第56話 二つの願い

 放課後。

 

 「いや…しかしあんなに人が来るとは思わなかったぜ…」


 小林は驚いたように言った。


 「たしかにな…これも小西が作ってくれたチラシやポスターのおかげじゃないか?」


 俺は小西を横目に言った。

 実際、あのポスターとチラシの完成度は高い。見た人に興味を出させるようなそんな感じだ。あれを1人で作ったのは純粋に凄いと思う。


 「……わ…私なんか…べ、別に大したことはしてないよ…」


 小西は謙虚だった。

 俺とは大違いだ。俺だったら「そうだろ?感謝しろよ!」とか言ってたと思う。


 「そ…それに、宣伝しようって提案したのは陰田くんだし…陰田くんのおかげ…だよ…」


 「えっ…俺は…別に…」


 俺は適当に言っただけだ。

 

 「たしかに…図書委員でもないお前がよくもまあ、こんなに手伝ってくれるよな…あれ?なんでだっけ?」


 小林は首を傾ける。

 前にその理由は答えたはずだけど、小林は馬鹿だから忘れたらしい。


 「ああ…その理由はな…」


 俺はチラッと隣に座っている星北を見る。

 星北真顔で下を向いていた。

 さっきからやけに静かだと思ったらどうやらゾーンにでも入っているようだ。

 昼休みの時も星北の様子が変だった。

 1人、手が止まっていたというか…呆然としているようだった。


 「善意!善意だよ!」


 適当でいいや。

 星北の奴隷ですなんて言いたくない。


 「…いい奴だな…図書委員でもないのに」


 小林は1人でに納得した。

 

 「で、でもな!俺が手伝うのも明日までだ」


 念の為言っておく。

 このままの流れでしれっと図書委員にでもなったら面倒だ。

 絶対に委員会には入りたくない。


 「ええっ?てっきり、もう図書委員になっていると思ったのに」


 ほら、やっぱり。

 そう思われては困る。俺はあくまで一週間という期限付きで手伝っているのだ。


 「じゃ…じゃあ、来週からはもう手伝ってくれない…」


 小西がなぜか悲しげに言う。


 「悪いな…小西…だけどまあこれから利用者も増えると思うし、俺がいなくたって人手不足にはならないだろ?」


 実際、先ほどの昼休み。

 予想以上の繁盛で人手が足りなかった。だが、2、3年の図書委員の先輩方が対応してくれたのだ。


 その先輩方は昼休み終わりに、俺たちに今までごめんなさいと謝ってくれた。そして、これからはキチンと仕事をする事を約束してくれたのだ。


 「そ…そうだけど…その…陰田くんがいないのは…少し寂しいと…いうか…」


 小西は頬を赤らめた。

 

 「寂しい?」


 「あっ…!あの!決して変な意味はありません!」


 小西は焦ったように訂正した。


 「へっ…陰キャが自惚れるなよ…」


 小林は文句を呟いた。


 「うるせぇよ!チャラ男が!」と言いたかったが、陰キャと言ってくれたので言わないであげよう。


 「まあ、明日からも忙しくなるかもだけど…皆んなで力を合わせて頑張ろう」


 てことでひとまず今日は解散…

 俺も帰ろうと思った。しかし…


 「蒼くん…少しだけお話しない?」


 帰ろうした矢先に星北に止められた。


 「あ…ああ…別にいいけど…」


 速攻で帰りたかったけど…


 現在は星北と2人にりだ。

 俺は星北の向かいの席に座り直した。 


 「お話って…何を話すんだ?」


 「いや別に話すことも内容もないんだけどね…少しだけ君といたくてね…ほら、今日は2人きりっての時は無かったよね?」


 なんかコイツ…いきなり付き合いたてのカップルみたいなことを言うな。

 2人きりになりたかっただと?


