第54話 早すぎた少女


 俺が星北の家から帰ったのは、夜7時頃だった。

 

 ハァ…俺は倒れるようにベットに倒れ込む。


 「ふぇ〜」

 

 夜ご飯はいらいと真由美さんに言っておいた。結局星北の家で、余ったお粥などを食べたのでお腹は空いていない。


 俺が適当に作った卵お粥や、コンソメ野菜スープはちゃんと美味しかった。

 我ながら流石というべきか…店を開けば大繁盛間違いなしレベルだ。


 冗談はさておき今日はさっさと風呂に入ってすぐに寝よう。

 明日は朝早くから、図書委員全員でチラシを校門前で配るらしいので、早めに寝なければならない。

 

 チラシを配ることによって、図書室の利用者が増えればいいと思う。

 部外者の俺から見ても、今の図書室の状況は悲惨である。

 まるで、廃墟のようだ。

 それに、図書室の本達も可哀想だし。

 

 学校の皆んなはまだ、本というものの素晴らしさに気づいていないのだ。

 もったいない…本は人生を変えるものだ。

 読んで損はない。


 一応、星北にもそれは伝えておいた。

 もちろん、風邪が治っていたらの話だ。無理して来なくてもいいと念を押して言っておいた。


 まあ、当の本人は今のところ調子がいいので多分行くと意気込んでいた。

 いや、行かなければいけないとか変なことを言っていたような…何の使命を感じてんだアイツは…?


 星北…俺が思うに…アイツには何かある。

 それが、何かはわからない。

 だけど、深い深い事情があるだろう…

 そんな気がする。


 俺ができることはあるだろうか?


 いや…俺なんかができることはない。

 なんだ?なぜ、わざわざそんなことを考える?

 俺には関係がない事じゃないか…他人事だ。

 清水のときもそうだった。

 無意識に…ヒーロー気取りだった。

 助けたい、救いたいだなんて思ってしまった。

 

 あの人のように、ヒーローになりたいと思ったのか?

 舞い上がるなよ…浮かれるなよ…そのうちに痛い目に合うかもしれない…


 クソ…最近俺は理想の俺になりきれていない。このままでいいのか…?あの時のようにならないのか…?


 もし、あの時のようになってしまったら俺は…

 


 ◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 次の日。曜日は木曜日。

 俺は、いつもより大分早くに学校に着いた。

 

 そして、そのまま真っ直ぐに図書室へ向かった。

 多分一番乗りだろうな〜と期待していたが先客が1人いた。

 それは、小西だった。

 図書室の長テーブルにひょこり、ひっそりと座って本読んでいた。


 「はやっ!」


 思わず俺は言った。

 俺だって、相当早くに来たつもりだった。

 少し、悔しいと思ってたり。

 

 「わにゃ!びっくり……した!」


 小西は俺の声で可愛く驚いた。

 おっとうっかり、俺としたことがいきなり唐突に声をかけてしまった。

 俺だって、唐突に声をかけられるのは嫌なのにな。


 「いや…小西…来るの早いな…」


 俺はさりげなく、小西の向かいの席に座る。


 小西は少しコミュ障のところがあるが、素直なやつだ。


 「な…なぜだか…早起きしちゃって…」


 小西は、もじもじとして本を閉じた。


 「ラノベ………?」


 ふと、小西の読んでいた本に目が行った。


 「うん…」


 小西は少し気恥ずかしそうに俺に本の表紙を見せた。


 そこには…「私を助けたのは不良王子でした」というタイトルと共にカッコいい男が描かれていた。


 ああ…そっち系ね…正直ラノベのジャンルでもそれ系は、全く知らない。


 「お…面白そうだね…」


 とりあえずそう言っておく。

 それ以外に感想が浮かばない。

 安易に「読んでみたい」と言っては駄目だ。

 もし言えば、「じゃあ貸してあげる!」からの後日に「どうだった?」の地獄コンビネーションをぶち込まれることになる。


 「こ…これ…少し不良な男の子なんだけど、めちゃくちゃ強くて、男らしくてカッコいいんだよね…」


 と、端的に簡単に俺に本の内容を説明してくれた。


 「なっ…なるほど…!」


 マジ…興味ねぇ!

