Act.3 血に酔う 4

 …浅い眠りから目を覚ます。束の間に見た夢は義父さんとの懐かしい思い出だった。

 14歳の頃。アタシがを終えて、義父さんが普段は行かないような高そうなお店BARでそれを祝ってくれたあの夜…。

 

 普段から愛想が悪くて口数も少なく余計な事を嫌う彼が、この夜は滅多に見せない上機嫌な表情でアタシが一人前になった事を心から喜んでくれたのをよく覚えてる。

 お店の奥の人目のつかなそうなテーブル席に座り、アタシが頼んだコーラの飲みかけのが入ったグラスに


「覚えておけ...」


 とだけ言って彼がラッパ飲みしていたウィスキーを注いだのが、不器用な彼なりの成人祝いだったと何となく気づいたアタシは、褒められ慣れていないのもあってかそれをチビチビ飲んでいた。


 義父さんは仕事柄知り合いは多いが口が悪く感情表現が下手で、さらに極度の偏屈だったため他人や社会から多く誤解を生んでしまう様な人だった。

 その上割には酒癖が悪くて私生活はアタシ以上にだらしない。一見豪胆に見えても暗い孤独を抱えて生きてるそれが彼『ジャック・ブラック』その人だ。


 そんな不器用な彼の気持ちを幼いアタシが理解出来ていたのは、アタシ自身も感情表現が下手で偏屈であるし、彼と同じ不器用な形でしか思いを伝えられない人間だし、それに彼に出会うまで家族を知らず養護施設で性的虐待を受けて社会…いや世界を恨みながら野良犬の様に生きてきたのもあるんだろう。


 そんな孤独を持ち寄った者同士、かわす口数は少なくともそこには心地の良い沈黙と尊重があって、は無くともであった。


 …ウィスキーコークの様な刺激的ながらも口の中を燻る甘い大人の香りのする思い出がアタシの次第に覚醒する意識と共に消失してゆく…。

 と寝起きで渇ききった口を漱ぐ為にアタシはリビングにあるキッチンに向かった。



 ………………………………………………………………………………


 口の中に水道水を含んだ瞬間。確かな違和感を感じる…。

 なのに口の中が全く潤わないし、それを飲みこんでも喉の渇きは癒えない。

 

 ふと師と友の言葉を思い出してアタシは首飾りの賽子DiCEを取り外し床に放り投げる…。


 アタシの予想通り賽子DiCE

 やはり術中…。けどいつの間に?『皐月さん』がそんな事するわけは無い…。

 術自体はで敗れるが術者は何処に?そんな事を咄嗟に考えているとリビングのソファーにさっきまでいなかったはずの一つの人影が座っていたを確認した。

 

「へー使えるんだ…。流石あの人の弟子だね。」


 アタシはその影のいで立ちを見て、を徐々に思い出す。

 アタシの口に、自らナイフで傷付けた手首の切り口を押し当て、アタシに自身てめぇの血を飲ませた人物…。

 薄れゆく意識の中でアタシはそいつの『アタシと瓜二つ』の顔をしっかりと見ていた。

 

「…お前が『神薙 千尋』か。なんの用だ」


「助けて貰っておいてそれ?…まぁいいけどさ」


「興味ねぇけど…幽奈がずっとお前を血眼で探してるぞ」


「だよね…あの子にはにしてるから心配しないでって言っといてよ…」


「ふざけんな!てめぇの口で伝えろよ!!」


「…ちょっと状況的に難しくてね。のもそれが理由」


「血穢。アナタ『ウラド』にを頼まれたでしょ?手を引いてくれない?」


「何故だ?」


「簡単に言うとアナタは騙されてる。狂っているのはウラドだけでこの世界で静かに生きていたいだけ…。」


「そんな訳あるかよ!アイツらは義父さんを…」


「アナタは純粋だね。その話が本当だという根拠は?見せられたヴィジョンや情況証拠が真実だとなんで言い切れるの?」


「くっ!けどお前の話よりかはよっぽど信用できる!」


「…私の話を信じられないのは分かるけど、アナタは自分が思っている以上にアナタをを理解した方がいいよ」


「彼らはアナタはを生きな?」


「っ!お前に言われる筋合いはねぇ!!家族に捨てられた人の気持ちも分かんねくせに!!」


「なるほど。に伝わってるのか。…とにかく彼らに手を出さないでね」


「はっ約束出来ないね。お前の都合なんてそもそもアタシには関係ないし、お前もなんかんだろうがどうせ教えるつもりも無いんだろ?」


「…。」


「だったらアタシはアタシのやり方でやる。何が本当かはアタシ自身の眼で見極めるさ」


「…私はこれ以上アナタを傷付けたく無い…少なくともそ…」


「だから知らねぇよ。アタシの邪魔すんならお前も斬るよ…

 

 食い気味アタシがそう吐き捨てると千尋彼女は酷く悲しそうな顔をしながら


「そっか…。だったら近い内にアタシ達はまた会いそうだね。…またね」


 と言い残して霧散した。それと同時に千尋が作ったこのもアタシの『幻肢破りの術』で崩壊していった。

 幻肢の術が解け、現実に帰還する。アタシはさっきまで寝ていたベッドの上だった。

 あたりはすっかり暗くなっており、時計を見やると時刻は十九時を回ろうとしていてそこに丁度玄関の戸が開く音が聞こえる。きっと千尋さんが帰って来たのだろう。

 

 寝起きの癖で携帯の履歴を確認すると、幽奈からの数件の着信と謝罪のメール…、アタシも彼女に伝えなければならない事が色々ある。それと特に気になるのは霊茄さんからの仕事の連絡。どうやらで『腐喰のカジモド』の潜伏場所が判明したそうだ。

 

 これは明日から忙しくなりそうだな。いったい誰の話が嘘か真実ホント知らねぇけど少なくても状況は依然より確実に進んでいる…。誰も教えてはくれないんだ、真実それはアタシ自身が見つけてやるさ。





















 待ってろよクソ共が…。必ず真実を暴いて義父さんの仇を討ってやる!!!



第一章 『血脈葬承』~UNDERSTANDiNG~ 完










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