幕間 入院先にて…。2
『
性格も師匠譲りで愛想が良く、いつも飄々として基本いい加減なので、一見何を考えてるか分からない感じだが、実際のとこ思慮深く、ある意味アタシ達三人の中で一番大人な人物なのかも知れない。
その『妖廼』がそのまま病室にズカズカと入って来たかと思うと、彼女は抱えていたお見舞い用の持ってきた『
「はぁ~疲れたー。はいこれ!お見舞いのお花ね♪」
その様子を見た幽奈がさらに呆れ果てる。
「妖廼…。…アナタお見舞いのお花に鉢植えは
「ウェッ!?そうなの?…まーまー良いじゃないの幽奈。細かいことは♪…あ、これ貰うね!」
妖廼はそう言うと幽奈がアタシの為に皮を剥いてくれたリンゴを大口を開けて、一度に二切れ食べる。
「あぁあぁぁあぁ~…」
幽奈のあまりの自由さに幽奈は頭を抱える。正直リンゴそのものより、今の状況の方が楽しいので、アタシはそれをニタニタとそのやり取りを見ていた。
「これはまた二人に常識を教える講義を設ける必要がありますわね…。まずはくぁwせdrftgyふじ…」
ぶつぶつと独り言を始める幽奈を横目にアタシは妖廼に話しかける。
「丁度よかった妖廼。お前、アタシにジャケットに入ってた…」
「んフー♪これでしょ血穢?そろそろコレが欲しいんじゃないかと思ってね」
そういうと彼女はアタシの
お腹のあたりに置いた。
「血穢!あなたまさか病室で吸うつもりでしたの!?」
「違う違う。目的はこっちだっての」
アタシはお腹のメモ紙の方を取り上げ中を確認する。幽奈と妖廼も続いてそれを覗き込む。防水加工されたメモ紙に、乱雑ながらも綺麗な字で書かれていたのはこの街のとある場所の住所だった…。
「これは…?」
「…住所ですわね。血穢、何故これを?」
「『千尋』に手渡された…。準備が出来次第ここに来いってな」
「なんですって!?」
幽奈はそう言ってメモに書いてある住所をスマホの地図アプリで検索し始める。慌てる彼女とは対照的に冷静なアタシはさらに重要な事を彼女に伝えた。
「幽奈。お前も来いってよ」
幽奈の忙しく動く指が一瞬止まるが、すぐさま再び動き出す。
「それは僥倖ですわね…。 言われなくとも乗り込むつもりでしたわ」
…多分こういう所なんだろうなアイツと揉めた原因は。
その一方、妖廼はアタシから受け取ったメモ紙を凝視しながら自身が普段から腰のベルトからカラビナを通してぶら下げてる『瓢箪』の酒を飲んでいる。
「ごく…ごく…ぷはぁ、ねぇねぇ二人とも。ここってもしかして…」
「出ましたわ!!」
幽奈がスマホの画面をアタシ達に向ける。表示された画面には
「やっぱ『
「…おいおい。こんな高い店、違う意味で入れないぞ。どうすんだよ」
「その為の『ワタクシ』という訳ですのね…。『千尋』」
「…ですが合理的ですわね。あの店は『非武装』と『完全中立』の姿勢を貫く特別な場所。いかなる勢力のいかなる武力もあそこでは許されず、世界中の要人も頻繁に利用しているだけあって秘密の会合にはピッタリのお店ですわ」
「幽奈!お願いっ!!ウチも連れてって!?絶対に邪魔しないからァ~!!!」
「なっ!?駄目に決まってるでしょう!!貴方には関係無い話ですし、第一あなたが居るといちいち面倒事が起きて大事な話が進まな…」
「あ~ん!!幽奈のイケズゥ~!!お願い!お願い!!お願いィ~い!!!」
妖廼がそう言いながら幽奈の胸に顔を埋め、鼻を擦り付けながら懇願…いや駄々をこねる。
「ダーーァ!止めなさい妖廼!!…!?ヒィ゛ィ゛!?服に鼻水が!?はあぅぁぁ…」
幽奈はへなへなと全身の力が落ち抜け、助けて欲しそうに涙目でアタシを見つめる。悪いな幽奈。そいつは出来ないってハナシだ。…あとできれば
「
「流石に『千尋』の事ですから何かの根回しはしてあるのでしょう…」
「
幽奈はそういいながら『
「血穢。貴方たしか『千尋』に三人で話そうと言われたのでしたよね?」
「?そうだけど、何かあったのか?」
「…既に六名で予約が取れてるみたいですわよ…。妖廼、貴方の名前もありましたわ」
