第48話 看病
「やあ…よく来たね…どうぞ上がっていってくれたまえ…」
星北はそう言って玄関で俺を出迎えてくれた。
「おう…」
正直、病人の風邪をひいている人の家には上がりたくはないのだが、星北の方が俺を家に入れる気満々なので仕方なく上がることにした。
星北の家は、マンションだった。
俺は星北の家に入った時、部屋の広さに違和感を感じた。
いや、全てだ。広さだけではない。
明らかに一人暮らしの間取りだった。
「まあまあ、座りたまえ…」
一応ちゃんとマスクを着けている星北はそう言って座れそうなクッションを俺に渡した。
俺はそれに座る。
そして、星北も同じくクッションの上に座った。
「あっ、これ…一応買ってたんだ」
「おお?何かな?」
俺は星北の家に行く前に、スーパーでポカリやゼリーなどを買ってきておいたのだ。
俺は優しいからね。
「フフ…君は見かけによらず優しいね」
星北は俺からそれらが入ったスーパーの袋の中を見て微笑んだ。
様子を見た感じ、体調は大分良くなったようだ。
「ポカリか…あとは、ゼリー…ありがとうね…君は意外と気がきくやつなんだね」
「意外とは余計だ」
一つのセリフに余計な一言が多い。
「体調は?大丈夫なのか?」
俺は一応聞いておく。
「今日丸一日安静にしていていたおかげで大分風邪は治ったよ」
星北はそう言った。
「熱は?」
たしか、電話したときは38.7℃だったはず。
「さっき測ったら36.7℃だったよ」
それなら、平熱だろう。
とりあえずは星北の体調が良くなって良かったと思う。
「ごめんね…今日図書委員の仕事を君1人に任せてしまって」
星北は申し訳なさそうにしていた。
「別に構わないよ」
実際、仕事という仕事はないので。
「何か問題はなかったかい?」
「ああ、特に問題はなかったよ…それに実は今日は俺1人ではなかったんだ」
「どういうことだい?」
「俺が他のサボっていた図書委員の奴らにちゃんと仕事をするように注意したんだ…多分明日からもちゃんと仕事をすると思うよ」
「…………なんで?」
星北の顔が曇ったように感じた…
あれ?思っていた感じと違うな…もっと喜んでくれると思ったのに。
思ってたんと違う。
「なんでって…そりゃ今まで星北1人で図書委員の仕事をやるのは大変だと思って…」
仕事があまりないと言っても1人なのは可哀想だと思っていた。
「私が一言でも、大変だなんて言ったかい?」
「それは…だけど、事実1人じゃ大変だろ?」
「……………ことを……」
「えっ?」
星北は何かを言ったが、小声だったので聞こえなかった。
「いや…なんでもないさ…」
「………」
おそらく、星北は怒っている。
憤怒している。
俺はそう本能的に感じた。
もしかして、俺やってはいけないことを…?
星北のためと思っての行為だったのだが…
「ああ、そういえば図書委員の皆んなで話し合って図書室の本を宣伝することにしたんだけどいいよな?」
この空気感に耐えられずに話題を変える。
「本を宣伝…?」
「うん。現状今の図書室の利用者はほぼゼロだろ?だから、もっと利用者を増やすために本を宣伝しようと思って」
「………なるほど……」
「宣伝方法は、チラシを配ったりポスターを貼ろうと思うんだけど…」
「別にいいと思うよ…私にはどうでもいい」
「どうでもいいって…なんだよ?」
「いや、何でもないさ…気にしないでくれ」
「星北…大丈夫か?」
なんだか様子が変な気がする。
投げやりというか、ヤケクソというか…
「だ…だい…じょ…」
星北は苦しそうに蹲った。
「ゴホ…ゴホッ…」
「星北!大丈夫じゃないだろ!」
今になって風邪が悪化したのだろうか?
さっきまでは体調は良さそうだと思ったけど、星北の痩せ我慢だったのか?
とにかく、安静にさせなければならない。
「星北、一旦ベットに横になれ」
俺は蹲る星北の背中をさすりながら言ってやる。咳で苦しそうだっため、背中をさすってやった。
「ハァ…ハァ…大丈夫だよ…」
星北は呼吸を荒くして、明らかに大丈夫じゃなさそうだった。
嘘もバレバレだ。
「大丈夫じゃないだろ…いいから早く大人しく寝ろ…」
「そうしたいけど、体が怠くてね…体が動かない…」
「わかった…」
俺は星北を抱き上げた。
そのまま、ベットへと星北を運んでやった。
ゆっくりと星北をベットへと寝かせた。
一応言っておくと、俺が今まで抱っこした女の子で1番軽かった。
そう言うと、後から早乙女と清水のダブルアンパンチを喰らいそうな気がするのでここまでにしておこう。
「ハァ…ハァ…」
星北は苦しそうにしていた。
やっぱり、風邪は治ってはいなかったのだ。
少し良くなったといって調子に乗るとこうなるのだ。
風邪を舐めてはいけない。
舐めるのは飴だけにしとけと。
星北の額に手を当てると、とてつもなく熱かった。
熱も再熱しているのだろう。
俺はとりあえず、水を絞ったタオルを星北の額に置いた。タオルは洗面所から勝手に取ってきたが、仕方ないでしょ?
「あ…蒼…くん?」
呼吸を荒くして咳混じりに星北が言う。
ただただ、辛そうだ。
「どうした?」
「戸棚から…く…薬を…とって欲しい…」
ハァ…ハァ…と息を切らしながら星北は俺に指示する。
「了解!」
俺は言われた通り、風邪用の粉薬を手に取った。
「あ〜」
星北は、口を大きく開いた。
「ん?」
「
「俺がか?!」
奇跡的に、なんとなんだが星北が何を言っているかが理解できた。
いや、できてしまった。
普通に聞こえないフリでもすれば良かった。
「
仕方ない…相手は病人だ。
きっと、自分で薬も飲めないほどになっているんだ…
ここは心を広く、盛大な心意気で。
俺は粉薬を星北に飲ませた。
その仕草は、少しだけ色っぽかった。
とりあえずは俺ができることはやった。
後は、ひたすら安静に寝ることだ。
風邪は寝るのが1番早く治ると思う。
「あっ…蒼くん…」
横になっている星北は苦しそうに言う。
「ん?なんだ?」
「き…今日は…できるだけ…側にいて欲しい…」
「ああ…わかったよ…」
本当はさっさと星北が借りていた本を学校に持っていきたかったが、そうお願いされれば仕方ない。
それに、この家…部屋を見た感じ俺が星北を看病しなければ他に看病してくれる人もいないだろう。
「ど…どこにも行かないで…」
星北は目を潤してそう言った。
多分、風邪のせいだろうけど…
「……ああ、どこにも行かないよ、だから安心して寝ろ…」
俺がそう言うと星北は安堵したように目を閉じて眠りに落ちた。
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