第55話 ティッシュ配りの気持ち
「どうぞ〜」
計画通りというか、予定通り俺と星北は校門前でやけに完成度が高いチラシを配っていた。
一つ気がかりなのは小林がいないことだ。
アイツ…サボりやがった。
どうせ来ないだろうとは思っていたけれど、本当に来ないとは。
チラシは、大半の生徒は素直に受け取ってくれた。時々知らんぷりして、素通りされるのが結構傷ついたりする。
まるで、街でティッシュを配っている人のようだ。その人の気持ちがわかった。これからは、素通りせずにティッシュを貰おう。
「どうぞ〜って…」
気だるく、作業の様に配っている時だった。
「図書委員の仕事…頑張っているんだね!」
目の前には、清水奏いた。
相変わらず、可愛い笑顔で俺からチラシを受け取った。
「…まあ…俺なりに頑張ってるつもり…」
頑張ってるというか…嫌々やっているだけだど…
「そっか!続けて頑張ってね!じゃあ教室でね!」
そう、清水は笑顔で去って行った。
清水のあの様子を見ると元気そうだ。
「おうおう…蒼、まるで駅前のティッシュ配りのおじさんみたいだな!」
「プププ…まあ、蒼氏にはお似合いでござるがな」
馬鹿陰友が、アホ面でノコノコとやってきたぜ。
「お前ら…あんま調子に乗ってたら本の角で脳天ぶち込むからな…」
「ヒィ…!」
「蒼氏…怖いでござるよ!」
逃げるように、馬鹿陰友2人は去って行った。
さてと…朝からストレスを貯めるのはごめんだ。なんで、朝からこんな疲れなければならないのか…全く…勘弁してくれよ。
俺は、チラシ配りを再開する。
「どうぞ〜あっ…」
目の前には、見たくもないあの人物がいた。
不良ヤンキー…最低男…強制的だが、清水の元彼…九頭竜坂だった。
「アッ?なんだテメーは?」
「いえ…その…」
九頭竜坂は相変わらず、ムカつく顔をしている…もっと、ボコボコにすれば良かったかな?なんて…
「これ…よかったらどうぞ…」
俺は恐る恐る九頭竜坂にチラシを差し出す。
もちろん、今の俺はあくまでただのヒヨッコ陰キャのフリをする。
多分大丈夫だとは思うが、おかめ仮面が俺だとはバレたくはない。
まさか、こんな陰キャがあのおかめ仮面だとは思うまい。
「なんだこれ?オススメの本?お前…俺を馬鹿にしてんのか…?」
九頭竜坂は顔を近づけて威嚇するように言った。
馬鹿には…しているけど…チラシを渡したぐらちでそんなに思うのか?
被害妄想も甚だしい。
「いえ…その…別に…そんなつもりはありません…ただ…」
仕方なく俺は下手にでる。
「ただ?」
「本の面白さを知ってもらいたくてですね…」
「本…本なんて読んだところで、強くなるのか?」
「へっ?」
九頭竜坂は唐突にそんなことを言う。
「だから…本を読んだところで最強になれるのかと聞いているんだ」
コイツは何を言っているんだ…
本を読んで最強に?この学校の図書室は魔導書や、デスノートでも置いてあるのか?
「それは…あっ、そうだ宮本武蔵の五輪書とか読んだらなれるかもしれないですね…」
たしか…それの解説本的な本があったようななかったような…
「なるほど…武士最強の宮本武蔵の本か…読んでみる価値はありそうだな…」
なんか、納得してくれた。
適当に言ったつもりだったが。
まあ、勝手にそれでお強くなられて下さい…
それから、適当にチラシを10分ほど…手にあったチラシは全て配ることができた。
「終わったようだね…」
星北が、こっちに向かってきて言った。
どうやら星北も配り終わったようだ。
「案外皆んな素直に受け取ってくれてよかったよ…」
ほぼ、無視される覚悟もしていのだが案外ここの生徒たちは優しかった。
「優しい…ねぇ………」
星北が少し寂しそうに呟く。
「これで、少しでも図書室の利用者が増えるといいな…」
俺は間を潰すように言った。
「そうだね…」
その日の昼休み。
いつも通り図書室に行くと朝に見なかったあの顔が見えた。
小林である。
「よう……陰田!」
「それは、遺言ですかぁ?」
俺は指を鳴らす。
コイツだけは…許さない…わけではないけど腹が立つ。
「待て…!今朝は悪かった!俺はめっぽう朝が弱くてな…」
小林は降参と言わんばかりに両手を前に出した。
「………まあ…たしかに…朝が弱い人もこの世にはいるもんな…」
「だろ!わかってくれたか!」
「なんて言うわけないだろ?」
「ふぇ?」
「ま…まあまあ…お…落ち着いて…2人とも」
小西が割って入った。
クソ…小西が止めなきゃメガトンパンチを喰らわしてやったのに…
一方、星北は本棚上に座って本を読んでいる。
アイツ…なんか今日は元気がない。
まあ、病み上がりなので当然だとは思うけど。いつもみたいな、減らず口というか余計な一言というか、俺の話していても間抜けくんやか嘘つきくんとかと罵ってこない。
「……しかし…人…来るかな?」
小林が頭の後ろに手を組んで言う。
「まあ…わからないな…」
一応宣伝はしたものの果たして効果があるかないかはわからない。
「きっ…きっと、来てくれるよ!」
小西が励ますように言った。
「そうだな…」
利用者を増やす…もっとたくさん図書室の本を読んで欲しいと1番思っているのは小西だ。
その願いが叶うといいと思う。
すると…「ガラガラ」
「あっ…あの…チラシのこの本を読みたいのですが…」
生徒だった。
チラシを見て、本を借りに来てくれたのだ。
「あっ…はい!その本はこちらですね」
俺は即座に対応する。
そして、その本を生徒に手渡した。
それからは、驚くことにどんどんと本を借りに生徒達が来始めた。
「おいおい…こんなに沢山来るなんてな…」
小林は驚いたように言った。
その言葉を返している暇もなければ余裕もない。
本の貸し出しの受付や、本の案内など一気に忙しくなった。宣伝していた本はあっという間に借りられてしまったので、代わりになる本を勧めなければならない。
まるで、人手が足りない。
大忙しだ。
元々図書委員の人数が少ないため待たせている人が出てしまっている。
これじゃあ、せっかく来てくれたのに申し訳ない。それに、対応が悪いともう来てくれなくなってしまうかもしれない。
なんとかしたいが…
すると…誰かはわからない他の生徒が待っている生徒に対応してくれた。
誰だ?
「あの人達は…図書委員の先輩達…」
星北はそう言った。
図書委員の先輩方が、来てくれたのだ。
まあ、来るのは当たり前なのだが今まで仕事を放棄していたのに来てくれるとは思わなかった。
結果としては、今日の図書室は大盛況だった。多くの生徒が本を借りに来てくれたのだった。
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