Act.4 腐喰のカジモド 2

 現在、深夜1時50分…。アタシは激しい雷雨の中『インスマンス教堂』の入り口に立っていた。『秘密警察ティンダロス』はすでに現場に配備済みで回収部隊は教堂の裏手に、攻撃部隊は教堂付近の雑木林に潜伏して、アタシがカジモドをおびき出すの待っている状態だ。

 作戦では、アタシはで教堂に侵入し、内部の状況を確認、被害者達の安否とカジモドの存在を確認できたらインカムで『秘密警察ティンダロス』に報告して判断仰ぐ。

 教堂内でカジモドに接触して「攻撃部隊悪人」と嘘をつき奴を外に誘導して、仮に被害者達が生きていた場合は彼らをカジモドに悟られないように回収部隊に引き渡してから攻撃部隊と挟撃する形でカジモドを討つ。

 

 …ウラドが言うには『カジモド』の性格はその醜悪な巨躯には似つかないほど純粋な性格で疑う事を知らず、極度のお人よしらしい。まぁそんな奴が子供を攫って血を啜るなんてまず考えにくい事なのだが、今はも作戦に集中しないとな。


 アタシは教堂の重い扉をゆっくり開ける。見たところこの廃墟は封鎖されてからはそんなに時間がたってはいないが建物の老朽化は確実に進んではいる。しかし辛うじて雨風はしのげてるみたいだ。

 

 手持ちの軍用ライトで教堂内を照らし内部を確認していく。基本的な西洋教会のオーソドッソクな設計の内装ではある…が歪な箇所がいくつか散見される。

 教堂内の巨大な彫刻の像は宗教服のローブを着ているため、おそらくこの宗教の神かあるいは聖人ではあるのだろうが、その頭部は巨大な蛸の様であり、背中からは蝙蝠の翼が生えているような珍妙なデザインであった。それ以外にも燭台やその他装飾のデザインや壁に貼ってあるタペストリーの絵の内容すべてが『』ものだった。

 

 さらに中に充満する匂いも酷く、思わずむせ返る廃墟特有の積もった埃の臭いと、まるで廃棄された漁村の様な強烈なトリメチルアミン腐った魚の刺激臭が鼻を突きさす。そしてその中薄っすらと混ざるV


 しかし幸いな事には今の所しない。あの独特な甘く、それこそが…。

 たとえどんな事後処理を行ったとしても、そこで起きたあらゆる『残穢』形跡の匂いは決して消えない…。少なくともここにはかつて…おそらくによる流血沙汰があったのは間違い無いだろうが、『V』が血を啜った匂いの残穢を記憶していない。


 そもそもここに子供の気配と匂いを感じ無いあたり、子供達はどこかに隠された地下室にでも監禁されてるのか?それか居場所を他の場所に移されてるか…。


 …とりあえず言えることは、間違いなく『カジモド』は確実にこの中にいる。


 そんな事を考えていると突然、背後からさらに部屋の臭いがその濃密さを増し、アタシは思わず反射的に鼻を覆う。その強大な気配と存在感は次第に輪郭をはっきりとさせ、暗闇の中確実にアタシに近づいてくる…。ギリギリそのがアタシが視認出来る位置に来た時、その影の主が朦朧としながら、息絶え絶えと話掛けてきた。


「チ…ヒロ?チヒロな…の?タスケテ…喉ガ渇イテ、シカタなイン…ダ」


 残念だったな。人違いだ。しかし『千尋』とアタシを間違えるあたり、やっぱり千尋アイツも深く関わってるな…。

 

 アタシはそのまま軍用ライトで影の主を顔を照らす。ウラドから渡された情報と記憶の通り、やはり影の主『カジモド』だった。

 

 …しかし記憶でみた姿と比べるとその顔と体はで異常なほど膨れあがり、爛れていた。さらに右腕だけがをしており、しており、その巨腕にはが生え、腫瘍だらけの醜い顔にはこれまたが崩れかけた口から覗かせており、その腐った口からはまるで視覚化できるほどのトリメチルアミン腐った魚臭を放っていた。


 異形の見た目とは『秘密警察』に言われていたが、その話とも様子が違うあたり、ごく最近にが起きたみたいだな。

 見るからに異様な見た目と呂律の回らないたどたどしい物言い。おそらく脳もやられ、もう話も通じそうもない状態だし、苦手なをするまでも無いか。幸い子供たちはここ居ないみたいだしな。

 アタシは秘密警察の部隊ティンダロスに被害者の存在が無い事だけをインカムで静かに伝え、奴の顔にライトを当てたまま空いた手で『炮烙』の鯉口を切る。


「…ハヤク…早ク血ヲ…分けテ…!?」


 人違いなのと、アタシの殺意意図を認知した『カジモド』は朦朧とした意識が覚醒したのか驚愕の表情をし、すぐさま後ろに飛び退き教堂内の暗い闇の中に紛れた。その巨大な姿に似つかない俊敏さにアタシも警戒をさらに強め、炮烙をゆっくり抜刀しながら意識を集中させた。

 …暗闇の中、『カジモド』の太く、しゃがれた鈍い声が教堂内に響き渡る。


「オマェ…チヒロじゃナイナ!?…一体ダレだ?…まサカ!?チヒロが言ッてタ!!」


「察しが良くて助かったよ!頭の中は見た目よか爛れてねぇみたいだな!!」


「父さンが仕向ケタ刺客ダナ!?こコかラ出てイけぇ!!僕ノ命は僕ノモノダ!!!」


「っは!!生き抜く為なら義父さんを食い殺しても仕方ないってか!?わりぃな!!!それこそって話だ!!!」


「何ヲ言ッテる!?僕ハ人を食ベタこと無イ!!オマえの義父さンもシラナイ!」


「しらをキリやがって!!義父さんの遺体からはてめぇの魚クセェ匂いもしてたんだよ!!!」


「ッ!?…もシカシテ。『ジャック』さンの?…違ウ!彼ヲ殺しタのは…」


 もう限界だ…。ここまで来て義父さんを喰い殺したのはあくまで『てめぇの兄弟』で自分に罪は無いだと!?もうも知ったことか…!!

 文字通り影に隠れてアタシの前で罪を償わねぇってんなら、この腐って崩れかけた教堂ごと燃やし尽くしてやる!!!

 アタシは怒りに任せ『炮烙』を素早くアタシの穢血で目覚めさせ、を爆炎ですべてを灼き尽くす『葬流』のを繰り出した。
























「…百鬼葬流奥義!!!『鎌鼬・飯綱かまいたち いずな』ァ!!!!!!!」





 

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