Act.4 腐喰のカジモド 4

 『呪布具』から解放された戮さんの左腕は、黒色の干からびたミイラの様なそれから次第に形を失っていき、液体と気体の間の様なおぼろげでさらに狼めいていた姿となる。それは牙を鳴らす顎と燃え上がる眼を備えていたが、その姿は決して形が定まらず刻一刻と変容を続ける…。

 その異形の左腕は意識が覚醒したのか、その燃え上がる瞳で辺りを見回した後、高らかに喜びの奇声をあげる。


「Fhiiiiiiii!!!ひっさびさの娑婆だぜコノヤロウ!!!戮ゥ!!今夜は一体何の用だァ!?どいつを殺せばイインダァ~えぇ!!?」


「相変わらずやかましい野郎だ…『Re:ReHALReリ・リハルリ』。少しは静かに出来ないのかお前は?」


 『Re:ReHALReリ・リハルリ』と呼ばれるこの異形こそがであり彼の奥義。

 ありとあらゆる暗黒魔術や古代武術のとされる『無形むけい』に至った物の一つであり、彼はによって偶発的にこれを会得?獲得?した。


 自称『不浄鋭角の狼王』と名乗る、彼にアタシが最後に会ったのはおよそ二年前かな?アタシは彼との久々の再開に軽く挨拶する。


「久しぶりだね『ReReリリー』。元気してた?」


「んんん!?オマエはァ…!?『血ー助ェちーすけー』!!!久しぶりだなぁ!しばらく見ない間に随分といい女になっちまって…えぇ!?」


「特にその憎しみに煮え滾った澱んだ瞳が最高だ!!後で俺に喰わ…」


 リリーがそう言いかけたところで再び瓦礫がこちらに飛んでくる。アタシがそれを迎撃する間も無く、『無形』のリリーが粘糸と数多の蛇、その中間の様な形に変形し、それを絡めとる形で掴み取り、彼の分泌する『極酸性』の体液で掴んだ瓦礫をドロドロに溶かしながらそれをぐちゃぐちゃに握りつぶした。


「へっ!感動の再開を邪魔するタァー随分不躾ダナァー!!さんよォー!?」


 アタシ達がカジモドの方を見やると潰された眼はすでに再生されているどころかその瞳は6一つの眼孔の中にひしめきあって、怒りに打ち震えていた。どうやらやる気満々の様だ。


「俺と『Re:ReHALRe』こいつで陽動と捕縛をやる。血穢、お前が止めを刺せ。」


「『鎌鼬』が効かない硬いアイツにどうやって…」


「…昔、俺とお前は義父ジャックに教わった筈だ。堅牢なモノを打ち砕く、『牙城崩し』のしのそのすべを…。」


 アタシは義父さんとの様々な記憶を掘り返す。その中の特に『理や哲学についての継承』の記憶を…。

 そうだ…かつて、義父さんが幼いアタシに伝えてくれたんだ!

………………………………………………………………………………


「『堅牢な牙城、あるいは装甲、ましてや組織でさえも、それらは外側から圧力に強い…。…当然だ…その為の形態なのだからな…。しかし往々にしてこの世界の万物の理はあっちが立てばこっちが立たぬモノ。そう…それらの中は意外にも柔らかく脆弱なものだ。……。」


「『…内側だ!内側から腐らせ…灼き潰すのだ!!さえも!!!」


………………………………………………………………………………


 過去の記憶から引き出された英知により、アタシは一筋の解を導き出す。

往くべきタオを見据えたアタシは『炮烙』を両手で強く握りしめ集中を始めた。

 そんなアタシの様子を見て安心したのか、戮さんがやれやれとため息をつきながら『S&W X666blaster』に弾を込めなおす。


「どうやらタオは見据えたみたいだな…いくぞ」


「戮ゥ!!しっかり気張れよ?お前がこの中で一番なまっちょろいんだからなァー!!」


 そう言うと戮さんとReReリリーは、再び咆哮をあげるカジモドの方へ突撃していった。

暴虐の拳を振り回すカジモド相手に銃撃と鞭打で何とか応戦し、なんとか時間を稼いでくれている。急がなければ!!

