第30話 大人
「ただいまぁ!愛しの愛娘よ!会いたかった!」
と、勢いよくリビングへと玄関を繋げる扉が開かれた。
帰った来たのは、清水奏、音色の実の母親だった。
仕事帰りだっため、スーツ姿だった。
顔は、さすがは奏の母親といったところ、大人びた美女といったところだ。俺のいつものお決まりの美少女という表現は残念ながら、今回は使用不可だ。
奏や、音色にどこか雰囲気や顔立ちは似ているものの圧倒的な大人オブ大人な雰囲気が溢れ出ていた。
まあ、大人なので、大人っぽいのは当たり前だが。
だが、この世には子供っぽい大人も存在する。それだけは言っておこうと思う。
「お母さん〜!」
「お母様〜!」
「おう、愛しの愛娘達よ!元気だったか!」
と、抱きしめ合っていた。
感動の再会?だ。涙は出ないが。
この場面だけで、そうとう仲が良いことがわかる。
「ん?おやおや〜見なれないやつがいるなぁ?」
目が合った。
真っ直ぐな瞳が俺を捉えた。
目が合っただけなのに、かなりの威圧感を感じた。
「どうも…お邪魔しています…」
まずは挨拶。
俺はそう言って頭を下げた。
挨拶をできない人間は終わっていると個人的に思う。
礼儀、マナーをしっかり心がけること、それが大事なのだ。
「ふむ…この子が今晩お世話させられる男の子ね…」
と、言って鼻で笑った。
内心こんなものかとか思ってそう。
そりゃ、俺は圧倒的弱者で小物だからな。
どうも、お世話にならされる子です、不束者ですが、どうぞお手柔らかに。
「俺は、陰田蒼といいます…よろしくお願いします…」
「蒼くんねぇ…なかなかな色男じゃん、あっ、私は奏、音色の母、清水
なんというか…陽気で元気な挨拶だった。
人様の母をミカちゃんと呼ぶ勇気も度胸も肝が据わっていない。
この人は…明るすぎる。太陽のようだ。
俺とは正反対だ。俺が陰なら、この人は陽、マイナスなら、プラスだ。
第一印象として、俺が苦手なタイプだ。
「あっ、陰田くん!今、私のこと苦手なタイプだなって思ったでしょ?」
実歌さんは、ズバリと言い当てた。
「なっ!なぜわかったんですか?」
驚いた。
この人は俺の思考がわかるのか?
心を読んだというのか?
もしかして、特殊能力的なものを持っているのだろうか?
「そりゃ、わかるさ…だって大人だもの」
実歌さんは、ニヤッと笑って髪を巻き上げた。
その、仕草はカッコをつけて表現すると、儚くも美しかった。
大人だからわかるということが、俺にはわからなかった。
「大人だからですか…?」
「そう、陰田くんが思ってるよりも大人って凄いんだよ?陰田くんみたいな、子供の考えることなんて手に取るようにわかる。伝わってくるのさ」
解説を聞いたところで、やっぱり、さっぱり1マイクロメートルも理解できなかった。
理解できないのも、子供だからなのか。
「私が言っている意味がわからなくともいい。まだ、子供だもの、わからなくて当然よ。だけど、焦らないで、陰田くんも大人になればそのうちにわかるから…」
うん。何を言ってるんだろう…大人になれば、わかるそうなので、気長に待つことにしよう。
正確にいえば、今16歳なので成人と呼ばれる18歳までの約2年間。
2年間なんてあっという間に、過ぎるだろう。
「あっ、俺の母がお世話になるので挨拶をしたいとのことで、電話していいですか?」
「ああ、構わない」
てことで、真由美さんに繋がった電話を実歌さんに、渡した。
「もしもし、清水実歌です……いえいえ、お聞きしたところ、こちらも娘が陰田くんに迷惑をかけたみたいですし…迷惑だなんてとんでありません…はい、はい、ええ、大丈夫ですよ。はい、でわ失礼します」
真由美さんと電話をしている実歌さんは先ほどまでと別人のようだった。
これが、言っていたように大人というやつだろうか。
俺はその時、うちの娘と実歌さんが言ってしまっていたことに気づいてはいなかった。
「蒼くん、くれぐれも迷惑かけないようにね」
電話を俺にかわって、電話越しに真由美さんが言う。
「わかってるよ、じゃあ」
電話エンド。
「では、お母様、私がお作りしたカレーがござます…お食べになるでしょ?」
「今日はカレーか、そうだなお腹も空いたことだしいただこう」
