第43話 命懸けの相談

 「なぁ…どう思う?」


 俺は風呂場のドアの向こうでシャワーを浴びている義理の妹こと美来に言った。

 言ってみた。

 風呂から上がった後に殺される覚悟で。

 実質遺言だ。


 あの後、星北はすぐに家を出て行った。

 何事もなかったように…逃げるように。

  

 それにしても…星北は大丈夫なのだろうか…

 と、心配してしまう。

 あの時の…俺をベットに押し倒した時の…星北の様子がおかしかった。変だった。

 なんと言えばいいのだろうか…

 語彙力が死んでいる俺の言葉で表現するならば、狂ったようだった。

 

 いつもの星北ではなかった。

 様子がおかしかったのだ。 


 「あのなぁ…まずなんで来てんだよ?」


 浴室のドアの向こうの美来は言った。

 多分、いつも通り怒っている。

 キレている。ブチギレである。


 「いや…なんとなく…ってかお前は無理矢理こういった状況を作らないと俺と話してくれないだろ?」


 美来からは絶対に俺に話しかけることなんてない。なぜなら、美来は俺のことが大嫌いだからだ。


 「話したくないからな」


 ドストレートにそう言われた。

 傷ついた。

 が、もう慣れた。そう毒舌を言われるのに免疫がついた。


 「てか、もしドアを開けたらぶっ殺すから」


 殺害予告をされた。

 危ない、危ない…今まさに浴室に手をかけていた。ドアを開けようと思っていた…

 急死に一生を得た…


 「開けないから安心しろ…」


 「信用ならねーよ」


 その言葉通りです。


 「……疑い深いことはいい事だけど、もう少しお兄ちゃんを信用してもいいんじゃないか?」


 「……信用ゼロだ…」


 拒否された。

 全く…絶賛反抗期中なんだから…


 「で、どう思う?」


 俺は再度聞く。


 「どう思うとだけ聞かれてもわからねーだろ?!」


 おっと、俺としたことが質問の内容を省いて質問してしまったようだ。

 うっかりさん…テヘペロである。


 「いや、もし仮にお前の友達に様子が変なやつがいたらどうする?ってこと…」


 「……なんの話だよ…?」


 いや、別に俺の諸事情だけど…

 美来とっては無関係でどうでもいいことだけど…答えてほしい。


 「で…どう思う?」


 「知らねーよ」


 ……そう言うのはわかっていた。

 容易い予測可能な未来だった。

 美来に相談したところで真面目に答えてもらえるはずもない。

 とりあえず今は美来にちょっかいかけたい気分だった…お話ししたい気分だった…ただそれだけだ。


 「……用が終わったならさっさと出ててけよ…」


 辛辣にそう言う。


 「酷いな…せっかくお兄ちゃんがこうやってお話ししようって来てるのにそんなこと言うのか…」


 「はぁ?こっちは今シャワータイムなんですけど?」


 「シャワーを浴びながらお兄ちゃんともお話しできる…最高じゃないか…」


 「様子が変なのはそっちの方だろ…」


 確かに…言われてみれば。

 …美来と話したくて、構ってほしくてついおかしな行動ばかりそう思ってしまった。


 ん…待てよ…

 何かがわかりそうでわからない。


 なぜ、星北があの行動をしたのか…とってしまったのか…

 答えが分かりそうで分からない歯痒い気分だ。


 「純粋に…ストレスじゃねーの?」


 と、急に美来は質問に答えてくれた。

 意外だった。

 美来が俺の質問に答えくれるとは…なんとも嬉しい!俺は感動で震えた。

 

 「ストレスか…」


 感動という感情を必死に抑えた。

 表に出せば、また美来に嫌われてしまう。

 できるだけ、普通に平然に振る舞おう。


 「人間誰しもストレスが溜まるとおかしくなるもんだろ…少なくとも今ウチはアンタから受けるストレスでおかしくなりそうだけどね…」


 それは、おかしい俺からしたら可笑しな話しだ。

 思わず笑い転げちゃうくらいに。


 確かに、美来の言う通りかもしれない。

 多分星北は何かしらのストレスが溜まってしまっていたのだろう。

 それが溜まりに溜まって破裂寸前と…爆発寸前というより、爆発してしまっていたのかもしれない。

 だから、おかしな行動をしてしまう…ということになると…


 それを解決するにはストレスを解消するのが1番だろう。それが手っ取り早い。


 「いいストレス発散方とかってあるか…?」


 「…アンタをぶっ飛ばすこと」


 ……そりゃ、ストレスも吹き飛びそうですね…ってそれは美来だけだろ…美来様限定のストレス解消法だろ…


 「他には?」


 「まあ、1番手取り早いのはストレスの原因、根本を解消、改善するってことことだろ…」


 たしかに…

 ストレスの原因を取り除けばストレスは溜まらないということか…

 火が燃えるなら、火種を消せばいい。

 

 「つまり、私はあんたを消せばストレスが無くなるってわけだ」


 シャワーの音が止まったタイミングで美来が言った。

 殺される…背筋が凍った。


 そのあと、チャポンと湯船に入る音が聞こえた。美来は湯船に浸かったのだ。


 「消さないでくれよ…」


 う〜ん星北のストレスの原因か…

 星北は何のストレスを受けているのかなぁ…

 星北に直接聞くのは違う気がするし…


 もしかして、俺か?

 俺がストレスの原因か?

 俺が本を家に忘れたから?

 いや、さすがにそれだけであんなにストレスは溜まらないと思う…思いたい…


 もし、俺が本を忘れたことが原因だったらこの命を持って償い…はしないが。


 もしかして…本当に美来の言う通り俺が消えるのがなんだかんだ言って1番いい解決法なのかもしれない…いや…さすがに無いな…


 俺はそれ以外に考えられる、ストレスの原因を考察することにした。

 今までの星北の様子を思い出した。


 ………たしか…星北はいつも1人で図書室にいたよな…

 初めて会った時も、今日会った時もアイツは1人だった。

 1人で図書委員の仕事をしていたのだ。

 他の図書委員がいるにも関わらず、星北はたった1人で図書委員の仕事をしていたのだ。


 星北のストレスの原因がわかった気がした。

 確実にそれではないかもしれないが、これぐらいしか思いつかない。

 

 解決法は仕事を放棄している他の図書委員にちゃんと仕事をさせることだ…


 「ありがとう美来…おかげでなんとかなりそうだ」


 「じゃあ、さっさと出てけ…」


 「一応聞いておくけど、俺も入っていい?」


 「死ね」

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