 

 アタシが意識を集中させてる間突然、防戦気味になっていたカジモドが戮さん達に『極酸性』の吐瀉物を吐きかけた。思わずアタシは集中を切らし声をあげる。


「戮さん!?…ReReリリー!?」


「’’血穢ェ!!!!他人の心配してる場合かァお前ェ!?てめぇはてめぇに集中しやがれェ!!’’」


「’’心配すんなァ!!毒に毒はきかねぇよォ!!!’’」


 猛攻の中、酸毒に体の一部の皮膚を溶かされながら息ぴったりに言う彼らを信じ、焦るアタシは急速に集中を高める…。

 …集中が高まったアタシの意識は完成されトランス状態に入り、奥義の準備が整う。


「百鬼葬流奥義…『鬼火おにび』…!!」


 紫色の魔力の炎を纏っていた『炮烙』はまるで急激に冷やされた玉鋼の様に色を失うかと思えば徐々その刀身は超高温の熱を帯び、紫色の魔力の色は刀身の方に移ってゆく。

 その灼熱の刀身に触れる雨粒のそれは、まるで怒れる鬼を恐れるかの様にすぐさまに水蒸気となって空間に散り散りと霧散し、刀身の周りの空間は『炮烙』の憤怒の熱に晒され光はその形を屈折し、異様な陽炎を生み出した。


 アタシの準備が整ったのを確認した戮さんとReReリリーは、さっきまでは意図的に狙わなかったカジモドのに狙いを定め、戮さんが数発の銀弾を打ち込んでから、ReReリリーがそれに巻き付いて逆方向にへし折る。


 体制を完全に崩したカジモドは立膝の形になり、その隙にReReリリーがカジモドの全身に巻き付き、彼が叫ぶ。


「血ー助ェー!!!今だァー!!!!!」


 合図を聴いたアタシは崩れた教堂の比較的高い位置にある瓦礫に飛び乗り、さらにそこから高く跳躍しての要領でカジモドの左肩に飛び乗る。アタシの左足を奴の頭に、右足を奴の左肩の先に置く形で飛び乗ったアタシは、勢いをそのままに奴の僧帽筋から心臓目掛けて宿『炮烙』を突き刺した。



「百鬼葬流奥義…『釣瓶落つるべおとし』!!!」


「ぐぎゃゃあaaァAAAAaァァaaaああぁぁぁあ!!!!」


 絶叫の中で身もだえするカジモドに振り落されぬよう、アタシは突き刺した『炮烙』をしっかり握りしめる。アタシはカジモドの身体の中で剣先が弾かれる妙な感覚を覚えるが関係ない…むしろ丁度いいくらいだ…。アタシはお前をまだ『』。

 

「…百鬼葬流奥義…『鬼火・大獄丸おにび たいごくまる』」


 あたしは突き刺した『炮烙』の火力を更に跳ね上げカジモドを黒焼けvery well doneに灼き上げる。


 もはや奴は声をあげることもできず、口から溶岩の様に吹き出したドロドロの内臓に溺れていた。吐き出された蕩けた内臓も外気晒される事で黒曜石のように冷えて固まり変成してゆく。この辺りで巻き付いていたReReリリーもカジモド離れていいきアタシを見守った。一方アタシはというと…


「…ハァ…ハァ…ッ!!まずは一人目ェ!!!!アーッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!」


 






















 一人目ではあるが悲願の復讐と無様に死んでゆく仇の悍ましい末路にアタシは歓喜の表情を浮かべ、。…今思えば、アタシはこの時からもう『壊れて』いたのかもしれない…。いや違う…アタシは最初から…………。

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