第46話 タテゴトカイメン
仕事を放棄していた図書委員を説得し終わったあと俺は、図書室へと向かった。
図書委員の仕事を手伝うためだ。
手伝うと言っても利用者がほぼいないため、仕事という仕事はないのだが…
「あっ…」
受付には、小西明がちゃんと言われた通りにいた。
「よう、ご苦労さんあれ?星北は?」
星北の姿は無かった。
「…ほ、星北さん…?はいないと思います…見ていません…」
どうせ、いつも通りにまたどっかに隠れているのだろう。身を潜めているのだろう。
また、「やあ」とか言って登場するんだろ?
こいよ、俺は準備万端だぜ!
「プルルルル!」
俺の電話が鳴った。
「もしもし?」
「……やあ…」
星北だった。
星北はお決まりのセリフを吐いたものの、なんだか元気がないようだった。
まるで、風邪をひいている病人のよう。
「おう、星北…なんだか風邪をひいているような声だな」
「ゴホッ…正解だよ…間抜けくん」
やっぱりか…
間抜けくんでもズバリと見抜けました。
「すまないね…どうやら未知のウイルスに体を犯されているようで…」
「漢字が違げーよ…未知のウイルスでもないだろ…大丈夫か?」
「症状としては、咳、熱、喉の痛み、体の怠さ、倦怠感…そして、尾鰭が生えたぐらいかな…」
「尾鰭って…お前は人魚にでも成ったのか?」
人魚姫のアリエルかよ?
そんなこと、あり得るかよ!
「ああ、海にでも自由に泳ぎたい気分さ…」
「勝手に泳ぎにいけよ、まあそんな状態じゃ溺れて魚の餌になるだろうがな…」
「深海魚の餌になるのはご勘弁だ…タテゴトカイメンの餌になるのは嫌だ…」
「なんで、深海まで沈むつもりなんだよ。てか、数いる深海生物の中でなぜ、タテゴトカイメンをピックアップしたんだ!もっと、リュウグウノツカイとか有名な深海生物にしろ!今回はたまたま、奇跡的に俺がタテゴトカイメンを知っていたからいいものの…」
タテゴトカイメンとか知っている人の方が少ないだろ…俺はたまたまなぜか、知ってはいたけど…
タテゴトカイメンを知らない方はまあ…ネットで調べてくれ。
なかなか、不思議な生物だぜ。
「タテゴトカイメンを知っているとは…さすが私が見込んだだけの男だ…」
なぜに、褒められた。
いつ、見込まれたのかは知らんが思ったよりも元気そうで良かった。
「熱は?何度ぐらいだ?」
「君…レディにそんなきわどいことを聞くのかい…」
「体温を聞くことのどこがきわどいんだ!」
待て…今の時代は見るだけでもセクハラとなってしまう世の中と聞いたことがある…
もしかして、体温もアウトなのか?
もしそうだとしたら、何もできないよ!
もはや、このままでは呼吸も禁止になるだろ!
「仕方ないな…どうしても知りたいと言うなら…強く志願するなら…教えてあげよう」
「…勿体ぶるな!」
体温を言うだけでこんなに面倒になるかよ…
「83423987…」
「語呂合わせで闇夜に咲く花じゃねーよ真面目に言え!」
「5572…」
「ココナッツじゃねーよ」
闇夜に咲く花…ココナッツ?
どういうことだよ…?
真面目に言ってくれ…
星北は真面目そうで真面目ではない。
まともそうでまともではない。
「38.7℃…」
「高熱だな…」
38.7℃は高熱と言っていいだろう。
因みに俺の普段の体温は36.5℃ぐらいだ。
どうでもいいけど…
「……フフ…楽しいぐらい、高熱だよ」
「そうか…今日の図書委員の仕事は俺に任せて安静に寝とけ」
「ああ…君に任せたよ…私の分まで…あとは頼みます…」
無為転変された?
