Act.2 術と業

 『龍劫禍街』…この街では弱者はあらゆる局面で食い物にされる。肉体的な弱者は暴力犯罪や差別、頭脳的な弱者は詐欺や陰謀に容易く巻き込まれる。

 そんな混沌渦巻くこの街で逞しく生きていくには、最低限舐められない程度の身体的自力と、社会に氾濫するあらゆる情報の海の中からそれらを精査し、摂取したのちに脳内で咀嚼しながら自身の状況CONTEXTを更新していくスマートさが重要になってくる。


 霊茄さんが語ってくれた事の顛末を軽く話すと、アタシがこないだ戦っていたVウラドは正確にはV吸血鬼では無く、いうに彼らは遥か昔からこの星に存在する少数民族の亜人種のそれであり、『夜兎人やとびと』呼ばれていた。昔から辺境の田舎の名士や貴族として人間世界に溶け込みひっそりと暮らしていたらしく、とにかく単純に血に飢えた化け物では無いってことみたいだ…。

 逆にアタシと義父さんが今まで狩って来た醜い化け物吸血鬼らは、し、その力や技術に溺れ、獣に堕ちていった者のそのなれ果て共らしい。

 

 だが『夜兎人』の種族も一枚岩では無く、地上の支配権をVと自分たちだけの物にしようとする過激派の存在が有るらしく、ウラドの子供たちは過激派共の思想に染まり、人を支配しようと画策していたため、ウラドは『泣いて馬謖を斬る』が如く、子供たちを討とうとしたが、自らの子を斬る迷いを捨てれずに返り討ちにあい、片腕を失った。

 

 さらに聞かされたのは義父さんはウラドの家、『ヴァレンタイン家』と契約していた狩人であり、簒奪者吸血鬼を狩ることで生計を立てていて、かつ実力も高く、ウラドとの間に親交があったためにウラドの子供らに誅殺されたのことだ。

 さらにはアタシの扱う『炮烙』や『百鬼葬流』の業、さらにはアタシを蝕む『血酔の呪い』でさえも『夜兎人』の技術や魔術を転用したものであると…。


 まったくもって馬鹿馬鹿しい話だが、どうやらそれら全部とアタシとの因縁はアタシが思ってた以上に深かったらしい…。でも個人的に先の話の内容なんてマジでどうだっていいし、アタシはこんな下らない事で義父さんを失った不条理に怒りが収まらない。


 いいさ。こんなクソみたいな血の因業なんざアタシの憎しみの炎で全部焼きつくして……………






「ちょっと!?さっきから難しい顔で黙り込んで…。ワタクシの話をちゃんと聞いていますの!?」




  

 意識がふと現実に帰る。どうやら考え込みすぎたみたいだ…。あぁそうだった…今はもっと…。


「まったく貴方という人はただでさえ粗野で女性らしさが欠けているというのにそれでいて乙女の様にすぐに自分の世界の浸りがちな…くぁwせdrftgyふじこ………」


 …目の前の高飛車で小うるさいこいつは『罅骨 幽奈かこつ ゆうな』…。で、この街のあらゆる武器や兵器の製造と流通を事実上の独占をする巨大軍産複合体industryの中枢企業『STAR TABLE』の令嬢であり、アタシの同僚…。まぁ正確に言うと学生バイトで同い年で社会人のアタシの方が断然大人なんだけどな。


「先に社会に出たからって大人ぶらないで下さいまし。貴方はにすぎませんわ」


「…思考を読むんじゃねぇよ…」


「あらそうかしら?顔にはっきりと書かれていましてよ?」


「はぁ…ったく…」


 こいつといるのはホント疲れる…。まったく、は凛とした立派なカッコイイ女性なのにどうしてその妹のこいつはこんなにも高飛車で小うるさくて、ガキなんだ…?。


 こないだのVウラドとの闘いから1週間後の土曜日。今日はここ御悪巣商店街の裏路地にひっそりと営なわれている小洒落た喫茶店『ウルタール』にて


「で?今日は一体何の用なんだっけ?お姫様?」


 気だるげにそう言うとアタシは羽織ってるジャケットのポケットから携帯水煙草VAPEと取り出し、一服しようとした瞬間。幽奈にそれをひったくられた。


「ここは『禁煙』でしてよ!まったく。出入り禁止になりたいんですの?」


「…それに、そもそも貴方は未成年でしてよ?」


「…これはでしてよ」


 苦し紛れの適当で誤魔化す。


「あぁ…。といい『妖廼あやの』といい、どうしてワタクシの友人はこんなに不良ばかりですの?」


「いいからそれ返せよ。。ってかそれより妖廼は?」


「彼女は先週に済ませたので今日は来ないですわよ……ってもうこんな時間!?」


「早く『本堂』に向かわなきゃ!血穢!早く行きますわよ!!」


「財布忘れたわ」


「見え透いた嘘は止めなさい!ホントまったく!ここはワタクシが出しますから早くお店出る準備をなさい!」


 相変わらず単純で愉快なやつだ…。まぁアタシも助けられてるんだけどな……死んでも言わないけど。

 幽奈は慣れた感じでこの店の店長との会話をあしらいつつ、そそくさと会計を済ませていた。

 気品のある佇まいや振る舞い、容姿もハッキリと美しく、そのうえ社交上手…。アタシに無いものを全て持っている彼女に僅かばかりの羨望と嫉妬を抱きながら彼女を見つめ、カップに残ったすっかりぬるくなったブラックコーヒーを飲みほしてると彼女が振り返り言う。


「血穢!?何してるの!?はぁ~…まったく貴方って人は…」


「はいはい。ただいま向かいますよぉーお姫様」


 コーヒーを飲み終えたアタシはそういって立ちあがり、プリプリと怒っている幽奈プリンセスの所までふざけながらひょこひょこ歩き出した。

 店を出る瞬間まで幽奈がなんか小言を言っていたがそれには耳を傾けず、アタシ達はここ御悪巣町にある『御悪巣観音寺本堂』に向かった。

 


 アタシ達の剣の師であり、現在である『』に会うために…。



















「そういえば、お会計するときのワタクシを見つめてた時、貴方一体何を考えていらしたの?」


「…顔に書いてなかったか?死んでも言わねぇよ」


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