Act.2 術と業 3
次に意識を知覚出来た時、アタシ達は二人とも脂汗をびっしょりかいており、あまりの出来事に思わず首筋をなぞる…。
対する
「ダメダメー。剣士たる者何時いかなる時でも油断しちゃ駄目っていつも言ってるデショー?」
こいつとの稽古はいつもこんな感じのぶっつけ本番で、アタシ達は何度もこうやって扱かれているが、ここまで明確に斬られる感覚は初めてだった。
幽奈が少し涙目になりながら息絶え絶えに何とか答える。
「ゼェ…ゼェ…先生ぇ…コレが幻肢という…」
「もしかしてもう終わったと思ってル?…ンンーそっかァー。まぁそんなもんかァー…。」
「!!?…ガハァ!!?」
状況が理解出来ないまま、口から血を吐き出す幽奈見て私は尋常ならざる怒りを覚え、
「いつもいつもいい加減にしやがれっ!!アタシ達はてめぇらの玩具じゃねぇんだぞ!!!」
師匠をそのまま組み伏せて抑えつけているにも関わらず、何食わぬ顔で師匠は高座の方を指さす。
高座には依然と師匠が座り、退屈そうに欠伸かいていた。そしてそれに呼応する様に喉元掴んでいた方の師匠は影法師となり霧散する。
「…そんなになるほどユーミンが大事ならサー…。普段からもっと優しく接したラ?」
相変わらずの飄々とした態度に、アタシはさらに語気を強め言い返す。
「ふざけんな!!アイツは関係ねぇよクソッタレ!!!少しは真面目に受け答えしやがれこの悪りょ…」
そういい終える前に、アタシは師匠に脛を蹴られる形で足元を掬われ、うつ伏せに倒れたアタシの背中に師匠は座り、師匠は先ほどとは別人の様な荘厳な口調で冷徹に言い放つ。
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「お前と知り合った頃から再三忠告してるが、もう一度言う『怒りに飲まれるな』…」
「何故そこまで怒る?何がそこまで憎い?怒りの理由の正当性はともかく、お前のその反応はあまりに過剰だ。」
「全部だよ!!アタシの取り巻く状況も!この街の欺瞞も!!お前も!!!」
「だいたい『怒るな』と言っといて、何故それ象徴する『炮烙』と『百鬼葬流』をアタシに授けた!?話がおかしいだろ!!?」
「ハァ…『怒るな』とは言って無い。『怒りに飲まれるな』と言っているんだ」
「怒りを知らぬ者に正しい怒りは制御出来ない。『炮烙』はもともと義憤を糧とする神剣であったがお前たち夜兎の血がそれを穢し、その形を歪めた」
「アタシは人間だ!!それはアタシには関係ない事だろ!?」
「この力に魅入られ欲し、それに加担した以上同罪だ!!お前も…そして私も…」
「それにお前はそもそも…。いや…この話は今はいいか…」
また隠し事か…心底うんざりする。こんな思いをする為にアタシは生きてる訳じゃない。
アタシの怒りの熱は徐々に冷めていき、その変わりに失意と悲しみの感情が表出した為か、少し涙が出て思わず嗚咽してしまう…。
そんなアタシに気付いたのか、師匠は語気を緩め、諭す様に続けた。
「……過度な怒りは瞳を曇らせ本質を惑わせる。今日お前たちに授ける『幻肢破りの術』は殆どお前の為にやってる。その証拠に…」
「…そこまでですわよ…。先生…」
彼女の白銀の髪の色に似た白刀『
「流石だネ、ユーミン♪この短時間で会得しただけじゃなく、
「…まぁそういう事だよチーちゃん♪あんまりボヤっとしてると大事な二人に置いてかれちゃうヨ?」
そういいながら師匠はアタシの背中から退き、肩を担ぐ形でアタシを立ち上がらせた。
「先生!!言い方というものがあるでしょう!?まったく…、ワタクシは貴方のそういう気遣いの出来ない物言いに関してだけは一切尊敬していませんからね!!」
「あーゴメンゴメン。また怒られちゃっタ…」
弟子に叱られシュンとする師匠とプリプリと怒る幽奈を見て、アタシの高ぶった感情は鳴りを潜め、冷静さを取り戻したアタシは零れかけた涙を袖で拭いたあと、師匠に深々とお辞儀をし、謝罪した。
「先程は出過ぎた発言を致しました。申し訳ございません。」
「こちらこそ、いつも試すような事してごめんネ…。…でも実戦や現実は待ってくれないかラ…」
「あの話も時が来たらちゃんと話すからネ。……本当にごめんね」
そうだった…。
「ん゛っん゛ん…さぁ!陰気臭い話はもう終わりにして先生っ?血穢にちゃぁんと『幻肢破りの術』を授けて下さいな」
何とか場を取り持とうと頑張ってる幽奈を見て、何だかアタシよりスッキリした表情になった師匠が最初の頃のテンションに戻り、高らかに告げる。
「そうだネ♪じゃぁ気を取り直して…。『幽奈先生』!!『幻肢破りの術』。その術理と解説の程を私に代わり宜しくお願い致しまス!!!」
あまりに素っ頓狂でいい加減な発言に、口をあんぐり開けポカンとする幽奈に、額に手を当て、下を向きながら首を振るアタシ…。
「訂正するよ師匠…。あんたはやっぱり悪霊だ…」
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