第二章 『流血倫理』~BLEEDiNG ETHiCS~

Act.4 腐喰のカジモド

 血の流れにここまで深入りした以上、すでに後戻りなどなく…。あくまでそれを渡りきるしかないのだ…。

            ウィリアム・シェイクスピア



 ウラドから『腐喰のカジモド』の潜伏場所を訊いてから5日後、時刻は22時30分…。アタシは今この街『龍劫禍街』の南側の位置に存在する港町『禁錠埠頭町きんじょうふとうちょう』に来ている。

 ウラド曰く『カジモド』の潜伏場所はこの地区の端の端、海側に面した小高い丘の断崖のすぐそばにある、かつて巨大施設であった廃墟。

 名前は確か…『東インスマンス教堂』。ここはかつて存在したカルト宗教『ダゴン秘密教団』のアジア支部として使われており、その教会の過激な思想と悍ましい儀式活動などが一般社会に露呈したのをきっかけに組織は解体、この施設を封鎖され、現在はこの街の立ち入り禁止区域である『禁域』に指定されている場所だ…。

 このだれも立ち寄らない曰く付きのこの場所は確かににはぴったりであろう。


 現在アタシはその『東インスマンス教堂』が比較的近くで見えるの一室で、『ティンダロス』の隊長『出禍堂 戮』さんと作戦会議中だ…。

 そう今回は『狩人組合灯月の家』と『秘密警察ティンダロス』との共同作戦となる。なぜかというと『カジモド』はどうやらここ最近この地域で頻発する連続児童誘拐事件の犯人でもあるらしい。

 以前、普通警察が奴を逮捕、捕縛しようとしたところ、3カジモドは逮捕に際し過剰に抵抗したことで、死者こそ出なかったモノのの多くの警察官が酷い重症を負う結果となった。

 それによりこの街龍劫禍街の政府と警視庁は『カジモド』の『夜兎人』としての人権を剥奪…。やつを『V』と認定し粛清実行部隊ティンダロスに抹殺指令を発行した。


 個人的にはアタシ一人でカジモドを討ち取りたいとこだが、情報によるとどうやらかなり戦闘能力も高いらしく、警察組織とも因縁がある以上今回は彼らと協力して奴を狩るべきなのだろう…。


「血穢。この作戦はもそうだが、誘拐された被害者児童も救出も作戦の内にあるのを忘れるなよ。…生存してる可能性は低いだろうがな。」


 ホテルの客室のソファーに座りながら今となっては珍しい紙煙草を吸う戮さんにアタシは


「戮さん…。個人の仕事じゃないんだからそんな無茶苦茶やりませんよ」


「お前さんにはがあるからな…。怒り狂うと周りが見えなくなる癖のせいで」


「…この世界に入って6年にもなるんだ。もうあそこまで子供みたいな振る舞いはしませんって…」


 図星を突かれ、申し訳無さそうに言いながらアタシも携帯水煙草vapeを取り出して吸う。ちなみに幽奈が二日前に支部に持って来て返してくれたやつなのだが、その時の話はまた今度…。


「だいたい、いくら才能があったといえ学生にならずに12になってるのがおかしいんだ」


「『ジャック』だって…」


「戮さん」


「…あぁすまない、今話すことでは無いな。しかし前回と違って今回は俺の部隊が現場の前線に投入される以上勝手な真似はするなよ」


「もう一度言うが本作戦でのお前の役割はカジモドを教堂から誘いだす事だ。いくらだとはいえ教堂内で暴れ回ったら被害者児童も上に報告すべき証拠もどうなるかわからん」


「アタシが穏便にカジモドの気を引いてる間にティンダロスの回収部隊リカバリーチームが裏手にある崖側から教堂に侵入して、生きてるかもしれない被害者と証拠を回収すると…。引き離せれば殺り合ってもいいんですよね?」


「構わん…ただし攻撃部隊アタックチームと共闘してに奴を抹殺しろ」


「了解です。…戮さんはどうするんです?」


「俺はとりあえず後方で部隊の指揮を執るが…何かあれば非常事態なら俺も前線に出る」


「…前線って。は大丈夫なんです?」


 アタシは戮さんの黒の布地に金色の刺繍で封印式が刻まれているを見ながら心配そうに言う。


「問題は…ない。だんだんも制御できるようにはなって来てる…」


「ハハッ、戮さんまで狂っちゃったらホントに収集つかなくてアタシ達も抹殺されちゃいますね♪」


 いつも男らしくて弱音なんか吐かないような戮さんが今日は若干自身が無さそうな雰囲気を醸し出してるのが何だかおかしくって、アタシは緊張を解す意味もこめながら軽くブラックジョークを飛ばした。しかし彼の曇った表情は変わらず、どうやら地雷を踏んでしまったようだ。


「…心配しなくてもアタシと戮さんの部下達だけで片づけるんで大丈夫ですよ」


「だといいんだがな…」


 実際、ウラドの情報によると『カジモド』の『V』としての等級は『古強者エルダー』。優れた狩人でも単独撃破は非常に困難な等級であり、カジモドの能力や戦術を聞き及んではしてきたが…おそらく誰かは犠牲になるだろうな。アタシか、実行部隊ティンダロスか、或いはその両方か…。

 

 それに先日の『千尋』の言葉がホントならおそらくアイツもこの現場の何処かにいて恐らく妨害してくるのだろう。

 まぁのだが最悪の場合…現場状況が非常に混沌とするがアタシ個人としてはTDMチームデスマッチよりFFAフリーフォーオールの方が得意だから逆にありがたいかもな。


 作戦決行は今夜の丑三つ時午前二時。予報によれば天気もこの時間から明け方まで激しい雷雨になるらしい。その証拠に窓の外を確認すると現在も雨足が徐々に強まってきている…。今夜みたいな激しくなる現場にはある意味ぴったりのコンディションだ。


 …あらゆる制約や状況の複雑性で本来の目的を見失わない様にしないとな。 とにかく、アタシ個人のミッションとしては『カジモド』の口からあの夜義父さんが死んだ日の事を聞き出してから絶対にぶっ殺すってハナシだ。
























 でももしカジモドが潔白で千尋の言ってた事が本当だとしたら?

 …関係ないさ。この街の闇に命を狙われた以上長生きは出来ないし、それこそって形になるかもな。…だいたい、犯人だろうが無かろうが、事情があろうが無かろうが、義父さんが惨たらしく死んだ原因を作った奴らなんだ!ウラドを含めお前たち全員アタシの『炮烙』で地獄に葬ってやる!!

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