第37話 敗北は屈辱の味

 この世で1番強い力とは何か—————?

 と問われれば、聞かれれば俺はこう答える…


 それは、暴力だと————————


 この世の真理や常識なんて俺からしたら知ったこっちゃない。考えることすら無駄だ。邪魔なのだ。


 暴力は1番手軽に俺を優位にしてくれる力だった。

 俺にとって暴力とは便利で都合のいい力だった。

 

 俺は昔から今までただひたすらに暴力を振るってきた。

 ムカつく奴ら、気に食わない奴らをとことん暴力で黙らせた。


 人は簡単に暴力に屈する。

 

 簡単だったのだ。単純だったのだ。

 ただ、ぶん殴ってしまえばそいつらは黙る。俺に従う。俺に服従したのだ。俺に恐れた。

 暴力は全てを解決するのだ。


 それに、何より暴力は楽しい。

 俺にとって暴力はもはや快楽と化していた。

 あの、人をぶん殴る快感、満足度、爽快感。

 あの、殴られて苦しむ顔を見ると思わずえみが溢れ出る。

 なんともたまらない気持ちになる。

 やめられないのだ。


 全く、笑いが止まらなかった。

 これほど、愉快なことはなかった。

 俺は、一度人をぶん殴ると歯止めが効かなくなる。

 周りのやつに、部外者からの静止がなければ抑制されなければ、飽きるまで人を殴ってしまうほどだ。


 俺は常に1番だった。

 王様キングだった。

 俺は常に強者であり、勝者だった。

 喧嘩では無敵、負けたことすら怪我したことすらほぼ無かった……

 いつも、圧勝。俺に敵などいない…そう思っていた。

 


 だけど……俺は負けた…………



 俺は目を覚まして絶望した。

 そして同時に認めたくなかった。 

 事実を現実を受け入れられなかった。


 俺は負けたのか……?!?


 おかめの仮面をつけた謎の人物に喧嘩で負けたのだ。

 叩きのめされたのだ。ボコボコにされた。

 触れることすらできなかった。

 一撃も与えることはできなかった。

 手も足もでなかった…

 

 完敗だった…!

 惨敗だった…!

 圧倒的に負けたのだ…


 喧嘩で負けたのは生まれて初めてだった。

 今まで負けたことなど当然あり得なかった。


 「クソ!クソ!クソ!!クソクソクソクソクソクソクソクソォォォ!!!」


 俺は何度も地面を殴った。

 手が血だらけになろうとも構わずに何度も何度も狂ったように地面を拳で叩いた。

 痛みなどもはや通り越していた。

 感覚などとうに消えた。

 手の痛みなど、心の痛みに比べると全く痛くなんかなかった。


 これほど屈辱的なことはなかった。


 負けてない…負けてない…負けてない…俺は

 俺が負けるわけがない…そうだ…負けるはずがない…調子が悪かっただけ…体調が優れなかった…相手がズルをしたんだ…卑怯な手を使ったんだ…卑劣な手を使ったんだ…汚い手を使ったのだ…正々堂々の勝負では無かった…フェアな喧嘩ではなかった…俺は…負けてない…負けて…………負けて…


 負けて…


 「ヴヴゥ…ウグゥ!」


 ————俺は負けたんだ———————


 俺は倒れこみ、涙を流し叫んだ。

 こんなに、泣いたのは生まれて初めてだった。

 ただひたすらに悔しかった…

 弱い自分に腹が立った…ムカついた…許せなかった。

 ようやく、俺は負けたことを認識した。

 理解した。

 理解などしたくはなかったが。

 認めた。

 現実は残酷だった。


 俺は…強者ではなかったのだ……

 最強では無かった…


 アイツは…あのおかめの仮面の人物は一体何者だ?

 あの動き…あの強さ…あの圧倒的実力…ただ物ではなかった。

 フィジカルや体格では俺が圧倒的に勝っていたはずだった。

 差があった。だが、そんな差など意味がないぐらいに強かった。


 化物…そう見えた。


 隙のない、完璧な動きだった。

 今まで食らったことない、拳の痛みだった。


 特にあの一撃。

 俺は全く見えなかった…気がついたら倒れていたような感覚だった。


 おかめ仮面は言っていた。


 「清水奏に手を出すな…」と。


 おかめ仮面は清水を助けに来たのだろう。

 清水の何かである事は間違いないが…

 それ以外で全く、正体が掴めない。わからない。謎だ。正体不明だ。

 ただわかっているのは、俺と同じ学校に通っている生徒…ということ。

 

 そんな、やつがいるなんて聞いた事がない。

 有名なやつではない。

 そいつは猫を被っている。

 化物があの学校にはいたのだ。

 


 俺が清水奏と付き合ったのはただの気まぐれみたいなものだった。

 結局、俺は清水奏のことなど、どうでも良かった。

 好きとかそういう感情は全く無かった。


 清水奏と付き合ったのも、あるメールのせいだった。


 「今の君には花がない」


 突然そう俺にXエックスと名乗る人物から匿名のメールが来たのだ。


 俺はムカついた。

 どこの誰だかは、わからないがこの俺をそんな風に言いやがった。

 王様に、花がないと罵った。

 気に食わない。

 俺に花がないだと?ふざけるな。


 「清水奏と付き合うといい、そうすれば君には花が咲く。君はより輝ける」


 それから、Xはそうメールで言ったのだ。

 馬鹿らしいとも思ったが、俺はそのメール通りにすることにした。

 Xがどこの誰だかは知ったことも、興味もない。

 

 遊び感覚だった。

 元々、女には興味は無かったが暇つぶしには丁度いいと思ったのだ。

 

 清水奏は最初は反抗したが、暴力で黙らせた。

 本当に女とは弱い。弱すぎる。

 軽く脅すだけで簡単に俺に服従する。


 だが、最終的に清水は俺に反抗した。

 女のくせに、俺に盾をついたのだ。

 

 真っ直ぐな瞳で、引き下がらなかった。

 俺に立ち向かってきたのだ。


 今考えれば、清水奏は他の女とは一味違ってはいた。


 全て…ムカつく…あのXと名乗るやつも、おかめ仮面の野郎も。


 絶対に、俺はおかめ仮面の野郎にリベンジする。

 俺が最強だと証明するために…


 必ず見つけ出してやる。

 せいぜい隠れてろ。



 ◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 覚えてる?僕のこと?

 

 アハッ、知らないフリするなんて酷いな〜

 まあ、気長に待つよ。

 僕は君を信じることにするよ。


 とりあえず今は暇つぶしでもしようかな。


 君が僕に気づいてくれるまで…

 気づいて…くれるよね?

 

……………………………………………ね?

 

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