「はい!」
実歌さんは、食卓のテーブルの椅子に腰を下ろした。
座ると、ふーっと息を吐き出し大きく背伸びをした。
大分、仕事でお疲れなのだろう。
「君も座りたまえ、少しお話をしよう」
実歌さんはソファーに座らせていただいている俺に言った。
座りたまえとは、デーブルの椅子に座れという意味だろう。
俺は,言う通りに実歌さんの向かいに座った。
「じゃあ、私はお風呂に入ってくるね」
奏は、そう言って風呂場へと向かって行った。
「あっ、陰田くん!くれぐれも覗かないでね!」
リビングを出ていく際にこちらを振り向いて俺に忠告した。
「覗かねーよ」
俺はそう返した。
俺は覗きをするような、変態ではない。
覗きたい気持ちが1ミリもないかといわれると、無いわけではない。
だが、してはいいことと、いけないことの区別ぐらいできる。
「フフ…なんだぁ、覗かないのか?」
実歌さんは、ニヤついていた。
「覗きませんよ…ってか、普通に覗きは犯罪でしょう」
覗きとかくだらないことで捕まりたくない。
今は未成年なので、正確には捕まりはしないが、学校は退学になる可能性がある。
親にも迷惑をかけるしな…
「女の子の風呂を覗く…それは、男の子にとってのロマンではないのか?」
なんだその、偏見と勝手な価値観に溢れたロマンは?
たしかに、普通の男子だったら覗きはそういうものかもしれない。
だが、俺は違う。舐めてもらっちゃ困る。
「いえ、興味がありませんね」
俺は伊達メガネをクイっと上げた。
もちろん、嘘だけど。少しだけは興味があるけど…
だけど俺は普通の男子共と違って紳士だ。
そんなハレンチなことはしない。
「なるほど、君は普通の男子とは違うと思いたいのだね」
また、俺の心の声が読まれた。
もしかして、知らぬ間に心の声が漏れているのでは?と自分を疑いそうになる。
「安心したまえ、君の心の声は決して声明とかしてはないさ」
と、当然のごとく俺の心の声を言った。
さすがは、大人。
これが、大人というものなのか…
俺の全て見透かしている。
「どうぞ、お母様!」
音色が、実歌さんの前にカレーを置いた。
「ん、ありがと音色」
「お母様、ビールも飲みますよね?」
音色は冷蔵庫から、ビールを取り出して実歌さんに渡した。
「サンキュ!」
実歌さんはプシュと、缶ビールを開けてグイッといった。
「かぁー!これは、天使的だぁ〜!!」
悪魔的ではないのかよと心の中でつっこんでおく。
ビール飲む姿は想像通りだった。
「こんなもんだよ、大人はねぇ〜」
「はぁ…」
何というべきか…子供の俺には思いつきもしない。
「仕事が終わった後の楽しみはビールと娘の笑顔だけだよ…思ったよりも単純なものだと思わない?」
と、実歌さんは言いビールを飲んだ。
単純なものでも楽しみがあるだけマシだと思うのは変だろうか。
はたまた、そう思うのは子供っぽいだろうか。
俺にはラノベ読むことぐらいしか楽しみがないため、少しだけ羨ましくも思う。
「大人になるとね、つまんなくなるもんだよ…ハメを外せる君たちみたいな子供の頃が1番楽しいときだと私は思うね。だから、今を精一杯楽しまないと損だと思うよ」
そんなものなのか。
俺は子供のときの方が、つまらないと思っていたが大人の方がつまらないというのか。
人生の先輩である人が言っているので、信憑性はあるだろう。
「お母様は毎日楽しそうですけどね…」
実歌さんの隣に座っている音色が言った。
「毎日を工夫してわざと楽しくしてるんだよ…じゃないと、生きてけないさこんな世の中」
実歌さんはそう言ってカレーを頬張った。
相変わらず、清水家の人は激辛カレーを平然と食べる。信じられない。ひょっとして、俺が辛味に弱すぎるのだろうか?と自分自身を疑ってしまう。
「陰田くんは、毎日を楽しんでいるかい?」
実歌さんは、俺に問う。
「まあ…ほどほどには…」
俺は今のところほどほどに生きているつもりだ。
「ふ〜ん…自分を偽ってもかい…」
「はい?」
「いや、なんでもないよ…聞き流してくれ」
俺はその言葉を聞き流した。
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