「ウェエ!?マジ!?ヤッター!!棚ぼたラッキー!!」
「千尋は三人で、と言ってたはずだぞ…。向こうの状況も一筋縄って訳じゃ無さそうだな」
「…あと二人は誰なんだよ?」
『妖廼』が呼ばれてる辺り、一人は何となく想像がつくが…。
幽奈はさっきの仕返しと言わんばかりのニタニタした笑顔で妖廼に告げる。
「一人は『先生』ですわ。…良かったですわね『妖廼』♪」
一方さっきまではしゃいで喜んでいた妖廼はその笑顔のままフリーズした。…よっぽど『師匠』に会いたくない理由でもあるのだろう。まぁそうだろうな。こいつは普段から不真面目で素行が悪すぎる。
…妖廼の事はどうでもいいとして、アタシとしても『師匠』が参加して目を光らせてくれてた方が、アタシの癇癪を自制できるだろうしむしろありがたいかもな。前に『師匠』が言ってた『時が来れば話す』ってのも多分今回の事だろう。
しかし問題はもう一人だ。
「もう一人は?」
「それが『サプライズの為、名前は伏せておいて欲しい』との事で、お店側からお伝えすることが出来ないみたいですわ」
「…。」
考えられる候補は限りなく少ないが、アイツが本当にこの場に来るのか?いや、だからこその『師匠』なのか…。にしても、表社会では
「とにかく予約日は2週間後の2月29日18時ですわ」
「…そういえば今年は閏年だったか」
しばし運命を象徴する星の暦の、そのズレを修正する日に会合を設定するあたり何かしらの意図の様な…いや、それこそ運命なのかもしれないな。
「当日はどうする?現地集合か?」
「ワタクシは学校の帰りになるのでそのまま従者に送ってもらいますわ」
「ウチも今居るホテルが近所だからそれでイイヨー」
「分かった。スケジュールに入れとく」
「あ!!そういえば、血穢!妖廼!…『
「ヤダナァー幽奈。ウチら流石にそこまで馬鹿じゃないよ?ねー血穢?」
『オーバーサイズでロゴだらけの派手な銀メッキのダウン』を着崩す妖廼を見てアタシは言葉を詰まらせる。まぁいつも男臭いバイカーファッションの恰好ばかりするアタシが言えた話でも無いし。
「…すくなくとも今はそのTPOを弁えた格好してるけどな!」
そういってアタシはふざけて大げさに『着ている病院服』を二人に見せつける。それを見てケラケラ笑う妖廼と「もう!!」と怒ってから何だか可笑しくなって優しく微笑む幽奈。
アタシ達はしばらくそうやってふざけ合いながら穏やかな時間を過ごした。毎日毎日こんな日が続けばいいのに…。楽しい時間は何時だって星の流れの様に早く過ぎ去ってゆく。気づけば辺りは薄暗くなり時刻は16時過ぎを差していた。
「あら、もうこんな時間。…そろそろお暇しますわね、血穢。」
「ウチももう帰るかー、溜まってるドラマも消化しないとだし♪」
「あぁ。二人とも今日はありがとな。…ホントに」
アタシは普通にお礼を言っただけなのだが、二人は驚いて目を丸くしてから互いを見合って、それから吹き出した。なんだよ…?何か変な事言ったか?
二人の様子を見てキョトンとするアタシに対して幽奈が笑いながら口を開く。
「いえ、あんなに素直な感じでお礼を言われると何だか可笑しくってクスクス」
「ザ・乙女って感じで全っ然血穢っぽくなかったよねー。ウケルww」
二人に笑われて、何だか恥ずかしくなったアタシは、顔を真っ赤にしながら「早く帰れって!」と二人に促してからそっぽ向いた。こんな顔見られたくない。
暫くして一しきり笑いが収まった二人は
「それでは御機嫌よう血穢♪お大事に」
「またネー血穢!!
と言って病室をあとにした。
二人が帰った後、急に静かになった病室で先ほどの楽しい時間の余韻に浸るアタシは、何だか無性に一服したくなって病院に内緒でそのまま病室でこっそり
そうだ…。確かにアタシは決して孤独では無かった筈なんだ…。アタシの事を大切に思ってくれる親友がいた筈なんだ…。けどアタシはどうしてあんな事を言って、あんな事をしてしまったんだ…。
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