第34話 目覚め
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深い…深い…海の底を漂っているようだ。
私は身動きがとれずにただ漂うしかでない。
「ハッ…!」
一体どれくらい眠っていたのだろうか…?
私はふと目を覚ました。
とりあえず、冷静に気持ちを落ち着かせた。
私は周りを見渡した。
ここは…私の家…部屋か…
懐かしい…全てが懐かしいと感じた。
私の部屋は少し変わっている部分があるものの、前とさほど変わりはない。
時刻は午前2時過ぎ。
もう、夜も深い。
私は自室の鏡で自分の姿を確認した。
そこには、別人のような私が映っていた。
髪型も異なり、顔付きも多少違う、私が
映し出されていた…まるで、私ではないようだ。
「うっ…」
私は咄嗟に頭を手で押さえた。
頭が痛い。
まるで、頭の中で棘だらけの虫が暴れているように激しい激痛が襲った。
私は、長くはないと思った。
こうして、私として目覚めたのも偶然、奇跡みたいなものだろう。
なぜ、どうして今更になって私が起きることができたのかはわからない。
そんなことはどうでも良かった。
考えている暇など私にはない。
「全く…起きるのがこんな時間だなんて…」
私はそう溜め息をつく。
どうせ、起きるなら皆んなが起きている時間がよかった。
だが、贅沢は言ってられない。
私としていられる時間は僅かしかない。
今、できることをしよう。
せめて、家族の顔を見たい。
私は自室を出て、音色の部屋に向かった。
起こさないように慎重にまるで深夜に忍び込む泥棒のように。息を殺した。
音色はスヤスヤと寝ていた。
「ハッ…成長したなぁ…」
私は率直にそう思った。
私の妹である音色が無事に健康そうに成長していることに安堵した。
「フニャ、フニャ…お、お姉様…」
音色はそんな寝言を言った。
「ハハッ…」
思わず笑を堪えた。
そして、私は音色の頬をに手を当てた。
温かい…柔らかい…こうやって音色に会えたこと、触れられたことが純粋に嬉しかった。
「お姉様…行かないで…」
音色はこのタイミングでそんなことを言う。
まるで、私がやって来たのを本能的に察したように。気づいたように。
「………また、会いに行くよ…ごめんね…」
私はそう言い残して、音色の部屋を後にした。これ以上は駄目だ…。
多分、泣いてしまう。感情がぐちゃぐちゃになってしまうだろう。
私は次に母の部屋に向かった。
「うっ……」
酒くっさ!
さては、マミーはお酒を飲んだな?
「グォー」
マミーは腹を出してベットの真ん中で大の字で死んだように眠っていた。
「ハハ…相変わらずだな…」
マミーも昔と変わっていないようで安心した。まあ、顔のこじわは少し増えたように思ったけど…それを言うと頭をグリグリされるので言わないでおこう。
いや、むしろしてほしい。
望むなら、私の我儘通るなら、いくらでも私の頭をグリグリ攻撃してほしい…そして、抱きしめてほしい…
でも…わかっている。
私のそんな願いは叶わないと。
叶うはずなどないと。
「マミー……」
私はそっと、母を起こさないように慎重に母の手を自分の頭の上においた。
「撫で撫で…してほしいな…」
昔のように、頑張ったときは頭を撫でてほしい。でも、今は…無理矢理でもこうしてほしかった。
私は自分の気持ちを押し殺して母の部屋を後にした。
音色と同様にこれ以上は辛くなってしまう。
「うぅ…」
またもや、激しい頭痛が襲った。
もう…そろそろか…
残された時間はあと少し…
私は最後にリビングに向かった。
普通なら、自室に戻るべきだろうけど、不思議とリビングに足を運んだ。
そこには…見覚えのあるやつが寝ていた。
随分と懐かしい顔があった。
「君は…ああ…そういうことか…」
私は全てを悟った。
なるほどなと。
「君が…私を目覚めさせたのか…」
不思議なこともあるもんだな。
私を起こしたキッカケ…出来事…はおそらく、ただの考察だが、あくまで私の個人的な考え、想像だが…君のおかげだろうか。
それぐらいしか、とりあえずは考えつかない。
しかし、こう見ると君も私も随分と成長したようだな。
おお…今更に気がついたらが、胸がデカイ。
噂の巨乳…とまではまだいかないがまあまあ実っている方だろう。
正直、少し嬉しい。
「うぅ…う…」
なんだ…?急に苦しそうに
悪夢でも見ているのだろうか。
まさか…今も君は戦っているのだろうか。
抗っているのだろうか?
耐えているのだろうか?
……苦しいんでいるのだろうか…?
あの時のように。同じように…
「大丈夫…大丈夫だよ…君は1人じゃない、私がそばに居るから…大丈夫だ…」
私は頭を撫でてやる。
「ハァ…ハァ…………」
少し、治ったように感じた。
呼吸は一定になりスヤスヤと寝れているようだ。
君が今、どんな状況かはわからないけど残念ながら、今の私にはどうしようもできない。
私は無力だ…そんな自分を憎く思う。
結局、私は君との約束を守ることはできなかった。本当に申し訳ないと思う。
だけど…いずれは…君を助けられる時が来るかもしれない。
その時は私は精一杯のことはするつもりだ。
まあ…また、私として目覚めればの話だが。
君と会えるのもこれで最後かもしれない。
だけど、もう会えないとも思っといたのでまたこうして会えたこと自体奇跡みたいなものだ。
また、君とお話しできたらいいな…
私は自室に戻り、ベットに横になる。
「うぅぅ…!」
頭の痛みはマックスに達した。
意識が遠のいていく。
視界がボヤける。
猛烈な睡魔に襲われているようだ。
もう、感覚などがおかしくなっていた。
ああ…私はまた…眠りにつく。
願うならまた、私として目覚めることがあればいいと思う。
頼んだよ…私。
清水…奏…
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