第39話 ラブレター?

 「すみませんでしたぁ!」


 俺は現在、土下座をかましている。

 NOW DOGEZAだ。

 まさか、今日土下座をすることになるとは思いもしなかった。

 まあ、これは100%俺が悪いので仕方ないし自業自得だ。


 では、俺がなぜ土下座をしているかを語らせてもらおう。

 馬鹿話となるが、土産話ぐらいにしてくれ。


 今朝である。


 俺はいつも通り嫌々と100キロの足枷が付けられたぐらい重い足で学校へ登校し、校内の玄関で上靴を出そうと下駄箱を開けた時だった。

 下駄箱には、靴とあるものが一緒に入っていた。


 それは、手紙だった。

 まさか…これは…ラブレター!!?


 「オッホ!」

 

 俺は戸惑いを隠せなかった。

 おかげで、変な声が出たが幸い周りには誰もいなかった。(早朝だから)

 こんな恥ずかしいところを誰かにでも見られていたら恥ずかしさで爆発してしまう。

 爆発というか自爆。

 そうなれは、学校をバックレる…


 そして俺は、猛スピードで男子トイレへと駆け込んだ。

 個室に入り便座へ座る。

 もちろん、用を足すためではない…手紙を開封するためだ。(お食事中の方は申し訳ない)

 ここなら、誰にも見られずにすむ。

 喜びの舞を踊ることが可能だ。


 俺は高鳴る鼓動を抑えながら、ゆっくりと手紙(多分ラブレター)を開いた。

 

 そこには…「本、本日〆切なり、図書室、返すなり」と、綺麗な文字で書かれていた。


 「はっ?」


 俺は、予想外すぎる内容に呆気に取られた。

 てっきり、ラブレターだと期待していたのに!そんな俺の期待は、見事に粉砕された。


 一体誰からの手紙だ?!イタズラか?

 よく見てみると、右下に小さく星北栞と名前が綺麗な文字で記されてあった。

 

 星北栞はたしか…図書室にいたあのネタバレ女だ。

 おさげ三つ編みの眼鏡をかけた美少女。

 図書委員で、別のクラス。

 

 一体なぜ、星北からの手紙が…?

 内容をあまり読んでいなかったが…んと、本、本日〆切なり、図書室、返すなり……ふむふむ…なるほど…な、る、ほ、どぉ?

 

 「あっ!!」


 俺はちょうど一週間前に図書室の本を借りたことを思い出した。

 そして、思い出したと同時に絶望感に苛まれた。


 「あっ〜終わった…」


 俺は頭を抱えた。


 もちろん、俺は今日〆切日ということを完全に忘れていた。それどころから借りた本の存在すらも忘れていたのだ。

 借りた本の現在地は当然俺の家だ。


 本を今日、〆切日に返却することができないのだ。


 そして、俺はその後すぐに図書室に向かった。


 図書室は、相変わらずがらんと静寂が空間を支配していた。

 人がいないのは早朝だからというわけではない。ここの図書室はいつもこんな感じだ。

 どうやら、この学校の生徒は本があまり好きではないらしい。本って結構面白いのにね…


 俺としては合法的にラノベが読み放題なので天国に見える。


 俺は無駄に広い、図書室を探し回った。

 探していたのは本ではなく、星北をだ。


 探すこと、10分…星北の姿は見つからない。

 一応、全ての場所を一通り回ったはずなのだが、星北の姿どころか影すらない。

 いないのか…?朝、手紙を置いたから学校内にはいるはず。

 

 仕方ない…昼休みに出直すか?


 「ったく…どこだよ星北!」


 「何かな?蒼くん?」


 「うゎっ!」


 急に声をかけられて驚いてしまった。

 誰だって驚くよこんなもん。

 

 声の方を振り返ると、星北は片手に本を持って本棚の上に足を組んで優雅に可憐に座っていた。


 前回も同じ様に急に現れた。まるで、ホラーゲームのお化けのように。

 おかげで前回も今回も心臓が飛び出そうになった。


 「いたのかよ…てか、いつからそこに?」


 「私はいつもいるし、いつもいないかもしれない…」


 星北は、上から俺を見下ろして言った。

 まさに、高みの見物だ。


 「で…?君は私のことを必死に探していたよだけど…まさか、私がおすすめした本のヒロインに私がたまたま似ていてから、それに影響された…とかかな?まあ、たしかにあの本のヒロインは私に似て、三つ編みおさげの眼鏡っ子だからね…そう思うのも無理はないよ…でも、深追いは駄目だよ…あまりしつこく接すると物語のラストのようにストーカー扱いされて終わるからね…」