渋谷から来たのか?
「じゃあ…」
「あっ…待って…」
電話を切ろうとした瞬間、星北が言った。
「一つ頼み事、お願い事をいいかな?」
「ああ…俺にできることなら」
っても、どうせ従わないといけないのだけど…俺は星北の奴隷みたいなものだからな。
断る権利ももはやない。
タテゴトカイメンを取ってきてとかだったらどうしよう…
「今日貸し出し〆切の本があるんだ」
「……へぇ」
なんとなく、嫌な予感がする…
最悪のことを想像してしまった。
まさか…
「困ったことにその本は私の家にあるんだよ…」
「……へぇ…」
え〜それは大変だ〜
そうだぁ!ドラえもんに頼もう!
ドラえもん〜!!!!取り寄せバック出して〜とかお気楽なことを考えている場合ではない。
「今日の放課後に私の家までその本を取りに来てほしいんだ」
やっぱり。
「……わかった……」
俺はそう言うしかなかった。
断れない。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
電話は切れた。
俺もキレた…訳でもないが怠すぎる。
最悪だ…放課後に星北の家まで本を取りに行くことになってしまった。
まあ、昨日俺も星北に俺の家まで本を取りに来てもらっているし…お互い様か…
「…陰田くん、電話相手は星北さん?」
天野が電話を切ったタイミングで俺に聞く。
「ああ…今日は体調が悪くて学校を休んでいるらしい」
「そっか…それはお大事にだね…」
「ってか…お前、随分と星北と仲が良さそうだな?」
天野の誘惑に負けた金髪の男…小林瑛人は言った。
「まあ…」
俺は星北と仲が良いのだろうか…?
一応友達だとは思うけれど。
だけども、星北と出会ってまだ1週間と数日の付き合いだ。
親しいかと言われれば、わからない。
「か…かか…彼女?!」
小西は、頬を赤てそんなことを言う。
「ちげーよ、彼女じゃねーよ」
「なんだよ、てっきり彼女かと思ったのに…」
小林は残念そうに言う。
全く、男女同士が仲が良いとすぐ交際関係だと決めつける。
いい偏見であり、いい迷惑だ。
「…そうだ、小西…あれから本を借り来た人はいたか?」
「い、いない…誰も図書室に来てない…」
まあ、わかってはいたけれど。
当然の結果だとは思うけれど。
「ほら、やっぱり誰もこの図書室の本なんか借りねーんだよ」
「皆んな、普段本は読まないのかな…?」
「…今の時代は本なんかよりもよっぽど手軽で楽しいものが多いからな…」
例えば、スマホゲーム。
エックス、インスタなどのソーシャルネットワーク。
それに、仮に本を読みたいと思ったとしても、今の時代は電子版というものが存在する。紙の本を買わなくてもスマホで読めるのだ。
わざわざ図書室まで、手間をかけて借りに行く人はいない。
「ねえ…私たちが本を宣伝すればいいんじゃないかな?」
ふと、天野が提案する。
「んなことやって意味あるのかよ…」
小林は文句を言う。
「この世に意味のないことはないと言うだろう?やるだけやってみる価値はあるんじゃないか?」
図書室の本を宣伝すれば、本に興味を持ってもらえれば、利用者が増えるのでは?
ただ、このままぼーっと受付で待つよりよっぽどいい。その方が俺にとっても楽しい。
やはり、手伝うならキチンとやりがいを持って仕事をしたい。
「し、しようよ…!宣伝…こ、こんなに沢山面白い本があるのに、読まれないのは勿体無い!」
小西が賛同する。
「え?…マジでやるの?」
「小林くん…協力してくれないかな?」
天野はまた、可愛げに言う。
「し…仕方ないなぁ…」
チョロいな。
「じゃあ、俺たちでどうにか、図書室の利用者を増やすようにしよう…」
それが、この学校にとっても図書室にとっても、星北にとってもいいことだと思った。
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