第38話 変化する心情

 月曜日…魔の曜日。

 偏見だが、月曜日が好きな人はこの世にいないと思う。好きな方には申し訳ないが…

 月曜日は、地獄の始まりの曜日、合図、幕開けだ。月曜日から地獄の一週間が始まる。

 

 俺は当然月曜日が嫌いだ。

 大嫌いだ。

 ごめんよ、月曜日…君は悪くないさ。

 ただ、月曜日から始まるように設定したやつが悪いんだ。

 俺はそいつを憎むよ…


 望むなら、毎日休み、祝日、日曜日がいいのだが…そんなわけにもいかない。


 で…今日は月曜日。

 楽しい、たの死い、地獄の学校だ。


 俺は今、いつも通り早い時間に学校に着いた。

 誰もいない教室でラノベを読むためだ。


 だが、なぜだか…嫌な予感がする。


 「おっはよ〜!陰田くん!」


 元気よく、教室に入ってきたのは清水奏だった。


 やっぱりか…

 なんとなくそんな気はしていた。

 

 「やっぱり早いね!私も1番を狙って来たのに…」


 清水はそう隣に座って不満そうに言った。


 「フッ…1番は譲れんさ…」


 「さすがだね陰田くんは!」


 俺はあれから清水と仲良く?なったといえるだろう。

 以前はぎこちなく、遠慮していたが、今になっては、ほぼ素の俺でいられる。

 まあ、あれだけ親しくしていたら当然だろう。


 あくまで、友達だ。

 好きとか好意は一切ない。

 他人以上、友達程度だ。


 清水は、先週と違って顔色が良くなったと見える。先週は、九頭竜坂のせいで顔色が大分悪かった。

 とりあえずは、元気なってよかったと思う。


 「ん?なんだか、陰田くん…浮かない顔してるね…」


 清水は俺の顔を見て言った。

 どうやら、俺が月曜日だからといって憂鬱な気分になっていたのを察したようだ。


 「まあ、月曜日だからな…」


 そう。

 何回も言わせてもらうが今日は月曜日なのだ。


 「たしかに、月曜日って気分がのらないよね、わかるわかる!」


 清水の様子を見る限りそんな気は感じられなかったが?


 「だけど、一週間始まっちゃったから仕方がないよ!一緒に頑張ろ!」


 「………おう……」


 清水はポジティブウーマンだ。


 「その通りだ!!」


 そう言ったのは、いつの間にか教室に入って来ていた鬼介だった。


 「あっ、おはよう!鬼介くん!」


 「おはよ…」


 「蒼、あの、お面はどうだった?役に立っただろう?」


 鬼介は俺に自信満々に聞く。

 あのお面とは先週、鬼介から無理矢理渡された、おかめの仮面のことだ。

 あのクソダサいやつ。

 センスがないやつ。


 「ああ、一応は」

 

 驚くことに、そのおかめの仮面は役に立った。役に立ってしまったのだ…奇跡的に。


 「だろ!?やはり、蒼に渡しておいてよかったぜ!」


 鬼介は嬉しそうに言った。

 自分が渡したものが、役に立って嬉しかったのだろう。鬼介は満足げにしていた。


 「あの、おかめの仮面って鬼介くんから渡されたんだね」


 「なっ、なぜ清水さんが、おかめの仮面のことを知っている?!」


 「まあ、いろいろあってな…」


 「うん…いろいろあって…」


 俺と清水は横目でお互いに見合った。


 「なんだ?2人とも…てか、なんだかお前ら仲良くなってないか?」


 「…え?前から陰田くんとは仲良しだったよね?」


 「お、おう…」


 「匂うな…さては…お前らなんかあったな?」


 「な、なんのことだ?」


 「俺に隠し事は無用だぜ?!全て白状しろ!話せ!」


 「嫌だ!断固拒否する!」


 「んだと〜?!」


 俺と鬼介は、お互いに顔を近づけた。


 「まあ、陰田くんも鬼介くんも落ち着いて…」


 『はい』


 俺たちはあっさりと清水の一言で大人しくなった。


 「私から、簡単に説明するね…」


 「…………」


 「陰田くんが言いたいこともわかるけど、大事な友達に隠し事は良くないと思うな」


 たしかに、それもそうか。  

 まあ、鬼介になら話してもいいか。


 「では…」


 それから、清水は簡単にざっくりと、大まかに先週に起きた出来事を説明した。


 「なっ!そんなことがあったのか!」


 鬼介は驚いたようだった。

 

 「なるほど…辛かったな、清水さん」


 「うん…でも、陰田くんが私を救ってくれたから…」


 清水は頬を赤らめて俺を見た。


 「それは…俺のただの気まぐれだけどな…」


 俺は必死に誤魔化した。

 少しだけ…本当に少しだけ清水のことを心配していたとは口が裂けても言えない。


 「蒼!やるなぁ!さすがは我がNo.2の男だ!」


 「No.2?」


 ちょっと何を言っているかはわからなかった。 

 

 ピロン♪

 通知音がした。


 「あっ…メールだ」


 清水は自身のスマホを確認した。

 清水のスマホの通知音だったらしい。


 「えっ…」


 スマホ画面を見た清水の顔は一気に暗くなった。

 恐怖に満ち溢れた様な表情をしていた。

 まさか…


 「どうした?」


 「九頭竜坂くんから…」


 清水はそう言って、震えながらスマホ画面を俺たちに見せた。


 そこには、「昼休みに、体育倉庫裏に来い」と書かれていた。


 またか…

 

 九頭竜坂、清水の元カレで最低のクズ野郎だ。

 先週にボコボコにしたのに、まだ懲りずに清水に付き纏ってくるのか…粘着質で厄介な男だ。


 「どうしよう…」


 清水は、手を震わせて恐怖に満ち溢れていた。


 「大丈夫だ、清水…」


 九頭竜坂が何をするつもりかは知ったことではないが、もし清水に危害を加えるなら見過ごせない。


 「俺がお前を守ってやる」



 

 昼休み。

 メールの通り、体育倉庫の裏には九頭竜坂が待ち構えていた。

 九頭竜坂は、なぜか顔が傷だらけだった。

 調子にのっているから、誰かさんにボコられたのだろう。

 

 俺と鬼介は何かあれば、すぐ対応できるようにすぐ側で見守ることにした。


 「お待たせ…九頭竜坂くん…」


 「おう、来たか…」


 「何の用なの…?」


 「フッ…そう怯えんなよ、俺はもうお前に危害を加えるつもりはねぇ。俺はお前に一つ聞きたいことがあってな」


 「聞きたいこと?」


 「ああ、俺を倒したあの、おかめ仮面の人物についてだ」


 なるほど…それを聞きたくて九頭竜坂は清水を呼んだのか。

 あの約束通り清水には危害を加えないつもりらしい。

 

 おかめの仮面の人物とは、もちろん俺だ。

 できれば、九頭竜坂にはバレたくない。

 バレれば、面倒なことになりそうだし…

 うまく誤魔化してくれよ…清水…


 「あの、仮面の人のことは私は知らないよ」


 清水は惚ける。


 「……嘘だな」


 「ん……んと…」


 あ〜清水は素直すぎるから嘘をつくのが下手だ。

 清水なりに精一杯誤魔化したつもりなのだろうが。

 一瞬で九頭竜坂に身破れてしまっている…

 

 「まあ、いいさ…あのおかめ仮面の野郎の正体は俺がいずれ暴く。俺は、お前からそいつに伝えて欲しいんだ」


 「伝える?」


 「ああ…その仮面野郎に言っとけ…」


 

 「絶対に逃がさねぇってな!」

 

 どうやら、面倒なことになりそうだな…


 「俺の用件はそれだけだ…じゃあな」


 「待って!」


 九頭竜坂が立ち去ろうとしたところを、手を引いて清水が呼び止めた。


 「アァ?」


 「酷い傷…ちょっと待って、私絆創膏あるから!」


 そう言って清水はポケットから絆創膏を取り出した。

 九頭竜坂の顔の傷を心配したのだろう。


 あんな酷いことをされた相手なのに、優しくするとはな。

 つくつぐ、清水は善人すぎる。


 「余計なお世話だ!」


 九頭竜坂は強引に清水の掴む手を振り払った。


 「でも…」


 「うるせぇ!俺に構うな!」


 九頭竜坂はそう言って不機嫌そうに立ち去った。


 「おい、大丈夫なのか?あんなヤツに目をつけられて…」


 鬼介が、心配そうに俺を見る。


 「ハッ…捕まえられるもんなら捕まえてみろよ」


 地獄のかくれんぼのスタートだ。

 

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