Act.2 術と業 2
御悪巣観音寺に向かうまでの商店街の街並み。この場所は古くからの伝統と新しい流行が混在する文化の坩堝が有名なところで、
そういった場所には決まって人が集まり、金持ちや貧乏人、オタクとかヤンキー、若者から年寄りまで実に様々な人種が、この混沌としたストリートに跋扈していて、それぞれの
ここにいると良い意味で自身が矮小化し、多くそれらの中で自身もその一部に成れたような…そんな根源的な安心感を覚えるからだ。
潔癖なお姫様である『幽奈』は
「特に用事が無ければ、こういった雑然とした場所には行きませんわ」
などとのたまっているが、そういったところも含めてアタシ達はいろいろと正反対の存在だ。
アタシは急ぎ早に、この人込みの奔流の中を縫う様に進み、この土地の中心地である仏閣?である、御悪巣観音寺にたどり着く。
御悪巣観音寺…。ここはただの仏閣でなく、仏教や神道…果ては西の一神教やマイナーな多神教までもを飲み込み、無理やり一つにした様なこの街…いや現在のこの世界そのものを体現したかのような宗教の寺院。
その外観は先の通り、あらゆる宗教観をミックスしたものであり、そのいで立ちは仏閣であり、神社でもあり、教会ともとれるような、なんとも形容しがたき姿であり、アタシ達の師でありこの街の英雄…いや、神とも言われる『月のナイア』は、ここの本堂にて即身仏として奉納され、祀られている。
その威光は今だ衰える事は無く、休日の昼過ぎでも熱心な信徒や観光客で賑わい、本堂周辺には眠れる彼女を守る、武僧や神官が今この瞬間も目を光らせている。
境内に入り、時間を確認する…。どうやらギリギリ遅刻では無く、幽奈が大げさに胸を撫でおろす。約束事や時間管理は確かに大事なことではあるが、何でそうお前はオタクっぽいのかと心中で呆れているところに、品のある位の高そうな巫女が、侍女を連れながらこの砂利だらけの境内を足音を立てずにこちらに近づき、丁寧に一礼してから声をかけてくる。
「血穢様。幽奈様。お待ちしておりました。ナイア様がお呼びですので此方へ…」
「ありがとうございます。いつもお世話になります」
幽奈は外向きで丁寧に対応しているが、アタシはこういった不気味で胡散臭い宗教関係者があんまり好きではないし、
「………オゥ」
とだけ答える…。
礼儀がなって無いと幽奈に頭を小突かれながら、アタシ達は本堂からは裏手の場所にあたる関係者しか入れない社務所に案内され、その社務所内の地下室から続く、隠された物々しい鋼鉄の扉から秘密の通路を通り、本堂の地下室に向かった。
地下室に入るとそこは最低限のろうそくの灯りと
それはなんとも珍妙なデザインで
しかもそれら賽子や硬貨は簡単に取り外せる仕組みになっており、はっきりと判らないが微量の魔力を感じ、少なくとも
「………これは?」
「ナイア様からの贈り物に御座います。御付けなって下さいませ。詳しくはナイア様が直接に…」
巫女がそう答えるとアタシ達は渋々それを身に着ける…。その様を見届けた巫女たちはそそくさと部屋を後にし、
「何かありましたら何なりとお申し付けくださいませ」
とだけ言い、重い扉を閉め、扉の向こう側で待機した。
静まり返った暗い部屋の中で今度はどんな面倒事をあの悪霊に押し付けられるのか落胆しているアタシを尻目に、幽奈はそそくさと謁見の為の準備…、正座をして瞳を閉じ、意識を集中させすぐさまにトランス状態に入った。
相変わらず早ぇな…。いったいどんな集中力してんだかと感心しつつも、アタシも幽奈に続き座禅組み、呼吸を深くさせて行き、ゆっくり意識を集中させていった…。
……………………………………………………………………………………………………
瞑想の中、まるで夢の中の様な状態を知覚したアタシは、周りを見渡す。部屋の様子が変わって無いところ、どうやらちゃんと入れたようだ。
空の高座に目をやると、そこにはさっきまでは居なかったはずの、まるで天女かと見誤る様な絶世の西洋美人の黒衣の聖女がいた。
その美しい金の髪は少ない灯りを綺麗に反射することで艶美に輝いていて、「幽奈や霊茄さんの銀髪も大したものだがさすがに人外じみてるな」と、澱んだ赤黒い髪のアタシはそんな事をぼんやり感じていた…。
その絶世の美女は、高座にだらしない姿勢で座りながら欠伸をしつつ、フレンドリーに口を開く。
「チーちゃんは相変わらず
あたしがこいつを悪霊呼びするのはこういうところだ…。見た目とは裏腹に威厳や荘厳さなんかが全くといっていいほど無い…。
心の中で舌打ちしつつ横目で幽奈をみると、しっかり正座をして澄ました顔をしながらも口角がすこし吊り上がってのが見え、余計に腹が立つ。
「チーちゃんもいい加減に意地張って無いでユーミンを見習いナー。この子ホントすごいんだヨー、こないだ何て…」
「…ん゛っんん゛…先生っ」
幽奈がワザとらしく咳払いをする。どうやら聞かれたく無い話みたいだ。せっかく弄るネタが一つ増えると思ったが、そもそも本題では無いから今はいいか…。
「っマー、それはいっか!それより最近『アヤノン』が全っ然私の言うこと聞かなくてサー。先週も喧嘩しちゃって困ってってんのヨ」
「これの事でか?」
アタシは例の首飾りを弄りながらそう言う。
「そうですわ。これは一体なんなのですの?先生?」
幽奈が続く…。
「アーそれはね。まぁ平たく言うと『お守り』なんだけド、本題も込みでちょっと話そうカ」
「まぁこの街の治安は以前から悪くテ、その手のゴミ掃除を私の
「私としては悠々自適な
「だからそれが何の関係で…」
「まぁまぁ落ち着いテ?その組織にチーとヤバメな術者が居てサ、『
「その彼が得意とする幻肢の魔術がまだまだ修行中の君たちには正直しんどそうだからそれを授けたんヨ」
「で?使い方は?あんたの事だ…。このモチーフが外せるのも意味があるんだろ?」
「そりゃモチロン!んじゃ早速実践を混ぜながら解説するネー」
ナイアはそう言い終えた途端、どこからともなく何処か悍ましい生命にも似た黒刀を取り出し、目にも止まらぬ速さで高座からアタシ達の前に移動し、アタシ達の首を切り裂いた。
そしてアタシ達の頭部は胴体と完全な別れを告げる…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます