第50話 離さない
そ〜っと、俺は星北の家のドアを開く。
まるで、空き巣泥棒のように。慎重に音を立てずに…
そもそも、この家は空き巣ではないのだが。
ギィーとドアは音を出した。黙れぃ!星北が起きたらどうするんだよ!責任取れんのか?!
同時に、手に持っていたスーパーのレジ袋もガサゴソと音を立てる。
お前ら…後で覚えておけよ…
俺は差し足、忍足でリビングへ向かう。
気分は泥棒…いや、怪盗だ。盗みたい物はないけれど。
「ホッ……」
星北は寝ていた。
どうやら、俺が家を出たのはバレてはなさそうだ。
よかった…どこにも行かないでと言われていたからな。
もし、俺が家が出たのをバレていたら大変なことになっていたかもしれない。
普通に約束を破っているし。
星北は壁側に顔を向けているので顔は見えない。
一応、呼吸などの様子を見たいのだが…
俺は壁に手をついて真上から覗き込もうとした。こうすれば、無理矢理にでも星北の顔が見えるはず。
その時だった。
バッと、俺に星北がしがみついた。
「うわっ!」
俺は星北にしがみつかれたために、壁から手が離れバランスが崩れた。
そして、そのままベッドに星北と共に倒れ込んだ。
俺は唐突のことに軽くパニックになった。
星北は起きていたのだ。
寝たふりをしていたのだ。
だから…顔を見られないように壁側に向いてたのか…図ったな…
「星北?!」
俺は、すぐに星北から離れようとした。
だが、謎のとてつもない強い力でしがみつかれている。
離れられない…ビクともしない。
「どこに…行ってたの…」
星北が、か細い声で聞く。
声がか細いのは風邪のせいではないと思う。
どちらかというと、泣き声に似ていた。
「あ…えと…その…」
俺はパニックで言葉が出てこなかった。
あたふたしているだけだった。
「どこにも行かないで…って言ったのに…」
星北は悲しそうな声で続けた。
俺にしがみつく力が強くなる。
「……その…ごめん……」
とりあえず謝った。謝ることしかできない。
多分、今どんな訳を話そうとも、どんな言い訳をしようと星北は聞き入ってくれなそうだっだ。
「…………嘘つき……………」
「ごめん……」
たしかに、元は俺が悪い。
星北との約束を破ったのだ。
それから、1分ほど沈黙が流れた。
その間は星北の暖かい温もりが俺の体に伝わってきた。
この感じは少し…熱がありそう。
「…………星北?……」
とりあえず沈黙を打破する。
「…………何かな…嘘つきくん……」
相変わらず、強い力でしがみつく星北は言った。
間抜けくんからの嘘つきくんかぁ…どっちも嫌だ。
「その……とりあえず離して欲しいんですけど………」
このままでは心臓が持たない。
今でさえ結構限界に近いのだ。
多分…このままいけば何かが爆発する。
「…………嫌だ…………離れにゃい…」
さらに、しがみつく力が強くなった。
離さないというように。
「うぐぐぐ…」
もはや、力が強すぎて苦しかった。
今は2つの意味で呼吸が苦しい。
「ほ…星北…ちょっと、く……苦しい…」
俺は素直に言った。
「……嘘つきくんにはこれぐらいがちょうどいいさ………」
この力は一体どこから湧き出ている?
とても、女の子の力だとは思えない。
クソ…無理に引き剥がすのも嫌だしな。
「あっ…あの…風邪が感染るだろ!」
このままでは星北の風邪が感染ってしまう。
星北はマスクをつけてないし!
それに、この距離は密ですを超えている。
ディスタンス!避けよう三密!
これは密接だぁ!
「……知らないね……君も感染ればいい…」
星北はなんか、ヤバいことを言ってる…
駄目だ…まるで話を聞き入れない。
あの時と同じようだ。
星北が俺の家に来た時…あの時も星北の様子が変だった。
今の星北はそれと同じようだ。
「………なぁ……星北………」
「なんだい…嘘つきくん………」
「本当に悪かったよ……」
俺ができることはひたすらに謝ることしかない。
「………何が?………」
「家を勝手に出て行ってしまってごめんなさい……」
「………本当に……悪い子だね君は……」
俺は悪い子でもなんでもいい…悪魔の子だっていい…
「……どうすれば……離してくれる?」
「………離さないよ?…このまま締め殺す」
「そ…それはご勘弁願う!」
いきなり、恐ろしいことを言う。
えっ…俺今、大蛇かなんかに体を絞められているのか?この状況はそのぐらい危機なのか?
「………冗談だよ?………」
冗談だよのあとがクエスチョンマークなのが気になるな…
「……心配しなくても離してあげるよ…」
良かった…離してはくれるみたいだ。
「だけど…もう少しだけ…いい…かな?」
「ああ…わかった…」
星北…一体どうしたのだろうか…?
何がしたい?
俺に何を望む?何をして欲しい?
なぜ、そんなに悲しい声なんだ?
なぜ、泣きそうな声をしているんだ?
わからない。
星北のこういった行動が…
子供の様な甘えてくるような行動が…
何かしらの原因はあるだろう。
それが、何かはまだわからない。
わからない…けど…
もし、星北が何か助けを求めているなら…
清水と同様に困っていたら…
助けたいと思う…
俺なんかが、そう思うのは傲慢だけど。
俺ごときに何ができるんだって話しだけど…多分…俺は憧れているだけなのだ。あの人ようになりたいと思っているだけなのかもしれない。あの日の、あの時のヒーローのように…
だけど…そのヒーローはいなくなった…
俺は、星北にしがみつかれている間はクデスにしがみつかれていると思い込ませた。
そう考えないと、爆発する…
まあ、それはそれであまり気分が良くないが…仕方ない…
「好きでごさるよ?」
うぇ…想像したら吐きそうになってきた…
だがまあ、気が紛れたので結果オーライ。
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