Act.5 崩爛亭・老仙 2
「血穢。いくら何でも、迎えに来るのが早すぎるのではなくて?到着するころにはまだ17時半くらいですわよ」
幽奈を後ろに乗せ、普段はしない法定速度で雑談しながらこの街の歓楽街『
「こういうのは早すぎるくらいが丁度いいんだよ。時間ギリギリで来るのは社会人の振る舞いじゃないさ。…特に若いなら猶更な。」
「…ふーん。そういうものなのですわね」
…意外とこういうところは子供なんだな。たとえ命にかかわらずとも、常にトラブルと最悪の想定をする習慣付けが『幽奈』に無いのは『社会に守られる学生』と『社会に使われる大人』の意識の差異が生み出すそれなのだろう。
「そういえば幽奈。お前は学生服でいいのかよ?ドレスコードあるんだろ?」
「この街で最高ランクの権威と学力がある『
「…それより貴方のそのホスト崩れみたいなカッコの方が問題だと思いますわ…。お店には流石に入れるでしょうけども…」
「別にいいだろ?伸びたウルフカットもやめてショートヘアーにしたんだし…清潔感はあるだろ」
「血穢、貴方ドレスとかスカートを絶対に着ませんよね?何か理由がありますの?」
「…嫌いなんだよ、フリフリした格好。アタシには似合わない…。」
「…勿体無いですわね。本当に…。」
なんだか話が気まずくなり始めたところでアタシ達は目的地である『崩爛亭・老仙』に到着する。流石この街の歓楽街に店を構えてるだけあって、高級感がありながらも落ち着いた雰囲気を醸し出すこの店構えに、普段こういう場所に慣れてないアタシの気持ちが多少たじろぐが、ビビってるアタシの背中を幽奈に小突かれたので、緊張した面持ちでお店の地下駐車場に向かう。
地下駐車場でこの店のドアマンに案内され、手荷物を含むすべての身体検査をその他の女性スタッフから受けた後、アタシ達はお店の受付ロビーに案内された。
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ロビーでは既に、高そうなソファーに座った『妖廼』が中国茶を楽しんでおり、こちらに気づいた彼女がこちらに手を振ってこちらに来るように促した。
「あーやっと来た来た、待ってたヨォー二人とも!!これでやっと呑める!!」
「貴方も早く来すぎではなくて?妖廼」
「イヤー…やる事ないから早くに来て、『老酒』を楽しもうと思ったんだけどネー…。『ご先祖』が後にしなさいって…」
「クスクス、貴方らしいわね」
「ムー…」
幽奈のからかいに頬を膨らませる妖廼は『アオザイ』をベースとした黄色のチャイナドレスを着ており、その美しい金髪と白い肌も相まってか、普段のギャルみたいな格好からは想像できない気品さ醸し出していた。振る舞いと表情は相変わらず子供のようだが…。
「あ!!血穢、髪切ったんだネ!!相変わらずカッコイイよねー。羨ましいナー」
「ワタクシとしてはもう少し、女性らしくして欲しいのですけどね」
「うっせー、アタシの勝手だそれは」
アタシ達はそうやって、やいのやいの騒いでいると、今しがた店の入り口から入って来た人物二人から声を掛けられる。
「おやおや、これは随分と
「…こんばんは皆さん。…一人は初めましてかな?」
…アタシの予想どおり『千尋』と、やっぱり名前を伏せていたのは『ウラド』だったか…。アタシは自然と拳を強く握る。でも我慢だ、ここでは暴力沙汰は厳禁だ。
「イヤー、初めまして『妖廼』っていいます!ウチぶっちゃけ、食事を楽しみ来ただけなんでウチの事はお気になさらないで下さい!」
軽々しい挨拶しながら二人と握手する妖廼に「フフ…元気なお嬢さんだ」とほほ笑む『ウラド』と、気まずそうにアタシと幽奈をチラチラ見ながら愛想笑いで返す『千尋』。
…そしてそんな『千尋』を見て複雑な表情をする幽奈。
どうやら役者はそろったみたいだな。『師匠』どうせ先に席についているだろう。
暫くすると店の奥からこの店の
「ようこそ皆様、本日は『崩爛亭・老仙』にお越しいただき誠にありがとうございます。では皆様お揃いになられた様ですので、お席の方に案内をさせて頂きます。どうぞこちらへ…。」
…アタシ達は店の奥の煌びやかな大広間に案内され、これまた豪勢な装飾の中華テーブルの指定された席にそれぞれ座っていった。
…『師匠』の席は空席となっていたが恐らくあそこに彼女の霊体が今座っているのだろう。まぁ会話に混ざるタイミングがあれば、一時的にだが勝手に顕現しその時にはアタシ達にも見える様になってるはずだ。
はっ…まったく今夜は相当荒れそうだな。…でもアタシは怒りで我を忘れないように本当に気を付けないとな。…自制しろ。冷静になるんだ。どんな時も。
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