Act.3 血に酔う 2
怒号に呼応するように6つの影が路地裏から這い出でてアタシに飛び掛かる。咄嗟に反応したアタシは『炮烙』すぐさま抜刀し、飛び掛かって来た影の一つに逆に突っ込んでカウンターの袈裟切りを浴びせる。その影は真っ二つに両断され、切り口から発火しすぐさま灰に変わる。
アタシの華麗ともいえる反撃に残りの5つの影は驚愕し、思わずアタシから距離をとる。…この反応と切り捨てた死体が灰に変わるスピードを見るにこいつらは『
『
…糞が!アタシの剣はしょうもない人斬りの為にあるんじゃねぞ!!!
多少距離はあるがアタシは依然やつら5人に囲まれる形だ。動揺しつつも攻めてはこないのは、様子見ているというより完全にビビり散らかしてるみたいだ。
得物のナイフを持つ手が震えてるのもそうだが、全身黒ずくめの恰好で顔もフルフェイスのヘルメットやニット帽に穴をあけたマスクを使ってるあたり、完全に素人。おそらく借金苦で食いっぱぐれたチンピラのなれ果てだろう。誰に雇われたか知らねぇがどうせ尋問したとこでこいつ等は何も知らないだろうし、何よりこれ以上無益な殺生は御免だ。まぁもう切り捨てちまった奴に対しての懺悔はしねぇけどな。
「分かったらとっとと自分の家に帰りなカス共が。てめぇら千人集まってもアタシにかすり傷一つ付けれねよボンクラ」
「…今なら何事もなく見逃してやるよ」
アタシの優しくて有難い忠告が効いたのか奴らの手の震えが消えてナイフを捨てる。その場を去るかと思ったら奴らは突然ポケットから赤い液体が入った注射器やアンプルを取りだし、それぞれがそれらを摂取し始める。
なるほどね
……お望み通り皆殺しにしてやるよ!!!!!
アタシは『炮烙』の刃を左腕の肘窩で挟みその刃を滑らせる。『瀉血』されたアタシの
「いくよ『炮烙』。今夜はすぐ済むからよく味わってね」
素早く炮烙を抜刀したアタシとは反対に奴らは『転化』に戸惑っており、その急激な肉体変化に対応できず、皮膚や筋肉を裂きながら歪な変身してるためか苦悶の表情を浮かべてたり悲痛な叫び声をあげていた。
しまいには奴らの一人が『転化』に失敗して体が汚泥の様にグズグズに崩れそのまま死んでいく始末…。
はっ。予想通り『粗悪品』を掴まされたな。だが同情はしない。この街でこんな奴らまで同情していては逆にこっちの身が持たない。
そんな事は『博愛主義の社会学者』にでも任せて置けばいい。
…あーそうだった。そもそもそれ以前に人間は『化け物に同情したりしない』んだった。
奴らの中で現状比較的まともに動けそうなのは三匹…。一匹はあまりの苦痛にうなだれて意識が呆けている。このチャンスをみすみす逃す理由も無い…あれを使うか…。
アタシは縮地法の要領で瞬時に動き出し、うなだれている一匹の背後に回り『炮烙』をそいつの背中から心臓に向けて突き刺す。
「…百鬼葬死流奥義…『
アタシは突き刺した『炮烙』を奴から素早く引き抜く。それと同時に奴の身体の今さっき開けた風穴を含む穴という穴から赤い血しぶきと黒煙が大量に吹き出し、あたり一面を血煙に染める。
赤黒い血煙の中、奴らは発達したての感覚器官でアタシの居場所を探るが、一度吸えば五感すべての感覚を狂わせる『煙々羅』の前ではその虚しい努力は文字どおり煙の様に霧散する…。
一方アタシは奴らに対し一直線で切り抜けれる位置取りをして、『炮烙』を刀を両手で担ぐような『特殊な八相構え』をとり力を溜める。
…血煙が少しづづ晴れていく中、アタシは『炮烙』の力が溜まったのと同時にすぐさま
「百鬼葬死流奥義!!『
体を大きくひねり、回転の力を加えた連続斬撃の奥義。アタシは高速で回転切りを繰り出しながら奴らの間を切り抜ける。
全身を切り刻まれ、バラバラになっていく奴らは次々と灰となり絶命していった。
「………馬鹿どもが…」
さっきは同情はしないと息巻いてはいたが、『転化』したとはいえやっぱり人斬りは胸糞悪い。急にある種罪悪感の様な嫌悪感が全身を走る。それに戦闘時の高揚が中々収まらない。
これは不味いな。『
アタシは血振いを素早く済ませ『血酔』を抑える為に
そうだった!『
血が…血が足りない…渇く…もっと血を…。
激烈な悪寒と吸血衝動に駆られ、アタシの意識は深淵に堕ちる様に混濁してゆく。
「『
消えてゆく意識の中、アタシは最後の力を振り絞り自害用の劇毒の注射を取り出して自らの太ももに刺そうとしたところ、その手を突如現れた何者かに取られ自害を防がれた。
「…誰だぁ…?てめぇ…は………」
アタシはその人物の正体を確認出来ぬまま、限界になった意識をそのまま手放した。
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