第28話 子供扱い

 俺は清水にカレーをぶっかけられてから、今はシャワーを浴びている。

 つまり、カレーを浴びた後にシャワーを浴びているのだ。


 俺は必死に断ったが、カレーをつけたまま帰すわけにはいかないと2人から言われたため仕方なくシャワーを借りた。


 女の子の家のシャワーを浴びるなんて…なんか、それこそ変態のようだ。


 「蒼様、何か問題はございませんか?」


 「うわっ!」


 また、驚いてしまった。

 急に話しかけられるのは苦手だ。


 声の主は清水奏の妹こと、清水音色だ。

 風呂のドア越しに話しかけてきた。


 「ああ、お前のカレーが髪にこびりついていること以外は問題ない」


 「それはそれは、大変ですねぇ〜フフ…」


 コイツ、笑ってやがるな。

 その心、笑ってるね!


 「全く、お姉様ったら本当に天然というか、おっちょこちょいなのです」


 「ああ、カレーが冷めていたのは不幸中の幸いだ、もし、熱々だったら火傷してたぜ」


 「無駄に運がいいですね…」


 「無駄は余計だ…それより、悪いなシャワーまで借りて」


 「いえ、カレーをぶっかけてしまったんですから、当然でしょう。あっ、シャンプーなど、どれでも使っていいですよ」


 「ああ、わかった」


 ジャンプーは2種類あった。


 「2種類あるでしょう?それぞれ、私と、お姉様が使っているやつです」


 「なっ!」


 それをわざわざ言う必要があるのか?

 

 「どちらを選びますか?」


 「えっ…どっちがどっちだかわからないし…」


 「左が私で、右がお姉様のです」


 たしかによく見れば、左は子供ぽく可愛いキャラクターが描かれていた、右はよくTVのCMで見るような大人のやつだった。


 「さあ!どちらを選びますか!私か、お姉様か!」


 「俺は……」


 「俺は?」


 「音色、お前のを使う!」


 「うっし!!」


  うっし?あの敬語しか言わない音色が言わないような言葉が聞こえたが…空耳か。


 「なぜ、私を選んだのです?」


 「そりゃ、同級生の使うより、音色みたいな子供のやつを使った方が気が楽だろ?」


 「はぁ?誰が子供ですか!失礼ですね!一応私は中学2年生ですよ!?あなたと2歳しか違いません!」


 「中学2年生としては、子供っぽい見た目だよなぁ…とても、たった2つしか違わないとは思えないぜ」


 俺は先ほどまでの音色からうざい仕打ちの腹いせに言ってやった。


 「くっ!いいでしょう!そんなに言うなら見せてあげますよ!!」


 「見せてあげるって…?」


 その、15秒後風呂のドアが開かれた。


 ドアを開いたのは、もちろん音色だった。

 音色は裸にタオル一枚というなんともはしたない格好だった。

 もちろん、タオルでほぼ体を隠した状態だ。


 「な、ななな、なんで入ってきた!!?」


 俺はとっさに、あの部分を手で隠した。


 「蒼様が貧相な体と罵るからですよ…一回見せてやらないと蒼様はわからないと思うので!それに、ここは私の家です。好きな時にシャワーを浴びてもいいでしょう?」


 「だ、だかなぁ!俺のプライバシーはどうなる?!完全に俺を放棄した考えだろ!」


 「なにか、まずことでもあるのですか?だって、と一緒に入るぐらいできるでしょ?」


 「いやいや…でもでもでも!」


 「はぁ…落ち着いてくださいよ…」


 と、俺の隣にバスチェアを置いて座った。

 狭い!風呂の広さはごく一般的なため、2人が横並びで座るとなるとほぼ密着した状態になる。


 「まだまだ、髪にカレーがこびりついてますよ…仕方ありませんね…」


 そう言って、音色は俺の背後に回った。

 

 「ジャンプーをとっていただけますか?」


 「えっ?何をするおつもりで?」


 「……髪を洗ってあげますよ…それ以外何をするというのですか…」


 「どちらを…」


 「もちろん!子供っぽい!私ので構いませんよ!」


 「はい…わかりました」


 音色は結構怒っているようだ。

 そんなに、子供っぽいと言われたことが嫌だったのか?


 俺は言うとうりに、音色にジャンプーを渡した。

 音色は俺の髪を手際よくわしゃわしゃと、丁寧に洗ってくれた。


 「そこまで、してくれなくても…」


 「いえ、ご遠慮なさらずに…元はお姉様が悪いですし、第一蒼様が洗ったところで全て綺麗には取れないでしょ?だから、私が綺麗に全て洗ってあげますよ」

 

