第42話 卒業

 そして、なんだかんだあり俺の家に着いた。


 「じゃあ、本を取ってくるから待っててくれ」


 俺はさっさと、星北に本を渡してしまおと思っていた。

 星北に本をわざわざ取りに来てもらっている立場なのは重々承知だが…早く終わらせたいものは終わらせたいのだ。

 傲慢で強欲だな。自分でもちょっと引く。


 「ん…?何かな…?君はもしかしてレディを外で待たせると言うのかい?」


 星北は少し不機嫌そうに言った。


 「えっ…中に入れろと言うのか…?」


 「………まあ、君がレディを外で待たせるやつなら別に構わないさ…」


 星北はそっぽを向いた。

 そんな言い方をされるとなんだか自分が最低なやつに感じてしまう。


 「どうぞ…お入りください…」


 俺はなくなく星北を家に入れた。

 今は星北の奴隷みたいなもんだし…星北は取りに来てくれている立場だし…仕方ないか…

 本当は入れたくはなかったけど…

 それは別に星北嫌ってわけではないぜ?


 家には幸い誰もいなかった。

 いた場合は絶対に入れなかったが。

 あの、俺のことを毛嫌いしている義理の妹こと美来もどこかに遊びに行っているだろう。

 

 家族に女の子を家に入れたことを知られるわけにはいかない。


 「お邪魔します」


 星北は礼儀正しくそう言った。

 常識はあるやつだ…最低限…


 俺は2階の自室に案内した。

 

 「ふ〜ん…意外と綺麗にしているんだね」


 星北は俺のベッドに座っている。

 全く…俺の部屋に初めて案内した女の子が星北とはな…いや、別に星北が嫌とかではないけれど、なんだこの虚しさは…?


 星北は、なぜか俺のベッドに座った。


 「さてと…ほら、借りてた本」


 俺は机の上に置いてあった、あの日借りた本を星北に渡した。

 結局借りた本はほぼ読めなかった。

 先週は何かと忙しかったから、読む暇がなかった。ってのは言い訳だけど、一応言っておく。


 本を読むのも結構な労力を使うものだ。

 体力的にも精神的にも余裕がないとなかなか一冊丸々を読むのは難しい。

 仮に頑張って必死に、目から血を流して読んだところで本の内容なんて頭に入ってこない。それこそ、内容がないようだ。おっと、ごめんなさい。


 それに、俺は本はしっかりとゆっくりとじっくりと読みたい派だし。

 まあ、気が向けばまたこの本を借りて読むのもありだな。


 「うん…受け取った」


 「ああ…」


 用件は終わったので、早く帰って欲しいと思った…星北にはわざわざ来てもらったのだけど…ぐずくずしていると、家族が帰ってきてしまうかもしれない。

 できれば、早いところ帰って欲しい。


 「ところで間抜けくん…ちょっとこっちおいでよ」


 星北は手でポンポンとベッドを叩いた。

 おいで…と言わんばかりに。


 「ああ…わかった」


 疑問に思うけれど、とりあえず大人しく従うことにする。

 奴隷に否定する権利はない。

 俺は星北の隣に座った。


 「そういえば今、家には誰もいないのかな?」


 唐突に聞かれた。

 一応確認するように。

 念の為聞いておく…というように…

 さりげなく、そっと聞かれた。

 

 「ああ…いないけど…」


 「ふ〜ん…そっか…」


 少しの間が開いた。


 「もし…この状況…ラブコメだったら…ラブコメの主人公は私をどうするんだろうね…?」

 

 なんて、俺に聞く。

 そんなことを。


 「……さあ?」


 俺は必死に惚けた。

 大方…大体はわかるは、わかるが…口に出したくないし、考えたくもない。

 知らんがな…って惚けた。

 

 「女の子と誰もいない家で、部屋で、2人きり…しかもベットの上…わかる?」


 「……わからないな……」


 一体星北は何が言いたい?

 何がしたい?

