Act.3 血に酔う 3
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気が付くとそこはベッドの上だった。部屋のカーテンから陽光が差すあたり時刻か午前中だろうか…。見渡すとどうやら質素なアパートの一室でどこか見覚えのある部屋ではあるが少なくてもアタシの部屋では無い。…あーそうだったここは『虚木 皐月』のアパートだ。以前ここにお邪魔したことがある。
知り合いの人物の家だということが分かったアタシは安心したのか少し咳き込む。安堵が昨夜の極度の緊張をほぐしたのだろう。
暫くすると、この部屋主である『皐月』が梅干しを乗せたおかゆと栄養剤をもって部屋に入って来た。
「やっぱり起きてたんですね血穢さん。大丈夫でしたか?」
「…あぁありがとう。また世話になっちまった」
「そんないいですよー水臭い。困った時はお互い様です♪」
「…にしても昨夜は一体何があったんです?深夜にいきなりチャイムが鳴って玄関に出てみたら血穢さんが玄関先で倒れ込んでいたんですよ?」
いまいち情報が噛み合わない。昨夜の意識の途切れ目に見た人物はどうやら『
アタシはとりあえず事の顛末を簡潔に伝えた。
「昨夜帰り際に『V』に襲われたんだ。幸い無傷で返り討ちにしたけど『
自害しようとしたことは伏せよう。今伝えるべき情報じゃない。
「大変じゃないですか!?あれ?でもよくそんな状態でここまで…」
「意識が落ちる前に誰かが居たんだ。多分そいつがここまでつれて…」
「おかしいですよね?だとしたら私達二人の事よく知ってる人の筈ですよ?『霊茄』さんがチャイムだけ押して血穢さんを玄関先に捨て置くなんてするわけありませんし…」
だったら『幽奈』が?いいやアイツだって同じだ。いくら喧嘩中であってもそんな事する人物じゃないし、そもそもvapeを取り上げた負い目が…それも違うか。彼女に『血酔』のことは説明してない。説明してたら冗談でも彼女は
そうやって頭をよぎらせてる中、皐月の方を少し見やると彼女がアタシ以上に深刻そうな険しい顔で思考に耽ってるのが見えた。何か思い当たる節があるのかと尋ねようとした時、彼女はアタシの視線に気づき咄嗟に発言する。
「…まぁ今は考えても仕方ないですし、ゆっくり療養しましょう!これ食べて下さいね!」
そう言いながら鍋のおかゆを木製の御椀によそってアタシに差し出す。
「あ、ありがとう」
アタシはしどろもどろに返事をしておかゆを受け取りそれを一口食べる。彼女が作った出来立てのおかゆはとても優しい味がして温度の加減も丁度よく食べやすい。普段ジャンキーな物や肉類ばかり食べるアタシの胃を休め、荒んだ心を落ち着かせるには丁度良い一品で思わず感動の言葉が漏れる。
「…おいしい」
「ありがとうございます♪」
アタシの言葉を聞いて上機嫌になった彼女はふんふんと鼻歌を歌いながら出社の準備を始める。
「支部には私から報告を入れといたので血穢さん、今日は一日ここにいてゆっくりして下さいね?」
「おかゆの残りはキッチンにありますし、私十九時前には帰るのでよろしくお願いしますねー。あーあとリビングのテレビで映画のサブスクもあるんで暇だったら観てても大丈夫ですんでー」
そう言いながら忙しなくバタバタと出社の準備を進める彼女に相変わらず落ち着きの無い人だと思ったが、仕事では頼りないところが多くとも一回りも年下のアタシにため口を利かれても嫌な顔せず優しく接してくれる彼女に感謝と反省を込めて再びお礼をいう。
「本当にありがとうござ…います。これからは態度を改め…ます」
「んひぃ~いいですよー。ため口で話していいって言ったの私なんですから~♪」
「んでは行って来ますねー!」
皐月さんはそういってニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながら出社していった。
彼女の出すアパートの階段を駆け下りる音が遠のていく。アタシは彼女の言いつけ通り今日はここで大人しくしてようと思い、渡された苦い栄養剤を一気飲みした後、再び眠りについた。
このアパートの一室に潜むもう一つの気配に気づかぬまま…。
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