 「じゃあ…任せました」


 「ええ、素直にそう言えばいいのです」


 「なぁ…音色」


 「なんでしょうか?私の体を見て興奮している蒼様?」


 「興奮してねーよ!」


 は、嘘だけど…

 俺の義理の妹の美来よりは、多少は興奮するのは認めよう…


 「そうですか?その割には鼻息が荒いように感じますが…」


 「なっ、俺は無意識に鼻息が荒くなっていたのか!?」


 「嘘ですよ…騙されましたね」


 「この、クソガ…ゴホン!」


 「今、何と?」


 「いや、別に?なんでもありませんが?」


 「そうですか…で、先ほど私に何を聞きたかったのですか?」


 「ああ、子供っぽいって言ったことに怒ってんのかなーって」


 「も!ち!ろ!ん!怒ってなんてありませんよ〜」


 そう言って、音色は俺の髪を引っ張った。


 「痛てて!やっぱ怒ってんじゃねーか!」



 「はい、流しますよ」


 しばらくして、音色は俺の髪についたジャンプーを洗い流してくれた。


 「どうですか?綺麗になったでしょう?」


 俺は諸事情により手で髪を触って確認することはできない。

 なので俺は、鏡で自分の髪を確認した。

 先ほどまでついていた、カレーはさっぱり消え去っていた。

 匂いも残ってなく、完璧に等しかった。


 「おお、さすがだな!」


 「当たり前でしょう!音色様に任せればこれぐらいちょちょいのちょいですよ〜」


 音色は鼻を高くしてご機嫌そうだった。

 適当に褒めれば機嫌を直してくれる…やっぱ音色は単純で純粋な子供だ。


 「髪も綺麗になったことだし…俺は上がらせて…」

 

 「はい?」


 俺が立ちあがろうとしたとき、音色に両方肩を掴まれた。

 とてつもなく強い力だった。

 俺はその力に逆らえなかった。


 「私の髪を洗ってくださいよ…」


 「えっ?」


 「私は蒼様の髪を洗ってあげました!なので次は蒼様が私の髪を洗う番です!」


 そう言って、音色は俺に背中を向けて座り直した。


 「等価交換かよ…」


 「等価交換です…人は助け合う生き物ですよ?」


 「わかった…あっ…」


 待てよ…俺が音色の髪を洗うということは、当然手を使う。

 手を使わなければ髪を洗うことができない。

 すなわち、それが意味することは…今、俺がある部分を隠しているものが無くなるということだ。

 それは、まずい、まずすぎる。


 「早くしてくださいよ〜」


 「おい、一つだけ約束しろ」


 「なんです?」


 「絶対に、俺が許可するまで俺の方を向くなよ!」


 「わかりましたが…なぜです?」


 「理由は絶対に教えらない…だが、約束だからな!絶対に俺の方を見ない!」


 「はいはい、約束しますよ、信用ならないのなら誓約書にサインでもしましょうか?なんなら、誓いのキスでもしますか?」


 「そのセリフは聞いたよ…」


 「私のお決まりのセリフですから…」


 俺は手にシャンプーをつけ、わしゃわしゃと音色の髪を優しく洗った。

 人の…ましては、女の子の髪なんて洗うのは初めだ。

 うまく、洗えているかどうかわからない。


 「蒼様…洗い方がいやらしいですね」


 「ええっ…俺なりに優しく洗っているつもりだったが…」


 「もう蒼様はレディの髪を洗うのが下手ですね…」


 「だって、初めてだから仕方ないだろ?」


 「まあ、長年女の子と無縁の人生を送っている蒼様が下手なのは、この世の理ぐらい当たり前なことでしたね…イギャア!」


 つい、腹が立って音色の髪を引っ張ってしまった。


 「痛い、痛いですよ!蒼様!」


 「ああ、悪いな、俺は髪を洗うのが下手だからなぁ〜」


 「もう…十分ですよ、流してください」


 「ああ、わかった」


 俺はシャワーで音色の髪についたシャンプーの泡を洗い流した。


 「さて、次は体を洗いましょうか」


 「いや、俺は髪を洗えればそれでいいんだが…」


 「だめです。カレーは服にだってガッツリと着いてましたでしょう?しっかり体も洗ってください」


 でも、どうやって洗えばいい?

 

 「さすがに、体を洗うところを見られるのは恥ずかしいので…お互いに反対を向いて洗いましょう」


 「ああ、そうだよな、もちろんだ!」


 よかった。それなら、洗うことができる。


 それから、俺と音色はお互いに反対を向き、体を洗った。

 もちろん、シャワーは順番に使った。


 「さて、上がりましょうか」


 そして、ようやく地獄のようなはたから見れば天国のようなシャワータイムが終わりを告げた。


 「私が、先に上がるので、蒼様は私がいいと言うまで待っていてください」


 「ああ、わかった」


 「では…」


 と、音色は立ち上がり風呂場を出ようとしたときだった。


 「きゃあ!」


 「危ない!」

 

 音色は見事に足を滑らせ、転んだところを俺はなんとか、受け止めた。

 

 「痛てて…大丈夫かって…」


 俺が目を開くと音色の幼くも美しい裸体が目に飛び込んできた。

 転んだときに、タオルが取れたのだろう。


 それを見た。

 いや、見てしまった。

 悪気とか、悪意はなく、ただただ偶然見えてしまったのだ。


 「あああ……」


 「音色…これは事故…」


 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 音色は鼓膜が張り裂けるほどの悲鳴を上げたのだった。


 俺は音色の体を見て、より子供っぽいな思ったのは内緒だ。


 「ちょっと!大丈夫!あおいく…ん?」


 勢いよくドアが開かれ、俺は心配して駆けつけた、清水奏と目が合った。


 「あっ…清水…その…これは、事故です…」


 気づいたときには時すでに遅し。

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