第52話 自己満クッキング

 「フゥ………」


 ようやく、星北のリングから解放された俺は疲れ果てて、座り込んでいた。


 全く…疲労感が半端ない。

 まあ、あんなに長い時間抱きつかれていたのから当然だけど。


 こんなことに、なるなら外なんか行かなければよかった。

 調子に乗って、スーパーなんかに行かなければよかった。


 だけど、過去をどれだけ悔やんでも、後悔しても仕方ない。この結果は変わらないのだ。

 それが、この世界の原理なのだ。

 大事なのは、この経験を生かしもう同じ過ち、失敗を繰り返さないようにすることだ。


 俺は、とりあえず寝ている星北の様子を伺った。

 星北は、力尽きたように糸の切れた人形のようにベットに大の字に横たわっていた。

 風邪をひいて調子が悪いくせにあんなにはしゃぐからだよ…

 病人のする行動ではない。


 星北のおでこに手を当てて、体温を確認する。高熱ではないが、微熱ぐらいはありそうだ。一応、まだまだ様子を見たければならない。


 俺はひとまず、雑にベットから落ちていた掛け布団を星北に掛け、どっかに遊びに行っていたタオルを再度水で絞り直した。

 病人は病人らしく、大人しく寝とけっつーの


 星北は、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。

 はぁ…結局寝るなら最初から大人しく寝とけよな…俺はそう思い頭に手を当てた。


 「つったく…寝顔は可愛いのに…」


 寝ている星北は眼鏡をかけていない。

 眼鏡なしの星北の顔は新鮮で可愛かった。


 俺は、星北の様子を確認した後台所に向かった。


 さてと…スーパーで買ってきたもので料理を作ろう。もちろん、星北のために。

 風邪を治すには、栄養のあるものを食べるのが大事だろう。

 俺は、そのためにわざわざ星北の家を抜け出してまでスーパーに食材を買いに行ったのだ。


 それに、気づけば俺のお札たちはいつの間にか財布から消えていたし。

 まあ、マイナスのことばかり考えても仕方ない。プラス思考でしこう。

 人の為に、人を助けるためにお金を使ったのだ。くだらないことにお金を使うよりはよっぽどマシだと考えよう。


 本音は、新作ラノベを買うためのお金だったのに…って悲しんでたり。

 まあ、仕方ない…人は助け合いだからな。


 俺は、冷蔵庫を今更ながら開けて中を見る。

 勝手に開けるのはどうかと思うけど、大目に見てくれ。


 驚くほど、何も無かった。

 冷蔵庫の中身はあの図書室のようにガランとしていた。

 あるのは、数本の飲み物ぐらい。

 食品や食材は全く無かったのだ。

 明らかに異質、異常だった。

 

 いつも何食べてんだよ…

 この、冷蔵庫の中身を見る限り普段自炊とか料理をしなさそう。

 多分、おそらくだが、普段はコンビニやスーパーのお弁当や、カップラーメンばかり食べているのだろう。


 証拠にゴミ箱には、プラスチックのお弁当の捨て箱や、カップ麺のからばかりあった。


 しょうがない…今日は俺が最高に美味い栄養満点の飯を作ってやる。

 感謝しろ。

 病人には優しい蒼くんである。


 まずは、卵雑炊。

 風邪の時の食べ物といったらやっぱり雑炊だろう。


 俺は台所に立って、料理を開始する。

 勝手に人様の台所を使わせてもらうのだ。

 

 なぜか、ある程度食器や料理道具は揃っていたので助かった。

 もし、無かったら完全に詰んでいた。


 簡単に卵雑炊の作り方を教えよう。

1.

 ボウルに卵を割り入れ、溶きほぐす。

2.

 鍋に水、白だし大さじ1/2、薄口しょうゆ小さじ1、みりん小さじ1、を入れて中火で加熱し、沸騰したらごはんを入れて加熱する。

3.

 沸騰したら弱火にして5分程加熱し、ごはんが柔らかくなったら中火にして1を回し入れる。

4.

 全体を混ぜて中火で加熱し、卵が固まったら火を止める。

5.

 器に盛り付け、小ねぎを散らす。

6.

 自分を褒め称える。

 

 卵雑炊の完成だ。


 次に、コンソメ野菜スープを作る。


 これも、簡単に作り方を教えよう。


1.

 キャベツは葉をひと口大にちぎり、芯は薄切りにする。じゃがいもはひと口大に切る。にんじんは乱切り、玉ねぎは薄切りにする。ソーセージは長さを4等分に切る。

2.

鍋に水4カップ、コンソメの固形タイプ2個(1.)のじゃがいも・にんじん・玉ねぎを入れて火にかけ、フタをして7~8分ほど煮る。

3.

(1.)のキャベツ・ソーセージを加え、7~8分煮る。塩・こしょうで味を調える。

4.

自分の料理の完成度に酔いしれる。

5.

ドヤの舞を踊る。


 ってことで、無事にコンソメ野菜スープも完成した。


 俺は自分の力に改めて驚いた。

 普段料理などは全くといってしないのだけど、やろうと思えばできるのだ。

 俺はやればできる子ちゃんだったのだ。


 あとは、別皿に適当に果物を盛り付けたおこう。食後のデザートってな。

 すると…


 「あっ…蒼くん!蒼くん!」


 そう、リビングから星北の声が聞こえてきた。

 焦るような声で、必死に俺の名前を呼んでいた。どうやら、お目覚めとなられたようだ。


 「はいはい…蒼くんはここですよ」


 俺は、リビングへ向かって言う。


 「あっ………よかった…いてくれたんだ…」


 星北は、俺の姿を見て安堵したように肩の力を抜いた。

 

 星北…お前には何か相当の事情がありそうだな…俺はそう確信した。


 それが、何なのかはまだわからない。

 俺には…わからない…

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