Act.6 甲骸のハサン 2
『龍劫禍街第二環状自動車道』を全速力で駆ける。焦るアタシは情報を簡単に掻い摘んで、『甲骸のハサン』と今の状況についてを幽奈に説明した。
幽奈は最初こそ何事かと騒ぎ立てていたが、アタシが説明した状況を理解した途端、彼女は沈黙し、代わりに身を凍らせるような冷酷で無慈悲な殺気を徐々に放ち始めた。
その殺気はアタシに向けられているものでは無いにも関わらず、隣にいるアタシの筋肉や皮膚が恐怖を覚え、身体を強張らせてゆく。こうなってしまった彼女は本当に恐ろしい。普段のオタクみたいなオーバーリアクションで喚く彼女はすっかり鳴りを潜め、今アタシの背後に座っているのは『冷え切った死』そのものだった。
『幽奈だけは絶対本気で怒らせてはいけない…』
アタシと妖廼がそうやって秘密の盃を交わしたぐらいだ。…でもいくらナイトドライブを邪魔されたからってお前がそこまで怒ることなのか?
すっかりテンションがおかしい幽奈と対象的に、『ハサン』はアタシ達に追い付いて来そうなスピードとペースで馬を走らせ、こちらに追い付こうとする。
『方天戟』の射程外ではあるが、ある程度の距離が埋まった時、ハサンは町中に響き渡る様な大声でアタシ達に対し名乗りを挙げた。
「我!!『ハサン・ヴァレンタイン』なり!!!
…なるほどな。それもそうか、あいつらからすればアタシの方が『憎き仇』ってわけだ…。
だが何か忘れて無いか?先に引き金を引いたのはお前らの方だろうが!!!!
「何をバカな事を言ってるのかと」、確認と共有の意味を込め幽奈の方を見ると
「ウフフフ…どいつもこいつも…フフ…殺してやる…殺してやる…」
既に別の方向でズレて逝っちゃってる幽奈に言える事は何もなく。アタシは何事も無かった様に前に向き直した。
アタシは瞬時に体重と車体を横に無理やり傾けて車線を変え、飛んでくる『血の魔矢』をなんとか交わした。横切った『血の魔矢』は轟音を立てながらポップアップし、そら彼方に飛んで行く。それを横目で見た幽奈はすぐさまヘルメットのインカムと自身の携帯を接続し、誰かに電話かけた。
「ワタクシよ。…えぇ…そうよ。…『
幽奈はそういって荒々しく電話を切る。電話相手は誰か知らないが随分とかわいそうだ。
「流石に無茶ぶり過ぎるじゃないか幽奈?」
「関係ありませんわ。貴方は自分の心配をなさい。…それより」
そう言って幽奈は自身が被っているフルフェイスのヘルメットを脱ぎ去り、後ろに放り投げる。投げられたヘルメットはハサンが放った二の矢と丁度ぶつかり、矢は軌道を変え、高速道路の壁刺さった。そのまま幽奈はアタシのヘルメットも剥ぎ取り、同じように投げ捨てて、同じことが起きる。そして彼女はアタシの後頭部の延髄らへんに人差し指を突きたて、アタシに『念話』の魔術をかけた。
「ノイズとラグは…大丈夫みたいですわね」
「相変わらず化け物じみた命中精度だな…。どこに目がついてるんだよお前は」
「…こんな言い方するべきでは無いでしょうけど血穢…『ワタクシ』と『貴方』では、これまで見てきた
「……。」
「…ごめんなさい。ついムキになって。…ワタクシも修行が足りませんわね。…でもそんな事より…」
「『もう弾がありませんわ』。血穢、何か他の武装はありますの?」
アタシは黙ったまま、ハンドルについてる収納を開くボタンを押す。するとハンドルのすぐ下の収納スペースから『
幽奈は手慣れた手つきで
「幽奈、使い方は…」
「あら?ワタクシが自社の製品の使い方を知らないと思って?」
「だよな。必要ないか、やっぱ」
「フフフ…しかしこんなところでワタクシの『処女作』と出会えるとはね♪…血穢、以前からこれを?」
「あぁ、色々試したけど、これが一番しっくりきた。まさかお前の設計だったとはな」
「フフ♪『この度は弊社の自信作をお買い上げ下さり、誠に有難う御座います♪』」
上機嫌な彼女はそう言いながらアタシが渡した『DA《デスエンジェル》』にマガジンをセットして、その金色に輝く巨大なスライドを力強く引いた。
「ふざけてないで真面目に頼むぜ幽奈。お前に掛かってるんだから」
「?それはお互い様というものよ血穢…」
バァン!!!…『DA《デスエンジェル》』が放たれた弾丸と共に、月灯り照らされた夜空に吼える。幽奈がまた、ノールックで血の魔矢を打ち落とした。
「あと二十回しか防げないですわよ♪」
彼女はそう言うと、アタシと背中合わせの姿勢でタンデムシートに座りなおし、集中の為深く息を吐いてから、銃口をハサンに向け、構えた。
幽奈曰く、一応10分後には増援が来るみたいだが…。正直あてにならないと思った方がいいだろう…。背中合わせの『死の天使』が健在の内になんとか対策を考えねぇと!!!
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