 

 「つまり…卒業のチャンス…だよ…」


 「ひゃん!」


 星北が俺にそう耳打ちした。

 唐突な不意打ちだ。

 鳥肌が俺の全身を埋め尽くした。

 ゾワゾワって背筋が凍った。


 卒業とは…一般的な学校などで使われる、卒業ではないだろう…

 多分、きっと、おそらく、もしかしてだけど…のことだ。

 つまり、あれである。

 あれを具体的に説明しようとも思えないから大体察していただきたい。


 そんな…あっちの卒業のチャンスと言われても、いまいちピンとこない。


 「卒業…!?」

 

 「そう…だよ…」


 「なっ!?」


 俺は、星北に強引にベットに寝かせられた。

 そして、そのまま星北は俺に抱きつく。

 体と体が密着している…

 なんだ…なんなんだこの状況は?

 俺は盛大に豪快にパニックになった。

 今の、現状の状況がわからなかった。

 鼓動が激しくなる…心臓が暴走している…

 

 「私は…いいよ…?」


 抱きついている星北がまた俺にそっと耳打ちする。


 いいよ…?

 何がいいんだ?

 こっちは1ミリも良くない!

 悪いよだぁ!

 よくないよだぁ!!


 俺は焦り散らかしていた。


 「まっ…待て!星北!落ち着け…!」


 俺は必死にそう言った。

 とりあえず一旦星北を冷静にしなければ!


 「私は充分落ち着いているし…冷静だよ?」


 嘘つけ!

 ダウト!

 冷静なやつがする行動ではないだろ!?


 「フフ…1番落ち着きがないのは君の方じゃないか…」


 それもそうだが…

 実際はそうかもしれないが…

 誰だってこう女の子から抱きつかれたら…そうなるでしょ!?

 

 「一体急にどうしたんだよ!?」


 星北…お前はそんな大体なビッチみたいなキャラクターではないだろ?

 キャラがブレている…バグが起きているよ!

 星北らしくないよ!

 一体どうしたんだよ〜!


 「どうしたもないさ…」


 駄目だ…コイツ…話が通じない!


 「フフ…すごい心拍数上がってるね…興奮しているのかなぁ?」


 星北は俺の胸に耳を置いてそう言った。


 俺は自分の心臓が飛び跳ねる様に鼓動していることを再認識した。


 「あっ…そうだ…眼鏡取っちゃお〜」


 「おい!」


 星北は強引に俺の眼鏡を取った。


 「………あれ…意外とカッコいいじゃん…」


 星北は俺の顔を見てそう言った。

 俺に顔を近づけて、キスの距離感で…


 それは、どうも…って思っている場合か!

 一刻も早くこの状況をどうにかしなければ…まずいことになる!


 「クソ!」


 俺は力ずくで寝返った。

 そして、俺が星北の上に跨る形となった。

 俺は星北の肩をベットに押さえ付けた。

 できるだけ力技は使いたくなかったが仕方ない…まあ、一応怪我をさせないくらいの力加減だが…

 こうするしか、今の状況を変えれないと思ったから…仕方ない…ごめんよ!


 「フフ…やる気になった?」


 星北は笑った。

 不適な笑みだった。


 瞳には光が見えなかった…闇だ。

 表現すると…闇が瞳を覆っていた。


 本当にどうしたんだ?

 まるで、狂った様だ。


 「もう茶化すのはやめてくれ…」


 「フフ…怖気付いちゃった?」


 また、笑う。

 薄気味悪い笑みだった。

 

 「星北…」


 「フフ…大丈夫だよ…」


 「星北!」


 俺は叫んだ。

 叫んでしまった。

 そうしないと星北に聞こえないと思ったから。俺の声は届かないと思った。


 星北はハッとしたように目を見開いた。


 「蒼くん…」


 「もう…やめにしよう…星北…」


 「アハハ!ごめんごめん!冗談だよ冗談!」


 そう言って星北は起き上がった。

 無理して笑っていたように見えた。


 「まさか間に受けてた?アハハ…全く欲深いな君は…」


 「星北…大丈夫か?」


 「…ん?私は全然大丈夫だよ…」


 大丈夫じゃない気がするが…

 今の雰囲気は、いつも通りの星北に戻った気がする。だけど、さっきまでは…


 「……狂ったようだったけど…」


 「……狂っているのはこの世の中の方だよ」


 星北は寂しげに悲しげにそう言った。





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 後に近況ノートにいろいろと書きたいと考えているので…(解説、補足など)まだ予定はないですが、新作とかお知らせすると思うので。

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