幕間 入院先にて…。2

肌埜 妖廼はだの あやの』。月のナイアアタシの師匠に師事する3人目の弟子。彼女は師匠同様美しい金髪とスラッとした高身長で、しかも出るとこは出てるいわゆるってやつだ。彼女は月のナイアのであり彼女は師匠の事を『』と呼び敬愛している。 

 性格も師匠譲りで愛想が良く、いつも飄々として基本いい加減なので、一見何を考えてるか分からない感じだが、実際のとこ思慮深く、ある意味アタシ達三人の中で一番なのかも知れない。

 その『妖廼』がそのまま病室にズカズカと入って来たかと思うと、彼女は抱えていたお見舞い用の持ってきた『月華草げっかそう』のをアタシのベッドの横に置いた。


「はぁ~疲れたー。はいこれ!お見舞いのお花ね♪」


 その様子を見た幽奈がさらに呆れ果てる。


「妖廼…。…アナタお見舞いのお花に鉢植えは禁忌タブーって知りませんの?」


「ウェッ!?そうなの?…まーまー良いじゃないの幽奈。細かいことは♪…あ、これ貰うね!」


 妖廼はそう言うと幽奈がリンゴを大口を開けて、一度に二切れ食べる。


「あぁあぁぁあぁ~…」


 幽奈のあまりの自由さに幽奈は頭を抱える。正直リンゴそのものより、今の状況の方が楽しいので、アタシはそれをニタニタとそのやり取りを見ていた。


「これはまたに常識を教える講義を設ける必要がありますわね…。まずはくぁwせdrftgyふじ…」


 ぶつぶつと独り言を始める幽奈を横目にアタシは妖廼に話しかける。


「丁度よかった妖廼。お前、アタシにジャケットに入ってた…」


「んフー♪これでしょ血穢?そろそろコレが欲しいんじゃないかと思ってね」


 そういうと彼女はアタシの携帯水煙草vapeと折りたたまれたメモ紙をアタシの

お腹のあたりに置いた。


「血穢!あなたまさか病室で吸うつもりでしたの!?」


「違う違う。目的はこっちだっての」


 アタシはお腹のメモ紙の方を取り上げ中を確認する。幽奈と妖廼も続いてそれを覗き込む。防水加工されたメモ紙に、乱雑ながらも綺麗な字で書かれていたのはこの街のとある場所の住所だった…。


「これは…?」


「…住所ですわね。血穢、何故これを?」


「『千尋』に手渡された…。ってな」


「なんですって!?」


 幽奈はそう言ってメモに書いてある住所をスマホの地図アプリで検索し始める。慌てる彼女とは対照的に冷静なアタシはさらに重要な事を彼女に伝えた。


「幽奈。お前も来いってよ」


 幽奈の忙しく動く指が一瞬止まるが、すぐさま再び動き出す。


「それは僥倖ですわね…。 言われなくとも乗り込むつもりでしたわ」


 …多分こういう所なんだろうなアイツと揉めた原因は。


 その一方、妖廼はアタシから受け取ったメモ紙を凝視しながら自身が普段から腰のベルトからカラビナを通してぶら下げてる『瓢箪』の酒を飲んでいる。


「ごく…ごく…ぷはぁ、ねぇねぇ二人とも。ここってもしかして…」


「出ましたわ!!」


 幽奈がスマホの画面をアタシ達に向ける。表示された画面にはこの街龍劫禍街の歓楽街。『尼祇鬼通りにしきどおり』にある超高級中華料理店。『崩爛亭・老仙ほうらんてい ラオシェン』。一見さんお断りの完全予約制の超高級店で一番グレードの低いコースでも一人当たり三万ゼニーはするという。あまりに有名な店で、みたいな奴でもその名前とは知っている


「やっぱ『老仙ラオシェン』じゃん!!ここで出すが凄く美味しいらしいネ!!」


「…おいおい。こんな高い店、で入れないぞ。どうすんだよ」


の『ワタクシ』という訳ですのね…。『千尋』」


「…ですが合理的ですわね。あの店は『非武装』と『完全中立』の姿勢を貫く特別な場所。もあそこでは許されず、も頻繁に利用しているだけあってにはピッタリのお店ですわ」


「幽奈!お願いっ!!ウチも連れてって!?絶対に邪魔しないからァ~!!!」


「なっ!?駄目に決まってるでしょう!!貴方には関係無い話ですし、第一あなたが居るといちいち面倒事が起きて大事な話が進まな…」


「あ~ん!!幽奈のイケズゥ~!!お願い!お願い!!お願いィ~い!!!」


 妖廼がそう言いながら幽奈の胸に顔を埋め、鼻を擦り付けながら懇願…いや駄々をこねる。


「ダーーァ!止めなさい妖廼!!…!?ヒィ゛ィ゛!?服に鼻水が!?はあぅぁぁ…」


 幽奈はへなへなと全身の力が落ち抜け、助けて欲しそうに涙目でアタシを見つめる。悪いな幽奈。そいつは出来ないってハナシだ。…あとできればこの店老仙の代金も払って下さい。


