Act.1 血の穢れ 2
…御悪巣支部に着いたアタシはまず感じたのは妙な異変だった。
『襲撃を受けた』と聞いていたのにその形跡はおろか、現場特有の張りつめた空気も全く感じ取れない…。困惑はしたが、警戒を怠らずにどうしたものかと脳みそを回転させているところに支部の正面玄関が開き、支部の制服の女がおずおずと申し訳なさそうに小走りで出てきた。
さっきの電話の女だ。支部の受付兼オペレーターをやってる『
いつもおどおどして気弱なやつだが別に悪い奴じゃない。少なくともアタシよりかはまともな人間だ…。
「あのぉー…血穢さん…怒らないで下さいね…?」
「んなもん内容によるだろうが!状況は!?」
「えーなんて説明すればいいか…とりあえずVは本当に来たんですよ?」
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どうやら話を纏めると、支部にやって来たVは丁寧な口調の片腕の紳士で交戦の意思は無く、アタシ個人に狩りの依頼が有るらしくて、今は支部長と奥で茶をしばきながら、アタシを待っているらしい。しかも襲撃が来たと皐月に嘘をつかせたのは、なるべく早くアタシに来させる為の支部長のアイディアと来た…。
なんだか腑に落ちないぶっ飛んだ状況だが、そうもいってられないのでアタシはすぐに支部の応接室に向かい、色んな苛立ちこめて、かなり強め蹴りを入れ扉を開け放す。
バァン!!!!
「フフフ…おやおや、噂に違わぬ血気盛んなお嬢さんだ。」
開口一番にそう言ったのは応接室のソファーに腰を掛けている先の話のV…。話通り帽子を深く被った左腕の無い壮年の紳士。豪華な蝙蝠の意匠の杖を自らの傍に立て掛け、残りの腕で優雅にエスプレッソを口につけながらそう呟いた。
「ずいぶんと余裕そうだなぁジジイ。何が目的か知らねぇが知ってること全部喋ってもらっ…!」
そう言ってアタシは妖刀の柄に手をかけ鯉口を切ろうとした瞬間…。
「血穢!!やめなさい!!!」
荘厳な口調でそうピシャリとアタシを叱ったのはVの向かいに座っているこの支部の支部長である『
同性でも思わず見惚れてしまうような麗しい見た目とそれに似合わず荘厳で芯の強い気高さを感じる佇まいをしている彼女に言われ、アタシは柄からゆっくり手を放す…。
…この人がこの感じなら本当に危険はなさそうだ、少なくとも今のところは…。
「とんだ失礼を、申し訳ありません」
「いえいえ、昔の彼の様で寧ろ懐かしさを感じましたよ」
「…座りなさい」
霊茄さんに横に座るように促され、アタシはしぶしぶ彼女の横に座った。もちろん警戒は解かない。
「さて…。無駄話もあれなので早速本題に入りますが」
「その前に名乗れよ」
「そうしたいのは山々なのですが、少々面倒な事情がありましてな。今はそのまま
Vはそう言ってさらに深く帽子を被りなおし、少し咳払いしてから続ける。
「とにかく。私は貴方様に狩りの依頼をお願いしたいのですよ」
「はっ、あんたのか…?」
挑発するように食い気味で答える。
「血穢!あなたいい加減にっ!!」
霊茄さんがそう言いかけるのをVが遮りさらに続けた。
「もちろん私をも含んだ嘆かわしい我が一族に御座います」
突然、粘性を帯びた漆黒の闇がVの体から広がっていき、応接室を飲み込んで行く。人払いの魔術か…。ここに来てこそこそ話かクソったれ…。にしてもアタシはともかく、現場に出ない霊茄さんも全く動揺しないあたり、彼女は流石に肝が据わってるな。
「彼女を少しお借りしますね。霊茄支部長」
「…変な危害を加えない様お願いしますよ」
「フフ、彼女の出方次第じゃ、それも約束出来かねますな」
そう言い終えると同時に闇が部屋全体を覆いつくし、アタシとVだけが深い闇の中に沈んだ。
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時空がゆがむ形容しがたい純黒の幻惑の中。これが奴らが扱う初歩的な暗黒時空魔術の一つであるのは昔に経験している。そんなアタシの思考を読み取ったのか、Vはまずゆっくりと話しを始める。
「あなたの
どんな関係か知らないが、化け物の分際でまるで
「違う!!てめぇらが食い殺したんだ!!背中を開いて、中身を全部食い尽くしてな!!!」
「
「…もちろん知っておりますがそれも込みで改めてご依頼しましょう!!」
「貴方様に狩って頂きたいのは我が一族であり私の子供たち!!『赫剣のカミラ』、『腐喰のカジモド』、『惨劇のヴァニタス』、『甲骸のハサン』、『蠱惑の三女アリーラ、ヴェローナ、マリーシュカ』、そしてこの私、『伯爵ウラド』に御座います!!!」
「一家心中が依頼とはとんだイカレ野郎だなおい!!一体何が目的なんだてめぇは!?」
「…嘆かわしい我が一族は悠久の時を生きすぎた結果、精神が酷く退廃し、矜持をも捨て、人々およびあのお方との古き約定を破り、堕落を貪っては血に酔いしれている所存に御座います」
「あらゆる意味で老いた私では、醜く愛しい我が子らを介錯することは叶いません。そこで貴方様にご依頼するに至ったのですよ」
…ますます訳の分からん野郎だが、『それも込み』ってことは、つまるところ先の奴らが
「言われるまでも無く全員殺してやるつもりだが受けてやるよその依頼!!!報酬はてめぇの命だけじゃねぇだろうな!!?」
「おぉ…やはり受けて頂けますか。いやはや、これは本当にありがたい」
「もちろん、情報提供や金銭的支援を含むサポートは潤沢にさせて頂きますよ………ですが…」
そう言うとVは突然目の前から消えたと思うと、瞬時にアタシの前に再び現れ、逞しい右腕でアタシの頭を鷲掴みにした。
「はやっ!!?」
警戒していたつもりが、反応に遅れたアタシは咄嗟に妖刀に手を掛けるも、それより早くVの手から澱んだどす黒い魔力がアタシの脳内に流し込まれた。その瞬間に脳内に刻まれる奴らの外見や身体的特徴および能力の情報、それと奴ら|がまだ比較的まともだったころの家族の記憶クソほどどうでもいいゴミの様な情報まで…。
アタシは気合で意識を取り戻し、咄嗟に腕を振り払う。すんなりと手を離したところ|変な危害別の呪いや魔術はおそらく掛けてないだろう。
「…私達の事はあらかた説明できましたかな…?ではお次は血穢さん。貴方様の事を直接お伺い致しましょうかな?」
そう言うとVは自身が発生させた魔力の渦から蝙蝠の意匠の杖取り出し、私に杖先を向ける形で構えた。…なるほどね。お次は腕試しってとこか……上等だ!!
アタシは妖刀の鯉口を切り、敵の虚を突く居合抜刀でVに切りかかる!!!
そんなに見たけりゃ見せてやるよ!!数多の血鬼を切り伏せた『百鬼葬流』その
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