 という気持ちを表に出すのを必死に堪えた。


 「あ…蒼くんは…どういうのがす…好きなの?」


 小西は勇気を振り絞ったように俺に聞いてきた。


 「好きな本…?う〜ん…」


 ここで、ガチの俺が好きな本を言ったところでなぁ…多分へぇ〜で片付けられてしまうだろう。それは、それで寂しい。

 じゃあ、どうするか…


 俺は、立ち上がりある一冊の本を本棚から手に持って再度座り直す。


 そして、俺はその本の表紙が小西に見えるようにテーブルに本を立たせた。


 「君として生きたい…?」


 「ああ…いわいる、感動系ってやつだな…ざっくりと内容を言うと、余命半年の少女と出会った主人公のお話だ。2人は同い年。少女は主人公のことを羨ましく思う。君のように学校に行ったり、遊んだり君のように生きたいと…死なないで生きたいと願う切ないお話だ」


 俺が好きなラブコメではなく、あえてここは無難な感動系を紹介する。

 読みたいと思った人は少し待ってくれ、いずれ読める日が来るかもしれないとのこと。


 「そ…それ…読んだことが…ある」


 あるんかい。

 まあ、有名まではいかないがそこそこ知名度はあるラノベだからな。


 「そうか…」


 「ここの、ラノベだったらほぼ読んだ事がある…」


 「マジか?結構多いのに、よく読んだな…」


 俺ですら、半分以上読んだことがないのに…それは驚きだ。


 「本…ラノベは好きだから…」


 切実の本好きか。


 「そんなに、本が好きなのになんで図書委員の仕事をサボってたんだよ…?」


 俺は言ってやる。

 少し意地悪な言い方だったと思う。


 「そ…それは…実は…私は…言われたから…」


 もじもじしながら、何やら言い訳を言っている。


 「言われたって…誰に?何を?」


 「ほ…星北さんに…言われた…」


 星北に?何か…引っかかる。


 「星北に…?何を言われた…?」


 「……それは………」


 「やあ、おはよう」


 図書室の出入り口からそう聞こえ、見るとすっかり元気になったと思われる星北の姿があった。


 「あっ…おはよう、星北」


 おそらく、今の会話は聞かれてはいないと思うが…


 「君たち、早すぎやしないかい?私だって結構早めに来たつもりだったのだけど」


 星北は、そう言って不満そうに俺の隣座った。


 「ほ…星北さん…」


 小西が、身を窄めて言った。

 なんだか、星北を少し恐れているように。


 「小西さん…おはよう。久々に図書委員として仕事をしてくれるみたいだね、嬉しいよ」


 「あ…はい…」


 星北は笑顔でそう言った。

 本当に嬉しいのだろうか…?俺は星北の様子からそう疑問に思った。

 何というか…目が笑っていない。


 「そ、そうだ!小西!チラシとポスターを作ってきてくれたんだよな?」


 俺は、話題を切り替える。


 「う…うん…これなんだけど…」


 「おお〜!」


 しっかりと、できていた。

 いや、作ってきてくれていた。


 「やるね…小西さんこれ、1人で作ったんでしょ?」


 星北は感心したように言った。


 「う…うん…パソコンで…で、でもお父さんにも手伝ってもらったから、私1人の力ではないよ…」


 だとしてもだ。

 一日で、これだけ作れるのは才能だろう。


 「小西さん…これを作ってくれてありがとうね…1人で大変だったでしょう…それと、蒼くん…なんで、小西さん1人にこれを押し付けたのかな?」


 星北は、俺を睨む。

 鋭い目つきが俺を刺した。


 「い…いや、小西が作ってくれるって言うから…」


 そう、俺はお言葉に甘えただけだ。


 「ふ〜ん…仮にそうだとしても、少しぐらい手伝うとかするのが普通じゃないかな…?」


 「そ…それは…」


 「君は…最低男…ってことかな…?」


 「……は……い……」


 「まっ…まあ…私は別に1人でも大丈夫だったし…」


 割り切るように、小西が助けくれた。

 感謝…


 「あっ…そろそろ、ポスターを貼ってチラシを配らないと…!」


 今はとりあえず、場面を変えなければ。


 「それもそうだね…」


 「あっ…じゃあ…私はポスターを貼りたいです…」


 小西がそう言う。

 小西の性格からして、チラシ配りはしたくないのだろう。


 「じゃあ、俺と星北でチラシを配る…で、いいよな?」

 

 「私は構わないよ」


 てことで、俺と星北は校門でチラシを配るのとにしたのだった。

 

 小林は…サボりやがったな…

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