こいつ妖廼連れて行くかはまぁ置いといて、そもそも突然行って入れるようなところじゃ無いんだろ?」


「流石に『千尋』の事ですから何かのはしてあるのでしょう…」


お店老仙にアナタの名前で予約の電話を入れれば、何かわかると思いますわ」


 幽奈はそういいながら『老仙ラオシェン』に電話を掛ける。彼女はそのままアタシの名前で予約の取り付けを続けると、向こうの電話受付が何かを言ったのか、幽奈は驚いた表情をしてからアタシに確認を取った。


「血穢。貴方たしか『千尋』にで話そうと言われたのでしたよね?」


「?そうだけど、何かあったのか?」


「…既にで予約が取れてるみたいですわよ…。妖廼、貴方の名前もありましたわ」


「ウェエ!?マジ!?ヤッター!!棚ぼたラッキー!!」


 「千尋は、と言ってたはずだぞ…。向こうの状況も一筋縄って訳じゃ無さそうだな」


「…あと二人は誰なんだよ?」


 『妖廼』が呼ばれてる辺り、一人は何となく想像がつくが…。

 幽奈はと言わんばかりのニタニタした笑顔で妖廼に告げる。


「一人は『先生』ですわ。…良かったですわね『妖廼』♪」


 一方さっきまではしゃいで喜んでいた妖廼はその笑顔のままフリーズした。…よっぽど『師匠』に会いたくない理由でもあるのだろう。まぁそうだろうな。こいつは普段から不真面目で素行が悪すぎる。

 …、アタシとしても『師匠』が参加して目を光らせてくれてた方が、アタシのを自制できるだろうしむしろありがたいかもな。前に『師匠』が言ってた『時が来れば話す』ってのも多分今回の事だろう。

 

 しかし問題はもう一人だ。


「もう一人は?」


「それが『サプライズの為、名前は伏せておいて欲しい』との事で、お店側からお伝えすることが出来ないみたいですわ」

 

「…。」


 考えられる候補は限りなく少ないが、が本当にこの場に来るのか?いや、だからこその『師匠』なのか…。にしても、表社会では即身仏ミイラになってると言われてる師匠があたり、流石『老仙ラオシェン』、『裏社会の宴会場』と都市伝説界隈で言われてるだけあるな…。


「とにかく予約日は2週間後の22918時ですわ」


「…そういえば今年はだったか」


 しばしする星の暦の、そのに会合を設定するあたり何かしらの意図の様な…いや、それこそ運命なのかもしれないな。


「当日はどうする?現地集合か?」


「ワタクシは学校の帰りになるのでそのまま従者に送ってもらいますわ」


「ウチも今居るホテルが近所だからそれでイイヨー」


「分かった。スケジュールに入れとく」


「あ!!そういえば、血穢!妖廼!…『老仙ラオシェン』はドレスコードがあるちゃんとしたお店ですので二人ともTPO格好で来るように!!」


「ヤダナァー幽奈。ウチら流石にそこまで馬鹿じゃないよ?ねー血穢?」


 『オーバーサイズでロゴだらけの派手な銀メッキのダウン』を着崩す妖廼を見てアタシは言葉を詰まらせる。まぁいつも男臭いバイカーファッションの恰好ばかりするアタシが言えた話でも無いし。


「…すくなくとも今はそのTPOしてるけどな!」


 そういってアタシはふざけて大げさに『着ている病院服』を二人に見せつける。それを見てケラケラ笑う妖廼と「もう!!」と怒ってから何だか可笑しくなって優しく微笑む幽奈。

 

 アタシ達はしばらくそうやってふざけ合いながら穏やかな時間を過ごした。毎日毎日こんな日が続けばいいのに…。楽しい時間は何時だって星の流れの様に早く過ぎ去ってゆく。気づけば辺りは薄暗くなり時刻は16時過ぎを差していた。


「あら、もうこんな時間。…そろそろお暇しますわね、血穢。」


「ウチももう帰るかー、溜まってるドラマも消化しないとだし♪」


「あぁ。二人とも今日はありがとな。…ホントに」


 アタシは普通にお礼を言っただけなのだが、二人は驚いて目を丸くしてから互いを見合って、それから吹き出した。なんだよ…?何か変な事言ったか?

 二人の様子を見てキョトンとするアタシに対して幽奈が笑いながら口を開く。


「いえ、あんなに素直な感じでお礼を言われると何だか可笑しくってクスクス」


って感じで全っ然血穢っぽくなかったよねー。ウケルww」


 二人に笑われて、何だか恥ずかしくなったアタシは、顔を真っ赤にしながら「早く帰れって!」と二人に促してからそっぽ向いた。こんな顔見られたくない。

 

 暫くして一しきり笑いが収まった二人は


「それでは御機嫌よう血穢♪お大事に」


「またネー血穢!!月華草それ退院まで捨てないでネー!!」


 と言って病室をあとにした。


 二人が帰った後、急に静かになった病室で先ほどの楽しい時間の余韻に浸るアタシは、何だか無性に一服したくなって病院に内緒でそのまま病室でこっそり携帯水煙草vapeを吸った。口から吐き出る赤黒い水蒸気偽の煙が病室を漂い、沈むような甘い香りと突き刺す清涼感がアタシの喉を確かに潤した。























 そうだ…。確かにアタシは決してでは無かった筈なんだ…。アタシの事を大切に思ってくれる親友がいた筈なんだ…。けどアタシはどうしてあんな事を言って、あんな事をしてしまったんだ…。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る