Act.4 腐喰のカジモド 5

 教堂の瓦礫に座りながらアタシは持ち前の携帯水煙草vapeで一仕事を終えた後の至福の一服をする。もちろん雨を遮る屋根の様な物は既になく、…土砂降りの雨に打たれながらだ。電子機構のアタシのそれと違い、戮さんはこの酷い雨だから流石に紙煙草を持って来なかったらしい。アタシは気遣いになるかはわからないが、とりあえず彼に


「…吸いますか?」


 と携帯水煙草vapeを差し出して尋ねる。すると彼にあきれ顔で


「そんな珍妙な、頼まれたって吸わねぇよ」


 と軽くあしらわれる。


「…そっすか」


 アタシは神妙な面持ちで期限が悪い彼をこれ以上刺激しないように静かに携帯水煙草vape自分の口に戻す。

 …あぁそうか、そういえばアタシは作戦の指示を無視して大暴れしたんだった。

それに『カジモド』ぶっ殺した時に見せた『あの醜態』。彼がアタシに対して何か、思う所があるのだろう。

 今、彼の頭の中での言葉選びと構成を考えているんだろうな。

 ちなみにReReリリーはあの後すぐに戮さんの左腕にされた。いつものリリーならごねて戮さんと口喧嘩する流れがあるのだが、今回はやけに素直な返事をして彼の左腕に収まっていった。

 ただ左腕に収まっいく彼がアタシの方見ながらニタニタと笑みを浮かべていたのが若干気にはなるが…。


「もうすぐ、救護班と処理部隊が到着する…。血穢、お前は救護班の担架でそのまま中央病院の緊急外来に向かえ。特別な手配はしてある、たらい回しにはされまい…。」


「大丈夫ですよこれぐらい!ホラこんなに…」


 そう言ってアタシは健康を証明するために勢いよく立ち上がろうとした瞬間…


 グキィ!!!


 アタシの背骨は鳴ってはならない音を立て、痛みが背中から全身に走る。『凶力ワカモト』の鎮痛効果も切れ、疲労もあって意識も若干朦朧として来ていた所にこの痛みは、意識をはっきりさせる事はあっても強がりを言う余裕を生んではくれなかった。


「いてててて!!!」


 すっかり気が緩み、思わず子供の様なリアクションをしてしまうアタシを見た戮さんはアタシを鼻で笑い、冗談交じりに忠告する。


「フ、言ったことか。おそらく背骨にひびが入ってるぞ。今無理に動かしたら半身不随になるだろうな」


「うっ、マジっすかー」



 アタシは 痛む背中を労わる様に摩りつつブルーになる。

 ここ最近ただでさえだらけなのに、ここに来て入院なんて…。支払いや今月の仕事のことを考えると憂鬱になる。

 


 しかし今回予想外というかある意味想定内だったのが『千尋』がこの現場に来なかった事だろうか…。

 アタシの給料3か月分という大金をはたいて『知り合いの私立探偵』に『千尋』の居場所をあらかじめ突き止めて貰って本当に良かった。もらった情報をそのまま『幽奈』に流して、をすれば幽奈をけしかけたのが功を奏したな。


「…おかげで復讐の邪魔をされずに済んだって顔だね『血穢』…。」


「!!!?」


 気づいたらアタシの目の前に全身を黒装束に包んだ『千尋』がいた。アタシは咄嗟に『炮烙』に手を伸ばすと『千尋』に腕ごと取り押さえられ、背中の痛みもあってか抵抗も出来ず、アタシはそのまま拘束される。


「動かないで…。戦う意思は無い」


 千尋はアタシの腕を背中側に回し、アタシを盾にするような形で戮さんに忠告する。

 銃を抜いた戮さんはその銃口を向けたまま千尋に尋ねた。


「…信用できるのか?」


「アナタが何もしなければ…ね。銃を下ろしてくれますか?『出禍堂 戮』さん」


 千尋はそう言うとアタシの腕を血で作った手錠で完全に拘束してから、ゆっくり両手を挙げアタシの前に出る。


 真剣な目をする千尋に対して戮さんは何か感じたのか、銃口こそ下ろさなかったものの気を一瞬だけ緩めてしまった。


「戮さんだめだ!!そいつは!!」


 時すでに遅く、戮さんはそのまま『幻肢の術』で意識を奪われ地面に倒れ込んだ。


「…!!千尋っ!!!オマエ!!」


「意識を奪っただけ。血穢、アナタも動いたら駄目だよ…」


「くっ!!だが残念だったな!!『カジモド』はもうぶっ殺したぞ!」


「…そうだね。『腐喰のカジモド』は死んだね。アナタに殺されて…」


「本当は送るほうむるだったんだけどね。ゴメンね『カジモド』」


「…幽奈を私にけしかけたのはアナタでしょ?」


「だったら何だってんだ。と言ったはずだ。それで済んだだけましと思えよ?」


「もう二度とあんな真似はやめて…。おかげで最低の再会になってしまった…」


 千尋の顔をよく見ると、泣いた後なのか目元が腫れた形跡がある。けどそんな事アタシには関係無い。


「『カジモド』も必要以上に苦しんで逝ってしまったし…」


 千尋はそう言うと黒曜石の愉快なオブジェのようになった『カジモド』に歩み寄り、静かにそれを撫でる。するとその硬質化した『カジモド』が崩れ去り、その中から静かにではあるが、今だ鼓動を続けるが現れた。


「…!?弾かれた違和感はか!?このやろうまだ生きて!!…」


「いいえ。『』が死んだの。これはその残滓。。これがある限りここからまた再生しては腐り死ぬことを繰り返す事になるの」


「…還りなさい。私の中に…」


 千尋がそう言うと彼女の手の上の心臓が次第に彼女の体内に吸収されて行った。


「…一体何者なんだお前…とアタシは…」


「ホントは今すぐ教えたいけど、もうすぐ『秘密警察』達がここに来る。…真実が知りたかったら背中の傷が治り次第ここに来て」


 千尋は懐から耐水性紙を取り出して素早く住所の書きこみ、アタシのジャケットのポケットにそれを忍ばせた。


「じゃあね血穢。…ついでに幽奈も連れて来なよ。三人で話そう。」


「!?まて!!」


 唐突な事ばかりで戸惑うアタシの静止を聞かずに千尋はそのまま影となり消え失せた。























「クソ…。また何も出来ず、何も分からない…。一体何だってんだ…畜生…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る