 なにやら、長々と言っているがほとんど意味がわからなかった。そもそも、借りた本を読んだはいなし…そして、ちゃっかりスラリと自然にネタバレもしやがった。


 「星北!」


 「ん?なにかな?」


 「すみませんでしたぁ!」


 で、冒頭に戻る。

 俺は、全身全霊で土下座した。

 額を硬い、地面につけた。

 俺なりの謝罪の気持ちだ。


 「ふむ…その君の様子から簡単に、簡潔に考察させてもらうね、君はちょうど一週間前に借りた本を、家に置いてきて〆切日の今日に本を返すことができない…だから、土下座をしていると…」


 「はい…その通りでございます…」


 星北は俺の土下座で全てを察したようだ。


 「困るんだよ…ちゃんと〆切日を守ってもらわないと…怒られるのは、私なんだよ…」


 星北は片手の本をパタンと閉じて、本棚の上から華麗に舞い降りた。


 「本当にすみませんでしたぁ!」


 俺はそう叫ぶしかなかった。

 忘れたものは仕方ない、俺にできることはただ謝ることだけだ。


 「君の謝罪なんてされた所で仕方がない…君がいくら私に謝ったところで、いくら地面に額を擦り付けたとこで、馬鹿みたいになツラで鼻水を垂らしたところで、魔法のように家から本が瞬間移動するわけでもない…つまり君のその安っぽい土下座なんて見るに堪えないものさ…」


 星北は辛辣な言葉を俺に浴びせた。

 なんか…いきなりオーバーキルされた感じなんだが?


 「まあとりあえず、四つん這いになってくれるかな?」


 星北は、ふぅっと溜め息を吐く。


 「へっ?」


 「へっ?じゃないよ…言われて通りにして?」


 「あっ…はい」


 俺は星北に言われる通り大人しく従って四つん這いになった。

 四つん這いですが…それで?


 「ふむ、よろしい…よっと!」


 「うわっ!」


 星北は、四つん這いの俺の背中の上に座った。


 「ッツ!重っ…」


 「ん?」


 「くありません…」


 星北の体重が背中にのしかかる。

 しかし、この体制は大分キツイな…

 あと、何分この体制をキープすることができるか…

 

 「はぁ…座り心地は最悪だね…まあいいか」


 俺は星北の椅子になってしまった…

 人間から椅子へと地位が降格した。


 「仕方ない…今日私が放課後に君の家まで本を取りに行ってあげよう」


 星北は、ため息混じりに言った。


 「えっ!俺の家に!」


 「そうだよ…」


 「それは…その…無理というか…」


 さすがに、それは嫌だ…とういうか無理。

 女の子を俺の家に招くことなんて…できない。


 「なに?文句でもあるのかな?本を忘れてた分際で椅子のくせして反抗するというのかい?」


 「いや…文句は…ありません…」


 今の俺には拒否する権利などはあるはずがなかった。


 「だけど…今日のか…明日じゃダメなのか?」


 「明日だとだめだよ…いいかい、この図書室の本の貸し借りは全てパソコンで行っているのさ、ということは、記録が残るというわけだよ…明日に返せば、その記録が残って結局バレしまう…だから、今日中じゃないとだめだ」


 苦渋の選択というわけだ。

 全く…図書室もハイテクになったなぁ!

 昔は貸し出しカードとかだろ?!

 

 「私だってこんな面倒なことはしたくないさ…だけど、誰かさんが忘れたって言うからさ…仕方なく、しょうがなく、嫌々に、渋々、寛大な心で取りに行ってやるのさ…感謝を讃えなさい」


 「はい…感謝します…」


 「じゃあ今から、君に2つの選択肢を選ばせてあげましょう」


 星北は指を二本立てた。


 「選択肢!?」


 「私に対しての借りを…恩を返してもらうのさ…当然だろう?」


 「くっ…」

 

 俺は本を借りただけなのに、本どころか恩も返さなくてはならないのか…!

 まるで、どこぞの映画のタイトル見たいだ!

 「本を借りただけなのに…」


 「一つ目は、君をマリアナ海溝に沈める…」

 

 「沈める!?」


 急に怖いよ!

 それだけは、絶対に嫌だ

 てか、なんでマリアナ海溝なんだよ!

 なんでわざわざ、深さ10920メートルのところに沈めるんだよ!

 たちまち、深海魚の餌になるよ!


 「もう一つは、今週の図書委員の仕事を手伝う…」


 「絶対に図書委員の仕事だ!」


 沈められるよりマシだ。

 てか、選択肢が釣り合わなすぎるだろ!

 天秤だとしたら、90度傾くよ!


 「決まりだね…」

 

 俺は本を忘れたおかげで今週の星北の図書委員の仕事を手伝うはめになってしまった。


 「じゃあ、今日から一週間よろしくねフフ…」


 俺は、星北の奴隷と成り下がったのだった。

 いや、椅子からは昇格したのか…?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る