 「……なんだよ……俺といたいって…?」


 「別に理由も訳も何でもいいじゃないか…私はただ今この瞬間、この時を君と過ごしたいだけなんだよ…」


 星北は、俺を見つめた。

 じぃーと俺を瞳で捉えた。


 「……このまま無言なのも癪だしな…俺から一つ質問いいか?」


 俺は耐えかねて言う。


 「なんだい?私に答えられる事なら答えようか…」


 「星北…何か悩み事とかないか?」


 俺はストレートに聞いた。

 変に誤魔化してもややこしくなるだけだ。

 直近の星北の様子的に、何か事情があるのでは?と思っていた。

 俺の勘違いかもしれないが…


 「………あるよ……悩み事…」


 少し間を置いた後、星北は答えた。


 「その悩み事って…」


 「さあね…当ててみてよ」


 星北は不適な笑を浮かべた。

 まるで、謎々を出題する子供のように。


 「当ててみなよって…わかるわけないだろ」


 それについては、もう考えた。たげど、一切、微塵もわからなかったからこうして聞いたのだ。


 「強制問題です…あと10秒以内にお答え下さい」


 「はぁ?ちょ待て…」


 いきなりすぎるし、難問すぎるだろ!


 「10…」


 「待てって…!」


 「9…」


 クソ…もはや手遅れか。

 何か答えなければ…


 「う〜ん…」


 「8…」


 「便秘だ!便秘!」


 「フフッ…そんなわけないでしょ…7…」


 「えと…じゃあ、冷え性!」


 「ブー的外れ…6…」


 「テスト!来月のテスト!」


 「ブー…5…」


 「えと…うーん…と」


 「4…」


 「わからん!」


 「3…」


 「料理ができない!」


「2…」


 「わかるかぁ!」


 「1…」


 「お助けシステムは?!」


 「0…残念、答えを導き出せなかったね…」


 星北はニヤッと笑っていた。


 「わかるわけないだろ…」


 「全く…低脳くんだね…」


 「は?そんな難問答えられるやつなんてそうそういねーよ」


 「じゃあ、答えられなかったから私のお願いを2つ叶えてね」


 「はっ?なんでだよ!」


 「答えられなかった罰だよ」


 強制的な問題の後は強制的な罰かよ…

 星北こういう無茶振りを平然とする。


 「ちっ…簡易的で容易にできるものならな…」


 「じゃあ一つ目のお願い…私を下の名前で呼んで…そして、その後にまた明日ねって言って欲しい…」


 「………わかった…」


 正直、なんだそれ?と疑問にも思った。

 そんな事でいいのか?とも思った。

 だけどそれが星北の望みなら、願いなら…


 「栞、また明日ね」


 俺は言われた通りそのまま言った。

 改めて下の名前で呼ぶのは少し照れ臭かった。


 「うん…うん…あ…ありがとうね…」

 

 星北は、悲しそうに下を向いた。


 「……で?もう一つのお願いは?」


 まだなのだ。

 お願いはもう一つある。


 「それは…明日言うよ…」


 「明日?なんで明日だよ?」


 「これは、明日じゃないと駄目なのさ…ま、細かいことは置いといて明日だよ、明日」


 「……明日な、わかった…」


 何をお願いされるのかわからないけど、何となく面倒な感じがする。


 「いよいよ明日でこの歪な関係が終幕するね…」


 「ああ…そうだな…」


 俺が本を家に忘れたせいで、一週間(今週)という期限付きで図書委員の仕事をここまで手伝ってきた。

 それも、明日で終わりとなる。

 俺も、明日が終われば晴れて星北の奴隷から解放される。

 ああ、早く明日が終わらないかな〜


 

 「じゃあ、明日な」


 「……明日……ね…」


 それから、俺と星北はそれぞれ帰ろうとした。


 

 「あっ!蒼くん!」

 

 別れ際、星北が言う。


 「ん?」


 「明日のお願いのヒントだよ…それはこの一週間にあるからね…いろいろと、悩んで、いっぱい私のことを思い出して考えてね…」


 「おお…わかった…」


 「それじゃ!」


 星北は、駆け足で帰って行った。

 明日のお願いねぇ…一体何をお願いされるのやら…

 まあ、無理難題だったら無視しよっと。

 俺はそんなことを考えながら家に帰った。





 

 


 










 「必ず…私を………………」


 私は心の中でそう呟いた。

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