第35話 夢
やめて。
「お前なんか————」
苦しい。
「だよね〜———————」
辛い。
「わかる!———————」
もう、やめてくれ。
「本当に————————」
誰か。
「アハハハ———————」
助けて…
「君を助けたいんだ!」
君は…俺の…
「…………ハッ!」
俺は、飛び上がるように眠りから目覚めた。
いや、悪夢から目覚めた。
「ハァッ…ハァッ…クソ!」
最悪の目覚め方だ。
息が荒い。
おかげで、汗だくだ。
「クソ…またか…」
俺は頭を抱える。
こういった、悪魔を見ることは珍しくはない。
ムニュ
ん?何か柔らかい物に触れたような…
だが、なんだこの物足りない感じは…
小さい…
隣を見ると、音色がスヤスヤと寝ていた。
いないはずの音色が、自室で寝ているはずの音色が俺の隣で気持ちよさそうに寝ていた。
俺の手元はあろうことか音色の胸に触れていた。不可抗力だ、わざとじゃない。
ムニュ、ムニュ
せっかくなので、少しだけ触る。
なるほど、このなんともいえない足りないというか、満足できない理由がわかった気がする。なにがとはいわないが、何かが小さかった。
まあ、まだ中学生ならこんなもんだろう。
別に普通だ。
なぜ音色が隣で、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ているかは置いておこう。
とりあえず、ここが音色のベッドではないことはたしかだ。
「パシャ」
一応、音色の写真を撮っておいた。
あとあと、役に立つ気がする。
スマホの時刻を確認すると午前4時ちょうどだった。
中途半端な時間に目覚めてしまったものだ。
起きるにしては、早すぎるしなぁ。
「ん〜ホールディング〜」
音色は俺の腕をがっしりと掴んだ。
コイツもコイツで寝相が悪そうだ。
もしかして、寝相が悪すぎて自分の部屋からここまで転がって来たのか?
だとしたら、天才だな。いや、天災か。
仕方ないな、ここは…寝る。
まだ、眠気は残ってるし二度寝を決め込むが最善策だろう。
てことでおやすみ。
俺は再度悪夢が訪れないことを願て再び瞼を閉じた。
「私はアンサーと言うよろしく」
天使が、俺に握手を求めてきた。
なんだこの状況は?
周りを一通り見渡した感じ、ここは天国か?
周りには天使の輪っかをつけた天使が舞っている。
そして、目の前にも大きな翼を広げた大天使がいる。
顔は…白い光に覆われて見えない。
俺は一瞬で悟った、これは夢だと。
「はいはい、よろしくよろしく」
俺は適当に返事をし、大天使と握手した。
どうせ夢なんだし適当に振る舞おう。
「あなた、これはどうせ夢だからといって適当にするおつもりですか?」
「あっバレた…」
「大天使様、アンサーに隠し事は無用ですよ!」
「さすがは、大天使様だな…」
知らんけど…
「私はあなたに今後役に立つ助言をしてあげます」
「助言?」
「ええ、きっと役立つ助言なのでしっかりとお聞きになりなさい」
「はい…わかりました」
なんつー夢だこりゃ?
俺は相当疲れているな…
「よろしい、では一つ目の助言です」
「はい」
「
「X?」
なんだそれ?
数学の文字式ですか?
「ええ、くれぐれもご用心を…それと、あの子ですが…なかなか面白いですね…ですが、あなたはのちに大きな決断をしなければなりません…」
ここで、この不可解で迷界な夢は途切れた。
「起きなさい!蒼様!」
「ハッ!」
目覚めると、音色の顔がドアップに飛び込んできた。
「わっ!音色!?」
「やっと、起きましたね…この寝坊助は…」
「おはよう…てか今何時だ?」
「午前9時でごさいます!まったく、蒼様は人様の家でこんな時間まで寝れるとは、その精神に関心を抱きますよ!」
「はっ!9時!そんなに寝てたのか…」
あれから二度寝を決め込んだせいでこんなに寝てしまった。
そして、なんだか変な夢を見た気がする。
う〜んたしか、大天使から助言を受けたような…まっ、いっか。
「お母様とお姉様よりはまだマシですけどね…」
「もしかして、まだ寝ているのか?」
「ええ、もちろん起こしましたがダメでした」
音色は困ったように眉を曲げた。
「まあ、今日は休みだしゆっくりと寝かせてあげたら?」
清水も実歌さんもいろいろと疲れているのだろう。無理に起こすのは可哀想な気がする。
「どうせ、皆んなして夜遅くまで起きていたのでしょう?だから、起きられないんですよ」
音色は呆れたように言った。
「ん?そういえば音色、お前俺の隣で寝ていなかったか?」
「なっ!なぜそれを!じゃ…なくて何のことですか?」
無理矢理にとぼける。
「とぼけるな、俺は見たぞお前が俺の横で寝ていたことを…」
「夢ですよ!夢!夢にまで私を見るとはどれだけ蒼様は私のことを好いているのですか?気味が悪いです!不快です!」
「夢じゃねーよ、たしかにいた!あっ、そうだ!これを見ろぉ!」
俺は、撮っておいた音色の寝顔を見せつけた。
「これは…いつ!?」
「へっ!運が悪かったな俺は変な時間に一度目覚めたんだ、そしたらお前が横にいた!これがその時の写真だ!」
「その…これには深い訳があってですね…」
「ホウ…その深い訳とやらをお聞かせ願おうか?」
「………私、びっくりするほど寝相が悪いんですよ!」
「なわけあるか!」
自室からここまでくるなんてどんな寝相だよ。
そもそも、音色の部屋は2階だし。
階段を転がり落ちて来たのか?
「素直になれよ、俺と一緒に寝たかったんだろ?」
「はい?自意識過剰もほどほどにしてください。私は断じて蒼様と一緒に寝たかったわけではありません!」
「じゃあ、なんでだよ?」
「さあ?なぜでしょうね…あっ!あれを見てください!」
音色は指を指して言った。
「ん?」
俺は音色の指を指した方向を見てしまった。
「スキあり!」
「わっ!」
その隙に俺は音色にスマホを奪い取られた。
「あっ、こら!」
俺が取り返したときにはもはや遅かった。
「あらら、証拠の写真も無くなってしまいましたね」
「ああ…」
俺がせっかく撮った音色の寝顔が消されてしまった。
可愛く撮れてたのに、もったいない。
スマホの待ち受けに…ゴホン!
「さてと、茶番もここまでにして朝ごはんとしましょう」
というわけで、俺は無事に夜を明かすことができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます