第22話 やられた

 さてと、九頭竜坂をぶちのめせてストレスも発散できたし、早いところ撤退しよう。

 おいとまさせてもらうとしよう。


 「あ……あなたは…」

 

 おっと…

 清水が何か察してしまう前に逃げよう。

 そう思って、走って逃げようとした矢先だった。

 

 バタン!

 そう聞こえて、振り返ると清水が気を失って倒れていた。

 硬い地面に体を貼り付けるように倒れていた。


 安堵したからなのか…ただの疲労によるものかはわからないが気絶した。

 気を失って倒れたのだ。


 どうしよう…

 このまま、さっさと立ち去りたかったのだが…逃げたかったのだが…


 気絶した清水を放っておくのもまずい気がする。


 というか、この状況を人に見られると100%俺が悪いように見えるだろう。

 気絶する2人…おかめの仮面をつけた怪しい俺。

 うん…間違いなく即通報されてしまう。

 もし通報されて、警察に捕まれば、めでたく人生が終了してしまう。終幕となる。

 明日のニュースに「おかめ仮面の不審者」と流れてしまう…

 それだけは避けなければならない。


 俺は仕方なく、気絶する清水をおんぶし、その場を逃げるように退散した。

 

 九頭竜坂に関しては放っておいた。

 まあ、あとは自力で頑張れ…


 結構重いな…俺は率直にそう思った。

 たしか、清水は大食いだったはず。そのせいなのかは、わからないけど見た目より重く感じている。


 重さに関してはギャル系美少女こと早乙女の方が少しだけ軽い。

 まあ、微々たる差だけど…誤差だけど…


 俺の背中に当たる柔らいものについては触れないでおく。(話さないでおくという意味だぞ?触るとかじゃないぞ!)


 さて、清水をおんぶしてあの場を去ったのはいいが、清水をどこに運べばいいのやら。

 清水をおんぶして、適当に歩くとこと約1分。

 俺はどうしようかと悩んでいた。


 やっぱり、病院に運ぶのが1番か?

 だが、おかめの仮面を着けた俺が連れて行くとなると、通報される恐れがあるし…と考えていたときだった。


 「えい!」


 気づけば、俺が着けていたおかめの仮面が外された。

 おんぶしていた、清水に外されたのだ。

 不意打ちだった。


 「なっ…えっ!?」


 「あ〜!やっぱり陰田くんだ!」


 清水はそう言った。

 俺の正体がバレてしまった。

 

 「清水…気を失ってたんじゃ…?」


 「フフ、騙されたね!気を失ったフリでした〜」


 はぁ?!

 清水は思ったよりも元気そうだった。

 まるで子供のようにドッキリ大成功〜!と言わんばかりに…

 

 「なんでそんなことを?!」


 「だって、陰田くん、こうでもしないと逃げるでしょ?」


 なるほど全てわかった。

 清水は俺の正体を掴むために、俺を逃がさないためにわざと気を失ったフリをしたというわけか…

 やられた。

 俺は清水に見事に騙されたのだ。


 「全く…おかめの仮面なんて着けて変装してたなんてね。そんなに隠したかったの?」


 「そりゃ…あとから九頭竜坂に目をつけられたくないからな」


 正確には九頭竜坂以外にも…特に清水とか…


 「それにしても、なんでおかめの仮面なの…?ほら、もっとかっこいいやつの方がよくない?例えば鬼の仮面とか?!」


 おかめの仮面は俺のセンスではない。

 今朝、この仮面を渡してきた鬼介のセンスだ。

 名前に鬼と入っているのに、なぜかアイツはおかめの仮面を渡してきたのだ。


 「そんなことより、もう元気なら下すぞ?」


 てっきり気を失っていると思ったから清水をおんぶしているわけで、元気ならばおんぶする必要はない。

 さっさと降りていただきたい…


 「待って…」


 清水が、そう言って俺にしがみつく力を強める。まるで、絶対に離さないと言うように。


 「もう少しだけ…このまま…」


 俺が降ろそうとしたところで、どうせ意地でも降りないだろうから仕方ない…

 

 子供かよ…俺はそう思った。


 「もう少しって、どのくらいだよ?」


 人によって少しは違う。

 俺の少しは1分か2分程度だ。


 「その…えっと…家まで…」


 「はぁ?」


 清水の少しは時間ではなく、距離だった。


 このまま、清水をおんぶしたまま清水の家まで行けと言うのか?

 わがままもほどがある。

 俺がそこまでする道理も理由もない。


 嫌だ!断固拒否する!と言いたいところだが…今日だけは清水の望み通りにしてやることにした。

 まあ…聞きたいこともあるし。


 清水の家はここから30分ほどで着くそうだ。

 清水をおんぶして30分歩くのは結構キツそうだが頑張るとしよう。


 俺の体よ…もってくれよ!

 

 「しょうがない…家までだからな…」


 「本当!やった!」


 「というか…清水…お前結構重いな…」


 「にゃ!?重い!!?陰田くん女の子にそんな禁句を言うなんて!」


 清水は俺の頭をポコポコ叩いた。

 たしかに、女の子に対して体重のことを言うのはまずかった。

 女の子にとって、体重とはデリケートなことだ。

 つい、無意識に悪気なく言ってしまった。

 

 「ごめん…重くないよ」


 一応、ワンチャンの訂正をしてみる。


 「今更、撤回しても遅いよ!それに、重くないって言われても嘘にしか聞こえないよ!」


 「フッ…」


 やっぱ無理だった…


 「あっ!笑った!陰田くんが私に笑った!」


 つい笑ってしまった。

 こんな、元気な清水を久々に見たからだろうか。なんだか、拍子抜けした気分だ。


 清水は頬を膨らませている。


 「いや、清水が元気だなぁってさ…」


 「えっ?」


 「だって、ここ3日間は死んだような目をして、体調悪そうに、顔色悪く沈んだようだったぞ?」


 隣の俺が見る限りそうだった。

 清水は生気を失ったようだった。

 だが、それを必死に隠して、平気を装っているのも同時に見えた。


 「あは…バレちゃってたんだ…なるべく出さないようにしてたつもりなのに…」


 「バレバレだよ、俺だけじゃなく天野にも、勘づかれてたぜ」


 「そっか…天野さんにもかぁ」


 清水は少し残念そうに言った。

 まあ、あの状態で隠し通す方が難しいと思うが…


 「なあ、清水…なんで…」


 「なんで、九頭竜坂くんと付き合ってたか…でしょ?」


 俺の言葉の途中で清水が割り込む。


 「いや、それは九頭竜坂のことだし無理矢理だったんだろ?清水の意志ではなく、強制的だった…だろ?」


 「そうだけど…なんでわかるの?」


 「そりゃ、その様子を見れば大体察するよ」


 誰がどう見たって、ラブラブのカップルには見えない。

 学校でもほぼ関わってなかったし、あの喫茶店の様子や、先ほどの光景を嫌でも見ればそう思うだろう。


 「そっか…」


 「で、俺が聞きたかったことは————」

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