第41話 私だけの色

 放課後、俺は図書室に行った。

 放課後に俺の家に本を取りに行くためだ。


 逃げてしまおうかとも一瞬思ったが、さすがにそれは最低すぎる。

 人間として終わっている気がするのでやめておこうと思った。

 約束を守れない人間にはなりたくはない。


 図書室…いうまでもなく誰もいない。

 もちろん星北の姿は見えないが…絶対にどこかに潜んでいることだけはわかる。


 「おい、星北いるんだろう?出てこい」


 俺は呼びかけた。

 どうせまた、後ろから出てくると思う。


 「はーい」


 後ろから唐突に声が聞こえた。

 やっぱりね…予想通りだ。

 

 「星北…それ何回目だよ…さすがに飽きたぞ?」


 俺は後ろを確認することもなく言った。


 「ん?これからの、私の登場仕方にしようと思ったのだけど、割と不評みたいだね…」


 「なんだよ…登場の仕方って…」


 アニメやゲームのキャラクターかよ…


 「ほら、小説でもアニメでも映画でも漫画でも、キャラの色って大事だと思わないかい?」


 「キャラの色?個性みたいなことか?」


 「そう…そのキャラクターだけの個性の色だよ…その色をどう出すかが重要なのだよ…私の場合は登場の仕方で色を出そうと思って…ほら、私だけ色を出したいと思ってさ…」


 「いや、そもそも星北はアニメやゲームのキャラクターじゃないだろ?」


 「なんだい?小説を見過ぎて影響を受けすぎていると言うのかい?」


 「そんなこと言ってねーよ」


 それに、もし仮に星北がキャラクターだったとしても、もう充分に個性の色は出てると思うけど…わざわざそんな意味のわからないことをしなくてもいいと思うが…


 「くだらない話をしている場合ではないね…」


 星北は急に真面目になった。

 くだらない話を持ちかけたのはそっちだがな…

 なんだよ…登場の仕方って…

 それを考えた時にくだらないとはおもわなかったのか?


 それから、俺と星北は学校を後にし、俺の家に向かった。

 学校から、駅まで20分ほど歩かなければならない。


 「なあ…星北?」


 俺の隣を歩いている星北に聞く。


 「なんだい間抜けくん?」


 間抜けくん…あのあだ名は今なお継続かよ…


 「図書委員って他にもいるんだろ?なんでいつも、1人で仕事しているんだ?」


 いつも、図書室には星北1人しかいない。今まで、星北以外の図書委員は見ていない。


 まあ、うちの学校のシステムしては全クラスに図書委員がいるわけではないけど。

 基本的に、やりたい人がやるシステムとなっている。

 因みに俺のクラスには図書委員はいない。


 「他の図書委員ならサボっているよ…」


 「サボってんのかよ…終わってんな…」


 どうりで他のやつらの姿が見えないわけだ。

 仕事破棄というやつか…

 なんて無責任なやつらだ、許せんな。

 おかげで俺が一週間も図書委員の仕事を手伝うはめになった!(100パーセント自業自得)


 「まあ…別にいいさ…どうでもいい…」


 俺としては、どうでもいいわけないと思うが。他のやつらがサボった分の仕事を星北1人で背負っているというのに…星北は気にしていない様子だ。いや、気にするまでないといった感じだろうか…


 「今まで1人でずっとやってきたのか…?」


 「そりゃね…私しかいなからね…」


 「偉いな…」


 なんだか、今の話を聞いて俺は星北のことを誤解していたかもしれない。

 大分むかつく、ヘイトを買う様なやつだと思っていたが、根はいいやつなのかもしれない。


 「だから、間抜けで役立たずの手も借りたいというものだよ…」


 「ん?…?」


 「ああ…ごめん…猫の手も借りたいだったね…」


 やっぱ、前言撤回。

 やはり、むかつくやつだ。

 爪はないけど引っ掻くぞ?


 「じゃあ、私からも間抜けくんに質問いいかな?」


 「ああ」


 間抜けくんに答えられることなら答えよう。


 「君は今、付き合ってる人とかいるのかな?」


 「いると思うか?」


 その似た様な質問は天野にもされたような。

なんで、女の子ってすぐに好きな人や付き合っているなどを聞きたがるのか?

 

 「いや…ただ単純に間抜けくんに彼女がいるのか興味があって…」


 「いるわけないだろ…」


 普通に考えればいないとわかるだろ…?


 「今までも…?」


 「ああ、彼女いない歴=年齢だ」


 「ふ〜ん…まあ、陰キャで間抜けの君を好きになる人なんて少ないもんね…」


 星北は哀れむように言った。

 そんな目で見られると、なんだか心が痛む。

 だけの今この状況も現状も俺自身が自ら望んだ結果だ。なので、別に構わない。彼女がいなくてもね…


 「じゃあ、星北はどうなんだよ?」


 「ん?…何かな?」


 「彼氏!彼氏がいるのかって聞いてんだ!」


 人のことを散々煽っているのだから、いて当然だろ?

 というか、普通にいそう。

 星北は彼氏がいても当然の美少女だ。


 「君の言葉を丸切りそのまま返すけどいるの思う?」


 「う〜ん…」


 星北の見た目はムカつくことに、黒髪のおさげ三つ編みの眼鏡の美少女だ。

 顔も、良く整っている。

 おまけに巨にゅ…盛んである。

 モテるかモテないかの二択だとモテる方だと思うが…


 難を上げるとしたら、上から目線の喋り方と、鼻につく言葉を言うことだ。


 「いる!」


 俺は思い切って言う。

 

 「いないに決まってるだろう?」


 星北は変に真っ直ぐ言った。


 「決まってる…のか?」


 「決まってるよ…君と私がいずれ海でずぶ濡れになることぐらい決まっているよ」


 星北の目がキマッテイル…わけではないが、鋭い目つきだ。

 あと何だ?海でずぶ濡れって…?

 

 「彼氏どころか、友達すらいないよ」


 「え?…」


 そんなわけないと思うけれど…

 友達がいない?陰キャの俺でさえいるのに…?


 「友達がいないのか…?」


 「そうだよ…残念なことにね」


 「いや、さすがにそんなわけないだろ…」


 俺は半笑いで言った。

 きっと、いつも通りの冗談だろうと思いたかったからだ。

 嘘だよ…間抜けくんと言ってくれ…


 「……そんなわけもあるのだよ…」


 星北は悲しい目をしていた。

 これは…ガチかもしれない…





 

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