第58話 生きる意味

 私は生きている意味はあるのだろうか?

 私が生きている意味があるのだろうか?

 答えは…決まっていた…


 私は砂浜に倒れ込んで空を見上げ考えた。


 もし仮に私が死んだとして、この世からいなくなってしまったとして悲しんでくれる人はどれほどいるのだろうか……?

 私のことを想って涙を流してくれる人はいるのだろうか?

 

 …………いない。

 …いるわけない。


 私は生きていても死んでいてもどちらでもいい。

 私の存在する意味すらない。

 生きている意味がない。


 こんな私が生きる意味などあるのだろうか…

 生きたところで意味があるのだろうか…


 私は孤独だ。

 独りだ。ずっとひとりぼっちだった。

 学校にも友達と呼ぶほど人間はいない。

 家族…父は他界。母は私のことなど愛してはいない。

 母は、中学までは最低限は育ててはくれた。だがそこには愛などない。ただ世間体を気にした結果にすぎないだろう。そしてついには高校生になるとついには家を追い出された。母は私のことなど鬱陶しさ以外何者でも無かった。

 

 当然、私は一人暮らしをすることになった。

 お金などは支援してくれてはいる。

 だけど、私にはそんなことはどうでも良かった。ただ、愛してほしかった…


 いつも1人。

 ずっと1人。

 学校でも1人。

 家でも1人。

 孤独が私を襲った。


 私は今まで孤独と戦ってきた、必死に生きる意味を探し出して抗った。

  生きる理由を求めていた。


 図書委員の仕事は私の唯一生きる理由だった。これは私がやらなければならない。図書委員の仕事はまさに私の生きる意味そのものだった。



 普段、図書室を利用する人など滅多にいない。なのでいつも1人で図書室にいるだけの日々だった。そんな日々に耐えかねたある時。


 それは、先週の火曜日。

 ある1人の男が図書室に現れた。

 彼は目を輝かせてラノベコーナーを見入っていた。まるで、おもちゃ屋に訪れた無邪気な子供のようだった。

 彼が来た時、私はとっさに隠れてしまった。

 緊張…していたのかもしれない。


 彼と話したかった。だけど、私は人との話し方が苦手で下手だ。もし、嫌われたらどうしよう…頭の脳裏によぎった。

 だから、私はあるラノベのヒロインの女の子のように彼に接した。

 その日は焦って彼に壁ドンなんてしてしまった。いや、あれは両手ドンと言った方が適切だね。

 なぜ、あんな恥ずかしい無鉄砲な行動をしてしまったのだろう…と私は後悔していた。

 おそらく、彼が図書室から出て行くのを身勝手に拒んでいたのかもしれない。


 結果として彼は本を借りて帰って行ってくれた。私がおすすめした本だ。

 もし、本読んでくれたら…一緒に話し合えるかもしれない。そんな期待を胸に秘めていた。


 そして、今週の火曜日。借し出し本の〆切り日。私は期待しながら、図書室に待っていた。隠れていた。


 彼は私を探していた。

 必死に私を探すその姿…私は嬉しかった。

 私…私を探してくれている…


 それから彼は私に土下座して謝ってきた。

 本を自宅に忘れたという。


 私はそれを聞いてチャンスだと思った。

 彼と友達になれるかもしれないと思った。

 私は彼を今週限りで手伝ってもらうことを無理矢理にこじつけた。

 

 純粋に嬉しかった。

 まだ、彼と一緒にいれる…1人じゃない…


 その日、私は彼の家まで本を取りに行った。

 本当は〆切り日を過ぎても別に何も無い。

 怒られると言ったけど実際そんな事はない。

 だけど私は嘘をついて誤魔化した。


 彼の部屋に入った時…

 彼を強引にベットに押し倒した時の私はもうおかしくなっていた。

 彼と仲良くなりたいという気持ちが強過ぎたのかもしれない。

 それに、1人の家に帰りたくなかった…のか…


 とにかく私は必死に彼に私のことに興味を持って欲しかった、かまって欲しかった…

 

 だけど、彼は冷静だった。

 私に手を出すどころか、何もしなかった。

 あの時の彼の目を忘れることはできない。

 哀れみの目…そのものだった。


 

 その次の日私は体調を崩した。

 風邪かどうかは、わからないがとにかく辛かった。

 風邪で寝込んでも、看病してくれる人私にはいない。

 大丈夫?と声をかけてくれる人もいない。

 私は寂しかった。

 風邪以外にも辛く、苦しかった。


 そんな時に私はまた嘘をついて、無理矢理な理由をつけて彼を家に呼んでしまった。

 1人は嫌だったから…寂しかったから…

 

 彼は来てくれた。

 それどころか、彼は私のことを看病してくれた。心配してくれた…

 彼が、家を出てしまった時はなんだか急に孤独になった気がしてパニックになった。

 

 彼が帰って来てくれた時は思わず彼にしがみついた。彼が苦しくなるくらい…強くしがみついた。絶対に離したくなかった…


 その後に彼が作ってくれた雑炊は今までで一番温かくて美味しかった。

 私は嬉しかった…だけど同時に寂しくもあった。

 

 彼の看病のおかけで風邪は治ったその次の日だった。

 この日に私の決心がついた出来事が起きた。

 

 私以外の図書委員がいた。

 同じ学年の他の図書委員。

 キチンと仕事をしていた。私なんかよりずっと優秀だった。


 私は他の図書委員の姿を見て思った…なんだ…私じゃなくてもいいんじゃん…と…


 今まで図書委員の仕事は私だけの仕事だった。別に1人だろうと、私がやらなければいけないことだったので構わない。

 私がいる、存在する必要性だった。

 私が生きる意味…だった。


 だけど、例え私がいないくてもいいということを思い知ってしまった。

仕事をしなくてもいい…

良かった…


 私は絶望した。


 私がいる意味がなくなった。

 存在する必要も理由もなくってしまった。

 私の生きている意味が完全に消えた…


 そして、私は今海辺の砂浜で大の字で空を見上げている。

 この海に来たのはもちろん私という、星北栞の存在を完全に消すため。

 もう、この世界に星北栞はいらない…

 生きても意味がない…

 生きる理由がない…


 あぁ…空が綺麗だ…

 漣の音が心地よい。


 あと数時間後に私は消えよう。

 

 大好きな海に飛び込もう。


 そして…子供の頃に憧れた人魚に成って魚達と泳ぎたい。

 自由で広い広大な海で…




 ……だけど……あと…少し…少しだけ待ちたい。

 

 彼が私を見つけ出してくれるかもしれない…

 探し出してくれるかもしれない…


 彼は私を……星北栞の存在を見出してくれるかもしれない…


 私は少しの期待を胸に瞳を閉じた。

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