Act.5 崩爛亭・老仙 5

 師匠の警告でピタリと動きが止まる妖廼。…ほんの一瞬…本当にわずかだが、この場の全員を凍り付けるようなの悍ましく鋭い殺気が妖廼から発せられ、場の緊張感が一気に高まる。それは、師匠やウラドが目を細め眉をひそめるほどの物だった。

 …この店のオーナーである『除怨』が最後通告として妖廼に伝える。


「『妖廼様』…。いくらであってもこれ以上は…」


 これ以上は流石にまずいと思ったのか、除怨の警告に様に妖廼はケロッと答える。


「やだナー♪一体何のことやら?は言いがかりですヨー。ウチは胡桃を食べたかっただけですっテ」


「…ただァ、ウチってあんまりを聴くと、指がしちゃって…ネ?…」


 妖廼はそう言いながら片手で手に取った二つの『殻付き胡桃』をカチカチと音を立てながら手の中で弄んで、そしてを指の間で挟み、『千尋』と『ウラド』に向けて指の力だけで『胡桃の殻』をバキバキと砕き割り、中の実もそのまま握りつぶした。


「妖廼。いい加減になさい。問題をこれ以上複雑にしないで」


 完全にキレてて目上の人の言葉が聞けない妖廼を厳しく諭したのは幽奈だった。


「…幽奈は何も感じないノ?血穢にって言ってるんだヨ?…こいつら」


「それは貴方が穿をしているからですわ妖廼。そもそも『千尋』は本当は平和的に問題を解決したがっていますし、まずそもそもとして。…そうでしょう?『先生』?」


「…相変わらずお前は聡明だな幽奈。…その通りだ。本当の問題は少し違うところにある」


「…ウラドの子供達らは『リバーシ』を隠れ蓑にして、活動を始めた。目的は…『神薙 千尋』の身柄の確保…つまりこれから間違いなく攻勢に出て来る」


逆に『千尋』を食べようという訳ですのね…。亀裂は深く、交渉は既に不可能と…」


「私を利用し、国家転覆を狙う組織に組した以上、もう『夜兎』と『血穢』だけの問題では無い…。幽奈。妖廼。明日からお前たちは『神薙 千尋』の任期未定の護衛任務についてもらう」


「な!?先生それは!!」


「ハ?冗談でしョ?ウチやんないよ!!」


「これは『龍劫禍街元首』たる私からの正式なだ。逆らう事は許さん。…幽奈、お前は扱いにした。心配するな、単位はちゃんと取れるように手配した、…志望大学の入学も既に決定済みだ」


「そんな権力に託けた何て…」


「…お前の学力は既に志望大学を首席で卒業できるほどだ。忘れるな幽奈、お前は普通の一般人では無い。


 幽奈は唇を少し噛み締めて渋々勅命を受け入れた。


「…承りました。、『月のナイア様』」


 幽奈の承諾を聞いた師匠は複雑そうな顔で妖廼の方を向く。


「妖廼…」


「マジありえなイ…ウチ帰る。納得出来ない」


 妖廼はそう言うと彼女が飲み残した『黄金神鞭酒』を持参した瓢箪に流し込む

 スタッフや『除怨』オーナーの説得やお見送りもきっぱり断り、彼女はそそくさと席を立つ、部屋の扉を力任せに開けてた彼女は『千尋』と『ウラド』に対して


「…アー、この辺りは明るくても意外となんデ、夜道を歩く際は…それでは御機嫌よウ♪♪」


 と捨て台詞を吐きながら大げさにふざけて『カーテシー西洋式のお辞儀』し、この場から出で行ってしまった。


 幽奈な最悪な場を取り繕う為に二人に対し妖廼代わりに


「この度は申し訳ございません、私達未熟者故にこのような無礼を…」


と深く謝罪し、そしてそれを見て深くため息をつく師匠はこの場の全員に謝罪した。


「いや、謝るのは私の方だ。二人とも本当に面目ない…。不出来な弟子を持った。後でしっかりと叱りつけて置く…」


 師匠がそういうと、ウラドは少し目を伏せた後、ぽつぽつと語りだした。


「いえいえ。わが師よ、よく考えても見て下さい」


「『血穢』殿は…。『妖廼』殿は傷ついた血穢殿に代わり怒りを表し、、そしてその全てを『幽奈』殿」


「…実に聡明で立派な若者達だ。それに力や立場に屈しない勇敢さも兼ね備えている…。ハッハッハッ、『龍劫禍街この街』の未来も明るいですな!わが師よ!?」


「今、褒められても困るよウラド。…『血穢』?『千尋さん』?もう大丈夫だね?」


 感情を吐き出し切り、徐々に冷静さを取り戻したアタシ達に優しく尋ねる師匠。

 これ以上この場で恥をかけないアタシ達は、頬に残る涙を拭きとり


「大丈夫です。ご心配をお掛けしました」


 と答えた。それを聞いてウラドが少し考えてからアタシに再度問いかける。


「血穢殿…。どうやら『我々』と『貴方』、そして『子供達』は価値観の相違から決して相容れぬ者同士。…今夜はそれがはっきりと判っただけでも充分でありますな」


「相容れぬのならば導き出す答えはもう、それぞれの信念に従った結果の運命に委ねるしかありません。…違いますかな?」


 …おそらくもう『恨みっこなしで勝ったもん勝ち』にしようという事か。

 アタシは最初からそのつもりだったし、この会合自体もさほど意味を持たなかったが…いや違う。お互いの意思を確認するかしないかでは、結果が同じでも大きな差異があるか…。

 …アタシはウラドの問いに対して反対する理由も無いので


「違わない。アタシもこれ以上の問答は時間の無駄だと思う」


 アタシの返答を聞いた千尋も呼応するように吐露する。


「…そうだね。『血穢』。『ウラド』。私ももう覚悟を決めたよ。次会うときに争うことになっても」


「ならばもう話し合いは終わりですな。今夜は解散と致しましょう!よろしいですな?わが師よ?」


「…君たちが良いなら、私から言う事はないヨ」


 師匠の了承を聞いたウラドは席を立ち、彼の手荷物をスタッフの返して貰うと、アタシ達全員に軽くお辞儀をして


「今夜は非常に良い夜でした。それでは皆さん、良い夢を…」


 と言い残しこの場去って行った。

 アタシも荷物を返して貰い、幽奈を彼女の家に送り届けなければいけないので彼女を呼ぶと、代わりに師匠が「この二人に明日からの事を伝えるから先に駐車場で待ってて」と言ったので、アタシは師匠とオーナーに帰りの挨拶をして、先に駐車場に向かった。







 
















…幽奈の立場からしたら、『アタシ』と『千尋』の関係性は頭を悩ます問題だろうな…。アタシは別に『千尋』をどうこうしようとは思わないが、もし仮にアイツがアタシの命を……もう考えるのはよそう。その時が来たらその現実と向き合うだけさ。

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