」


「ハハっ血穢殿。手を出すも何も、。いやはや、殿、ハっハっハっ!!!」


 ハサンがそう言い終えた瞬間、奴のが、氷の結晶の様に粉々に砕け散る。


「!!?何が…あった?」


「やはりで御座るか!!ハっハっハっ!その方が良かろう!!!あの恐ろしい『の死剣』を見ては、夜もおちおち眠れまい!!」


「…にしても血穢殿。そなた本当に良き『戦友とも』も持った!正直、拙者は羨ましいで御座る…。拙者の愛馬、『宝仙ほうせん』もあくまで。心がある訳では御座らん…」


「…長生きしてるのに知らねぇのか?どんなものにも宿んだよ…。大切にしてれば猶更な」


「………これは一本取られましたな。…これではあの世で『宝仙』に笑われそうだ」


 ハサンの身体がさらに冷たくなって崩れていく…。


「…お前は何で千尋にを拒んだ?…いや、無粋だな。聞かなかった事にしてくれ」


「…拙者は別にのでござるよ、血穢殿」


「拙者はただ、『千尋様』にを問うたに過ぎぬのです」


…そのお覚悟を…」


「しかし、拙者ごときがを推し量ること自体が罪、そしてがその罰。そうでありましょう?我が主であり、我が女王、『血蒼ちひろ・ヴァレンタイン様』?」


「…そうだねハサン。でも…もう苦しまなくてもいいよ?あとは全部私に任せてね。…じゃぁお休みなさい『甲骸のハサン』…良い夢を…」


 突如この場の…ハサンの背後に現れた『血蒼千尋』が、ハサンの首筋に自身の二本の指を突き刺し、ハサンのした。


「!!?それがお前の真名か『血蒼千尋』!?王族気取りとは随分と偉くなったなぁ!」


「こんばんわ…フフっというかさっきぶりだね『血穢』。…酷い大怪我だね、


 突如現れた『血蒼ちひろ』がそう言いながら、仰向けに倒れてるアタシに近づき、倒れてるアタシの傍に手当をするために座る。彼女は自身の、流れ出る彼女の『蒼の浄血』をアタシの患部に接着剤の様に塗り込んでいった。

 アタシの患部の傷は、「ジューッ」と肉を焼く様な音を立て、赤黒い煙をあげながら、みるみる内に治っていった。


「くっ、何しやがる!」


「いいからじっとしてなよ『血穢』。…貴方はこんなとこで死んではいけない」


もあるしね。…とにかくありがとう。ハサンを


「アタシは。アタシが気絶してる間、一体何があったんだ?それにお前も」


「………。『血穢』、貴方のおかげだよ。貴方の『覚悟』が私に流れる『蒼の浄血』を目覚めさせた」


「それに質問の答えはいずれすぐ分かるよ…。とにかく『血穢』。私はね…って決めたんだ。…もう迷わない」


 さっきから何を言ってるんだ?…少なくと分かるのは『血蒼ちひろ』は私も喰おうとしている事ぐらいだ。…でもなら何でここでアタシの傷を治すんだ?


「フフ…『蒼の浄血』に目覚めたばかりのアタシ一人では、流石に『カミラ』と『ヴァニタス』そして『』とやり合うには分が悪すぎるからね?」


「…お前!?心の中を!!?」


「ごめんね『血穢』♪傷を治すついでにから」


「!?クソっ!!アタシはお前の玩具じゃ…!!」


 『蒼の浄血』のおかげで傷が治り、体力もあらかた回復したアタシは、起き上がるのと同時に、『血蒼ちひろ』の顔面に拳を叩きこもうとする。…しかし、アタシの拳は彼女の顔面の寸前で止まり、それ以上に打ち込むことが出来ない。


「フフ、この♪…『!蛭蟲 血穢!!』」


 アタシの身体はアタシの意思に反し言う事聞かず、前のめりに倒れ込んでそのままひれ伏す姿勢を取った。この状態で姿勢を固定され、アタシは身動きが取れなくなった。


「この!!アタシの体が!!なんで!?」


「アハハっ!すごい!こんなにんだ!」


 意思に反して、『血蒼ちひろ』に跪くアタシを鼻で軽く笑った彼女は、ゆっくりとアタシから離れてゆき、背中を向けながらアタシに告げる。


「…私はもう『神薙 千尋』では無くて、夜兎の始祖である『血蒼ちひろ・ヴァレンタイン』…今回の非礼は見逃すけど、私に対する無礼は許さないよ『蛭蟲 血穢』」


「…。そろそろ「幽奈』達が来るか…じゃあね『血穢』、おやすみなさい。また会いましょう。」


「まて!!」


 アタシの静止を聞かず、『血蒼ちひろ・ヴァレンタイン』は影となってこの場から消え去った。















 暗闇の竹林の中、静寂の中でアタシは一人取り残された。

 さっきまで高速道路で『ハサン』と死闘繰り広げていたばかりなのに、急激な変化を伴う展開に頭の理解が追い付かない…。

 クソっ!!アタシが気絶してる間に、…!?




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